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若者の心とらえた「新しい昆劇」

 

新機軸の舞台衣装

有名な服飾デザイナー、郭培(写真・楊振生)

郭培は現在、中国のトップクラスの服飾デザイナーである。一昨年、彼女は300人近い刺繍の針子を率いて、昆劇『怜香伴』の服のデザインをし、百余りの、人も羨む舞台衣装を制作した。

昆劇『怜香伴』は、王翔が昆劇の創造と革新のために行ったもうひとつの試みである。『怜香伴』は清代初期の劇作家、李漁の手になる作品である。そのストーリーは――。

崔箋雲と曹語花という二人の女の子は、尼寺に線香を供えに行って知り合い、詩をつくり合って仲良くなった。二人は互いに慕いあい、さらに将来もずっといっしょに暮らしたいと思うようになった。そして二人は、范介夫という男のもとにいっしょにお嫁に行く方法を考えた……

香港の著名な演出家である関錦鵬(スタンリー・クワン)と服飾デザイナーの郭培、それにメーキャップ担当の毛戈平が加わったことにより、『怜香伴』は「オールスター」の陣容となった。これは他の業界の優れた人々が昆劇に参加し、昆劇に新鮮な血液を注入する新たな試みである。

舞台衣装のデザインのためにインスピレーションを求めて郭培は日本に行き、歌舞伎を観た。そこで彼女は、歌舞伎はテンポこそ遅いけれどもストーリーは面白く、歌は優美で、服飾は華麗であることに気づいた。歌舞伎と昆劇はそれぞれに魅力があるが、昆劇は詩や歌を重視するだけで、衣装や道具にはそれほど重きを置いてはいない。これでは視覚的に若い人たちを引きつけることはできない。演劇が好きな郭培は、自分が昆劇のためになすべきことは舞台衣装によって視覚的に素晴らしい舞台をつくり出すことだと思った。

「思想や内容の美しさは人の心を感動させ、音の美しさは朗々と響く声を耳で感じ、形の美しさは見る人の目を楽しませる」。郭培は昆劇衣装の「形の美」の創造と革新を望み、それによって昆劇の魅力を高めようと考えた。

郭培は彼女の「玫瑰坊」制作スタジオで、彼女のデザインのインスピレーションとそれを実現する要素についてこう述べた。

「『怜香伴』の衣装のデザインは、伝統的な芝居の趣を基本的に残すことです。昆劇が追い求めているのは、中国の古典的な含蓄の美しさです。だから私がデザインした衣装はみな、伝統的な立ち襟です。同時に視覚的な魅力を際立たせるために、袖にもかなり大きな手直しを加えました」

また、「柔らかな美しさ」の効果を求めて、舞台衣装には「紗」(目の荒い薄絹)と「綢」(目の細かい薄絹)を多く取り入れた。特に日本の「紗」は、色彩の魅力がすばらしく、それを使うことによって衣装は柔らかく、しなやかな美しさを呈する。伝統的な衣装に対して郭培は、大胆な改革と創造、革新を施した。例えば、一部のシーンの服装には、唐代の服装の「幅広い袖」を改造して使い、またあるシーンでは、袖の下に「流蘇」という房状の装飾を加えた。またあるシーンでは、伝統的な「水袖」を取り去った。このほか郭培は、小間使いに、スカートの裾を結んだ新しい舞台衣装を着させ、小間使いの活発さや面白さを表現した。

郭培のデザインは美しく、流行の色彩と青春の息吹が溢れていて、現代の若者たちから大いに歓迎された。

『怜香伴』の上演前、郭培は北京の「751時尚設計広場」で、昆劇衣装発表会を特に挙行した。話を聞きつけてやってきたファンや芝居好きの人、芸能記者は1500人以上に達し、大ホールは人でびっしり満員となった。「これも昆劇を宣伝するもう一つの形と言えるでしょう」と郭培は記者たちに微笑みながら言った。

保護と継承の難しさ

『牡丹亭』の1幕『游園』で杜麗娘を演じる坂東玉三郎(新華社)
世界の演劇史上、昆劇より古いのは、古代ギリシャ劇とインドのサンスクリット劇、日本の能である。だが古代ギリシャ劇はすでに存在せず、一部の文学作品として残っているだけだ。完全なインドのサンスクリット劇もすでに失われてしまい、一部のサンスクリット劇の舞踊と動作が、現代の各種の舞踊の中に残っているだけだ。日本の能は、もっとも幸運に恵まれている。日本政府によって「文化遺産」に指定され、芸術家は保護され、役者の養成計画も政府の財政的支援を受けている。

中国の昆劇をいかにして保護し、伝承するか。現在の中国では、ますます多くの人々が、地道な行動で昆劇の空洞化を阻止しようと呼びかけている。

白先勇のエリート路線は、創作者を養成し、大学生の観客を育てている。それは、貧しい子どもたちに教育の場を与えて育てる「希望プロジェクト」のようなものである。王翔の市場化路線は、経済的に実力がある観客を直接引き寄せている。それは、すぐに食べられるファストフードのようなもので、効果はすぐに現れる。

だが、昆劇の改革に反対する意見もある。北京大学の楼宇烈教授は、講座の中でこう述べている。

「昆劇はすでにその興隆した時期の歴史的使命を終えた。現在もっとも重要なのは保護と継承であり、昆劇が大衆芸術の一部門となるよう求める必要はない。昆劇のような歴史的な文化遺産は保護しなければならないものであり、当然、市場化され、近代化された文芸の形として広める必要はない」

こうした意見に対し名優の汪世瑜は違う見方をしている。彼は「歴史を縦に見れば、昆劇の勃興と生命力は絶えざる創造と革新にあった。後期の昆劇の衰退も、それが硬直化し、古い殻に閉じこもったからである。昆劇は変わることができないという言い方は、昆劇の発展をきっと妨げるであろう」

白先勇はこう言う。「昆劇には自ずからその美学がある。現在、すべての舞台が西洋の舞台となり、現代の舞台となっているのだから、現代の舞台を利用しなければならない。どのようにして古い芝居を現代の舞台に乗せるか、どのようにして現代の要素が古い芝居を妨げたり、その公演を破壊したりしないようにするか、それが最大のチャレンジだ」

白先勇は蘇州に800の座席の昆劇劇院を建て、観光客が昼間は蘇州の園林に遊び、夜は昆劇を鑑賞できるようにしたいと思っている。

昆劇『怜香伴』の1幕『大婚』で郭培がデザインした衣装。日本の歌舞伎と唐代の服装の要素を吸収してつくられた(写真提供・郭培「玫瑰坊」制作スタジオ) 昆劇『怜香伴』の女主人公のために郭培がデザインした衣装。昆劇の伝統的な「水袖」を幅広い「寛袖」に換え、軽やかで柔らかな女性の美を際立たせた(写真提供・郭培「玫瑰坊」制作スタジオ)

 

人民中国インターネット版 2011年5月

 

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