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水上に造られたたった一つの万里の長城

横堀克己=文  原絢子=写真

世界最大の建造物である万里の長城。中国の大地をうねうねと連なって、果てしなく続いている。その中で、たった一つ、水の上に造られた長城があることはあまり知られていない。中国・東北部にある「九門口長城」がそれである。清軍の長城突破や軍閥戦争の舞台となったこの長城は、戦火による破壊から修復され、いま、かつての威容を誇っている。

なぜ川の上に造られたのか

万里の長城は春秋戦国時代(紀元前770~同221年)から建設が始まった。秦の始皇帝の天下統一後、すでに造られた長城がつなぎ合わされ、基本的に完成した。その後の王朝も長城建設を繰り返し、明の時代(1368~1644年)に現在の姿となった。

長城は、北方騎馬民族の侵入を防ぐことを最大の目的としていたから、その建設方針は「遇山而断 遇水而絶」であった。つまり騎馬が越えられない高山や大河には長城は造られなかったのである。  しかし、遼寧省綏中県にある「九門口長城」だけは、九江という川の上に建てられている。このため「九門口水上長城」と呼ばれる。城の関所の長さは約110メートル、幅23メートルで、高さは水面から6~7メートルあり、9つのアーチ型の水門がある。かつてはこの水門に木製の扉があったというが、今は失われている。

川の上に再建された「九門口長城」

関所の両側は丘陵が迫り、そこにも長城が造られて、水上の長城と連結している。さらに有名な「天下第一関」と呼ばれる山海関(河北省秦皇島市)ともつながっている。

「九門口長城」は明の洪武14年(1381年)から建設が始まった。もともとここは北京に通じる交通の要衝であり、水の中に平らな巨石が敷き詰められていたので「一片石」と呼ばれていた。この石の上に建てられた「水上長城」は「京東首関」と呼ばれた。

なぜこの長城だけが唯一、水上に建てられたのか。それはここの川が浅く、騎馬の軍勢が容易に侵入できるため、これを防ぎ、都を防衛する必要があったためだと言われている。  「九門口長城」には実は「秘密のトンネル」が掘られ、現在も残っている。長城の内側にある練兵場から関所を通らずに長城の外側にある山の中に出られる全長1027メートルのトンネルである。トンネル内には大小29の洞があり、食糧庫、弾薬庫、兵器庫、井戸などがあり、2000人以上の兵士が密かに暮らすことができる。

明末、李自成に率いられた農民武装蜂起が起こった。北京が陥落し、崇禎帝は自殺して明王朝は滅亡した。このとき、北方の清軍と対峙し、山海関一帯を守っていた明の総兵、呉三桂は、いったんは李自成軍に降ったが、李軍の将の劉宗敏が愛妾を強奪したことに激怒して反乱を決意、清軍をトンネルに引き入れたという。清軍はトンネルを通って突如、李自成軍の後方に出現し、これを挟み撃ちにした。このため李自成軍は大敗し、清軍は一挙に北京に進攻し、占領した。これが「一片石の大戦」である。「九門口長城」をめぐる戦いは、明王朝の滅亡につながった。

破壊され、そして再建される

北京につながる戦略的要衝であるため、「九門口長城」は清朝滅亡後には軍閥戦争の舞台となった。

1922年、北京や河北省などを支配していた直隷軍閥の曹錕と東北部を支配下に置いていた奉天軍閥の張作霖が軍事衝突し、第一次奉直戦争を起こした。この戦いは直隷軍閥の勝利に終わったが、1924年に再び起こった第二次奉直戦争では奉天軍閥が直隷軍閥を破り、北京を占領し、段祺瑞政権をたてた。

9つのアーチ型水門。水の下は「一片石」が敷き詰められている

この二回の戦争によって「九門口長城」はひどく破壊された。さらに1984年にはここで、人民解放軍と国民党軍の間で激戦が展開された。

一連の戦火によって「九門口長城」は、関所と水門がすべて破壊されてしまった。残されたのは、高さ数メートルの基礎部分だけだった。しかしこの部分は、積み上げられたレンガとレンガの間を蜂蜜ともち米を混ぜたもので接着してあり、明代の建設当時の技術を知ることができる。

1985年、遼寧省政府は資金を集めて「九門口長城」の再建にとりかかった。そして関所やアーチ型の水門が昔のように再現された。2002年には国の一級文物に指定され、さらに八達嶺の万里の長城などとともに、世界遺産に認定された。

いま、中国各地で、万里の長城の再建や対外開放が進められている。「九門口長城」にも「年間約三十万人の観光客が来るようになった。外国人観光客も一万人くらい来ている」と九門口長城管理事務所の係りは言っている。

 

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