ネットショッピングが盛況
『舌尖上2』では、ネットショッピングに与える影響にも注目が集まっている。紹介された美食は、放送直後だけでなく、その後も長く続く微博で取り上げられ続けるという、息の長さも指摘されている。そして、「吃貨(食いしん坊)」たちは、番組を夢中で見てつばを飲み込み、マウスを握りしめてネットショッピングに走る」と言われており、商機を見逃さないネットショッピング・サイトは次々と『舌尖上的中国』関連のグルメ専門ページを開設し、中には仕入れ担当を番組で紹介された場所に送り込む業者もあるほどだ。中国ネットショッピング・サイトの最大手・天猫(T-Mall)の統計によると、『舌尖上2』放送の金曜日夜から週末にかけて、450万人余りが関連ページを閲覧しているという。『舌尖上2』第1話放送後1週間もしないうちに、番組で紹介された食材の四川ラーロウ(干し豚)は1万個、同じく番組に登場したチベット自治区林芝地域のハチミツは3400本を売り上げた。また、貴州雷山の魚醤は半日で1000個が売れたが、これはこのメーカーにとって1年間の販売実績に相当するものだった。このため、少し検索が遅れた食いしん坊は、新しい製品ができる8月まで待たされることになった。
食にまつわる物語が人々に感動を
しかし、美味しそうな料理だけでは、これほどの社会現象にまではならないはずだ。番組は、現代化が進む中国で失われつつある伝統的な家族の食卓や食習慣、食を通じた人と人のつながり、収穫の喜びなどを見せている。食を愛し、人生を愛する人々が登場し小さな感動の物語が紹介されることが、人々の共感を呼んだのだ。インスタント食品やファストフードがあふれ、いわゆる下水油(本来なら下水に捨てられているような劣化した油を回収して再利用する)など食の問題がたびたび取り上げられる現代にあって、番組は人々に最も身近な食についてもう一度考えなおしてみようと語りかけている。
番組総監督の陳暁卿は、メディアのインタビューに答え、美食とは非常に私的なもので、ほかの人には美食でもそれが自分にとって美食とは限らないことはよくある。今回の『舌尖上2』では、時代の変化の中で現在の中国人がどのような感情を持っているか、美食を通じて描き出したいと話している。
都会人の郷愁を誘うシーンの数々
単に中国食文化を紹介するだけではなく、人々の郷愁を誘う点も『舌尖上2』人気の秘密と言えよう。視聴者が見るのは精緻な「調理テキスト」ではなく、真実の市井の美食と庶民の生活の物語であり、見る人におふくろの味、思い出の味、ふるさとの味を思い起こさせる。ネットでは、「このドキュメンタリーは、まだ第1話を見ただけだが、心がたぎって涙ぐんでしまう。農村出身で今は大都市で働く私は、故郷や母親が作る簡単な料理が恋しくてたまらなくなる。肉親への思い、故郷への思い、なじみ深い味、故郷へ続く路が多くの中国人の心を打つ」との書き込みも見られた。現在の中国では、飛躍的に発展する経済が人々を大移動させ、大規模な都市化は消費のスピード化をもたらしている。異郷で暮らす人々は故郷の記憶を薄めつつあるが、番組は食を通じてそうした記憶を目の前に生き生きと蘇らせていると指摘する評論もあった。
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