気持ちがこもる「花マントー」
旧暦の正月15日、渭南地区は大雪だった。この日、華県杏林鎮李家坡村のある農家がちょうど嫁をもらうところであった。花嫁を迎えに行った花車が帰ってきた。にぎやかな音楽が喜びの雰囲気を盛り上げ、新郎の親戚や友人が玄関に集まる。新郎側の介添えの女性が車にかけよりドアをあけ、お盆の上の小麦粉で作ったペアの虎の形の「麺花(小麦粉で作った菓子)」を花嫁の首にかけ、花嫁をつれて玄関前に置いてある椅子に座らせた。この時爆竹が四方で鳴り、新郎が急いで駆けて行き花嫁を体でかばう。爆竹が鳴り止むのを待って、花嫁を家に迎え入れる。
ふつう花嫁が新郎の家に入ると虎の麺花をつけられ、爆竹を鳴らす。隣の県では火鉢を跨ぐ。いずれも邪気を祓い二人の幸せと健康を祈る意味がある。
|
|
クルミ、ナツメ、クリ、落花生は子宝に恵まれるというめでたい意味がある。ゲームでこれらを「奪い取る」 |
ペアの虎の形の麺花を花嫁に飾る |
新郎の家の庭は本当ににぎやかだ。臨時に掛けた日除けの下に丸テーブルが十幾つきちんと並んで、親戚友人や村の女性たち、若者が料理人の手伝いをして野菜を洗ったり切ったり、鍋や食器を洗ったり、宴席の準備にいそしむ。新郎新婦の部屋のリビングルームが式典の会場である。その正面の壁に貼られているのが大きな赤い「喜」の字で、机の上は親戚や親友が送ってきた麺花でいっぱい。その中の最大の二つは、「大谷巻」という。虎の頭、龍の体、魚の尾の形をしていて、上下に何種類の花や果物、動物の形をしたものが添えられている。この「大谷巻」は結婚式で一番尊い客――新郎の母方の叔父からもらったものである。新郎に何人もの叔父がいれば、いくつかの「大谷巻」がもらえる。「大谷巻」の上には何百もの小さい小麦粉人形が挿してあって、いつでもはがして子どものおもちゃにできる。
村の人によると、昔の華県では結婚式場の両側に「高盤」を飾る風俗もあったという。普通は主人の直系親族からもらう。「高盤」は、コウリャンがらで柱のようなものを作り、その外側を赤い紙で包み、このコウリャンがら柱に、赤い糸に巻きつけられた箸を9層か11層挿す。その箸にさまざまの形の麺花が縛られる。蝙蝠の形の麺花は「福は内」の意味の「福喜臨門」で、蓮花瓶の形は夫婦が仲良くして早く「子どもを授かるよう祈る」意味の「平安如意」である。
|
|
親戚からもらった小さい麺花 |
新郎の母方の叔父から送られた「大谷巻」。もっとも美しい |
一つの「高盤」の上の麺花はおよそ五十キログラムもあり、俗称「四斗麦」といわれている。「高盤」は、陝西地方の結婚風俗の奇習といっても過言ではない。
麺花は、いろんな形の「花マントー(花饅頭)」であり、また「礼」とも呼ばれている。食べるだけではなく、人々の気持ちや期待をこめてやりとりする贈り物でもある。黄河流域の農村では麺花を贈る民族風習が普通に見られる。これはある一家が大きなイベントをする時の食べ物にもなるし、美しい飾りにも費用の節約にもなる、特別な意味をこめたものなのである。渭南地区では、出産から結婚、長寿の祝い、葬式など、人生の儀礼活動それぞれにちがった麺花があり、人間関係のバロメーターや美しい祝いにもなるという。
昔は農村の女性は誰でも麺花を作った。その出来のよさで、あの嫁は賢くて手も器用という評判が立った。今では農村生活のリズムも変わり、若い女性も出稼ぎに出て、麺花を作ることのできる人はますます少なくなった。人々の昔を懐かしむ気持ちを、今やビジネスチャンスに結びつけるものも現われた。「花マントー(花)」が必要であれば注文して買えばいい。都市部の人もお土産やコレクションとしてよく買って帰るそうだ。
|