「男女の愛情には本来サスペンスの要素があるのです」
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キャロル・ライ監督プロフィール
キャロル・ライ(黎妙雪) 脚本家を経て、『ファーザーズ・トイ』(1998)で監督デビュー。同作は日本の「ぴあフィルムフェスティバル」でも上映された。その後、『金魚のしずく』(2001)、『恋の風景』(2003)が日本でロードショー公開された。『情謎』(2番目の女 The Second Woman)は、『地獄第十九層』(原題/2007)以来となる監督作品。
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3月8日の公開を前に、記者発表会のため北京を訪れた『情謎』のキャロル・ライ監督。日本でも女性を中心に支持される彼女に、新作についてインタビューしました。制作中になかなか情報が伝わってこなかった作品だけに、作品の説明を求めるような質問も多くしましたが、自然体な人柄で1つひとつの質問にていねいに答えてくれる姿が印象的でした。日本でも3月15日、16日に大阪アジアン映画祭で上映されますので、日本のみなさんもぜひお楽しみに。(聞き手=井上俊彦、劉玉晨)
スー・チーの演技を拘束した?!
――キャロル・ライ監督といえば日本では文芸作品で知られますが、今回の『情謎』(大阪アジアン映画祭で上映時の邦題は『2番目の女 The Second Woman』)はどうなのでしょうか。
『情謎』は商業映画ですが、少し違ったスタイルを持ちます。みなさんが商業映画をどう認識しているか分かりませんが、私の定義では商業映画は物語性が強いものです。ただ、だからといって『情謎』がストーリー重視で感情面が描かれていないというわけではありません。むしろ、非常に強く感情が表現されています。この作品では、香港伝統の粤劇(えつげき=広東オペラ)『再世紅梅記』を舞台劇に改編したものがストーリーに入っています。物語性は強いものの、芸術的色彩が濃く、文芸的背景も持っているのです。ですから、この作品はみなさんが理解しておられる商業映画とは異なる面を持っていると思いますが、それでも商業映画です。
――主演のスー・チーは1人2役で双子の姉妹を演じているそうですが。
実は、彼女は2役ではありません。劇中劇の登場人物を含め1人5役を演じているのです。ですから、とてもたいへんだったと思います。私は、彼女を『夢翔る人/色情男女』(1996年)から注目しており、その演技はずっと素晴らしいものだと思っていました。その後、ホウ・シャオシエン監督の作品『ミレニアム・マンボ』(2001年)『百年恋歌』(2005年)でも素晴らしかったですね。私は、彼女は良い俳優であるだけでなく、すごい役者だと思っています。この作品で私は、彼女に対して感情を表すだけではなく、テクニックも要求しました。しかし、テクニックだけで演じるなら、この役は生きた感じがしません。彼女はこの人物を生き生きと演じており、だからこそ見ている方は感動するのです。私の感じるところでは、彼女は単なる俳優ではなく、スターです。そして、芸術家でもあります。ですから、多くのシーンで単に脚本通りに演じるのではなく、自分の考えを持って演じようとします。しかし、今回の脚本の構成は非常に厳格です。私は彼女にあまりに多くの自由な空間を与えることはしませんでした、拘束したというか……。撮影時、私が彼女に最も多く発した言葉は「なぜ?」でした。一方、彼女は私に何度も「どうですか?」と問いかけました。彼女の意見を取り入れたところもありますが、ある部分は脚本を変えてはいけないと拒絶しました。私と彼女の関係は、卓球をしているようだったと思います。一種の相互作用です。
――監督から見て、彼女の魅力はどこにあるのでしょうか。
彼女は、まるで海のようで、何かはかり知れない感じを与えます。ですから、監督として私は毎回よく準備して見る必要があり、彼女はいつも何かを見せてくれました。いつも現場で彼女の演技を見ると、何かしらのサプライズがあったのです。
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記者発表会でプロデューサーのゴードン・チャンとともにステージに立ったキャロル・ライ監督 | ――一方、ショーン・ユーを相手役に選んだのはなぜでしょうか。2人は初共演となるそうですが。
この役は、いささかネガティブな面を持つ、難しい役です。ですから、この役を引き受けたショーンは勇気のある俳優だと思います。彼の特長は、とても現代的な青年である一方、古典的なものも備えてもいることです。この作品の中では、劇中劇で小生(若い、色男役)を演じなければなりませんが、彼ならできると思いました。この作品を見ると、とても感動的な部分があり、彼の演技の良さが分かると思います。彼は目に感情のある俳優です。
――ほかには、大陸のベテラン、実力派を配しています。
