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民俗文化と武術の里──勝芳鎮

北京大学国際関係学院教授

国際アジア民俗学会常務理事 賈蕙萱=文・写真提供

修復された牌坊

北京と天津、河北省の保定を結ぶ三角形の中心に、勝芳鎮という古い鎮がある。一見、どこにでもある田舎の鎮だが、そこには長い歴史に培われた特有の民俗文化がいまも息づいている。各家に代々伝わる音楽や武術は、多くの若者たちに受け継がれ、毎年春節(旧正月)に開かれる「花会」で芸と技を競う。

中国をはじめアジアの民俗学専門家たちは、勝芳鎮に伝わる民俗文化を重視し、調査と研究を進めるとともに、鎮政府にその保護を働きかけている。

いまも残る水郷の風情

勝芳鎮は河北省覇州市の下にあり、常住人口は約9万人、2500年ほど前の春秋時代末期から続く古鎮である。白洋淀という浅い湖の東側に位置し、「東淀」と呼ばれている。穿心河(勝芳河)と中亭河が流れ、堤防や埠頭が築かれ、水郷として発展してきたので堤頭村と名づけられた。

北宋(960~1127年)の時代に、詩人の蘇東坡の父である蘇洵が勝芳鎮に赴任し、南方の水稲やハスなどの栽培を伝えた。その後、商工業が栄え、勝芳鎮と名前を改めた。

勝芳鎮はよく蘇州や杭州のように美しいと言われる。昔の詩に「水則帆檣林立 陸則車馬喧」と詠われるように、水上には船の帆柱が林立し、陸上は車馬の響きが喧しかったようだ。清の乾隆帝(在位1736~1795年)は3度も勝芳鎮を訪れ、「南游蘇杭 北游勝芳」(南に蘇州杭州に遊び、北に勝芳に遊ぶ)の名句を残した。

悠久の歴史を持つ勝芳鎮だけに、古い建築物も数多く残っている。戯楼(舞台)、牌坊(鳥居形の建物)、文昌閣は勝芳鎮の「三宝」と言われ、とくに文昌閣は宝塔の高さが4メートル余りあり、かつては河を行く船の航路標識の役目を果たしていた。

勝芳鎮に伝わる飾り提灯は、全国にその名を知られている。すべて手作りで、葦や竹、繻子、緞子など自然の素材を使い、金属は一つも使わない。飾り提灯の種類は2000以上もある。

文化の基礎は経済にある。河北省の冀中平原で最初の金融業や天津西部でもっとも古い郵便業はみな勝芳鎮から興った。勝芳鎮の人々は商機をつかむのがうまく、豊かになった庶民が多数輩出した。彼らは寺院や建物を修復し、橋や道を直し、繁華な市街を後の世に残した。

かつてここには8つの豪邸があったが、現在残っているのは「王家大院」と「張家大院」の二つで、180年あまりの歴史がある。「大院」の梁や柱の彫刻や絵画、名句の「対聯」などから、当時の文化的な薀蓄や経済的繁栄を偲ぶことができる。

「文会」と「武会」が伝える民俗文化

しかし、勝芳鎮の最大の特色は、豊かな民俗文化の無形遺産にある。鎮の芸能大会とも言うべき「花会」は、600年以上の歴史があり、大いににぎわう。「花会」は毎年、旧暦の正月12日から16日まで開催される。

古代から伝わる音楽の演奏

「花会」は「文会」と「武会」に分かれている。「文会」は各種の文芸が上演され、「武会」は武術と関係する各流派の演技が行われる。「花会」には文武を合わせて72の流派が集うので「72道会」とも呼ばれている。

「文会」の中でとくに注目されるのは、鎮の南と北の二つの音楽会である。南で演奏される音楽は、商(殷)代(紀元前1600~前1046年)にまでその起源をさかのぼることができ、国家クラスの無形文化遺産として、最初に認定された。

また北の音楽は、「古代芸術の生きた化石」と言われる。「冀中笙」や「管(管状の楽器)」「雲鑼(十数個の小さな銅鑼を数列に並べた打楽器)」などを用いて、古代楽譜である「工尺譜」によって演奏され、7つの異なる音の高さを出すことができる。これは中国の伝統音楽の中できわめて珍しい。

「武会」には厳格な決まりがあり、各流派は定められた順番通りに並び、礼儀正しく、演技を行う。

武芸や音楽、踊りなどは、それぞれの家に代々受け継がれているが、次の世代に伝授されるときには、規則や道徳の教育がまず重視され、その後、厳格な技や芸の訓練が施される。こうして伝承された武芸や音楽などの公演は、すべて無料で行われる。

「花会」の開催中、勝芳鎮の住民は一家そろって街にくり出すが、周辺に住む人々も、歩いたり、船や車に乗ったりしてやってくる。

このように、勝芳鎮の長年蓄積された濃厚な伝統文化は、民俗学の専門家たちの注目を集め、学者や学生たちが現地調査を行っている。民俗学研究者による国際アジア民俗学会は、2008年6月には、勝芳鎮を「民俗文化調査研究基地」に指定した。また同学会は鎮政府と協力し、勝芳鎮を「中国伝統文化の郷」「アジア伝統武術の郷」として選定されるよう申請している。

 

人民中国インターネット版 2010年5月

 

 

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