シー・メイジュアンをスー・チーの母親役で起用しました。私は彼女とあまりに雰囲気の違う俳優を母親として起用する気にはなれませんでしたから、シー・メイジュアンを選びました。彼女は若い時にはとてもきれいな女優さんで、今でもその雰囲気を持っています。チェン・シューは、劇中で芸術的人物を演じます。芸術的香りを持ち、舞台劇を演じられる優雅な俳優は、特に探すのが難しいのです。本当の基礎がないと説得力のあるシーンにならないからです。彼女を探し当てられたのは、私にとって本当にラッキーなことです。
大陸市場は文芸作品の希望になるか
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ポスター | ――監督は以前青島で『恋の風景』を撮影し、今回は広州でこの作品を撮影しました。中国大陸部の変化についてはどうご覧になられますか。また、中国映画市場の現在についてはどのように見ておられますか。
実は、大陸部での撮影が大好きです。『恋の風景』以降は香港で撮影をしてきましたが、その間に大陸部は大きく変わって現代的になりましたね。中国映画市場の現状については、むしろこちらが教えていただきたいと思います。『情謎』が公開されていないので、この作品が市場でどう受け入れられるかまだ分かりません。しかし、印象としてはいいものがあります。私にとって、市場空間が大きいことは大切なことです。というのも、ご存じのように私の作品は一般的な香港映画とはかなり違ったもので、大陸部で上映できるのはより可能性が広がるととらえているからです。もちろん、文芸作品が大陸部で特に人気のあるジャンルではないことも知っています。しかし、大陸部の市場は大きいので、文芸作品を見る観客の数も多いのではと期待しています。
――作品が大陸部で受け入れられるかどうか、心配ではありませんか。
投資者たちは、大陸部での上映に心配はいらないと考えています。大陸部には高い文学的基礎を持つ観客が多くいるので、きっと理解してくれると言ってくれました。そうした観客は、物語に対する要求は高くなりますが、私たちの作品はこの面で期待に応えられると思います。『情謎』はいい作品だと思います。いい映画です。
日本の観客に読み取ってもらいたいメッセージ
――一方、3月15日からは大阪アジアン映画祭のコンペティション部門で上映されますね。日本の観客の反応は、どのように期待していますか。
『情謎』は文芸作品というわけではありません。ヒッチコック作品をイメージしていただければいいと思うのですが、サスペンス、推理的要素を持ったドラマです。日本には、成瀬巳喜男監督の作品もありましたね。彼の作品で描かれる男女関係はサスペンス的に見ることもできますが、実際には文芸作品です。私は愛情には、本来サスペンス、疑念などが含まれていると思います。この作品はサスペンス映画のラッピングをしていますが、実際には男女の愛情が描かれているのです。最も核心にあるのは、姉妹の間の感情、男女の感情です。みなさんは『恋の風景』のイメージから、私が今回こうした作品を撮ったことを不思議に思われるかもしれません。でも、『恋の風景』から今回の作品の間にはホラー作品なども作り、経験から学んだものもあります。『情謎』が非常に特殊なものになったのも、そうした経験があったからだと思います。
――『恋の風景』は癒し系の作品で、日本では特に女性に評判になりました。今回の『情謎』はいかがでしょうか。
2つの作品はまったく違うものですが、女性に好まれる作品である点は同じだと思います。女性の方がより理解、共感できると思います。『恋の風景』は、香港では映画館に来るカップルのうち女性だけが涙が止まらないという光景がよく見られました。女性がこれほど感動する理由が分からないという男性もいました。でも、日本では男性にも支持されましたから、きっと日本のみなさんには『情謎』のアンダーメッセージをより理解していただけると信じています。
作品データ |
『情謎』(原題/大阪アジアン映画祭で上映時の邦題は『2番目の女 The Second Woman』)
プロデュース:ゴードン・チャン(陳嘉上)
監督:キャロル・ライ(黎妙雪)
出演:スー・チー(舒淇)、ショーン・ユー(余文楽)、チェン・シュー(陳数)、シー・メイチュアン(奚美娟)
時間・ジャンル:107分/愛情・サスペンス
ストーリー:双子の姉妹の妹・恵宝は舞台女優だが、ある日姉の恵香が代役で出演し主演男優の方亦楠と共演する。そして、それぞれが方と関係する中で姉妹の間に亀裂が生まれ、お互いがお互いを疑うようになる。そしてある夜、姉が行方不明となり、妹の行動は奇怪さを増していく…。3人の男女の間に起こる物語と劇中劇をシンクロさせつつ、サスペンスタッチで描く女の心の奥底に潜む愛憎に焦点を当てていくという、娯楽映画でありながら、ひと味違う風格を持つ作品。とりわけ、双子の姉妹と、劇中劇の登場人物を含め1人5役を熱演するスー・チーが注目される。また、姉妹を同時に愛する男をショーン・ユーが演じている。意外にも二人は初共演だという。監督は『恋の風景』『金魚のしずく』のキャロル・ライ。 |
人民中国インターネット版 2012年2月20日
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