単濤=文 佐渡多真子=写真
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かつて蔚県では、切り紙の上手さは賢さや優しさの象徴とされていた |
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蔚県の切り紙作り工程のうち、切りの作業 |
蔚県の切り紙作り工程のうち、色付けの作業 |
幸運を願う民俗から発展
蔚県の職人には腕のいい職人・工芸家が少なくない。彼らはそれぞれの分野で生来の頭の回転の速さや手先の器用さを発揮し、蔚県の工芸品の輝かしい時代をつくりあげた。昔の蔚県の職人は流動性が高く、北方各地ほとんどどこへでも出向き、身につけた技能だけを頼りに天下を渡って行くことができた。少々汚いが、蔚県にはこんな笑い話がある。この地の職人は本当に食うに困ったら、地面に小便をし、土をこねて笛を作り、吹きながら売り歩くというものだ。数ある手工芸のうちでも、蔚県の人が最も誇りにしているのが切り紙工芸だ。かつて、冬の農閑期には、蔚県のそこかしこで地元の切り紙職人が「亮子」の傍らに立って切り紙を売っていたものだ。亮子とは、販売する切り紙を展示する道具で、格子状に並んだ木の枠に白い紙が張られ、それぞれの格子にはさまざまな色の切り紙が並べられるようになっている。まばゆい陽光の下で、並んだ色とりどりの切り紙は、蔚県に特有の、人を魅了する風景となっていた。
蔚県の切り紙工芸は、もともとは「剪窓花」という俗称で呼ばれていた。昔の蔚県にはこんな言い方があった。「最もお金のある人は本を読み、あまりお金のない人は芝居を見、最もお金のない人は窓花を眺める」。蔚県では大小の民家の窓にさまざまな切り紙細工を貼っているのを見ることができる。そして、切り紙作りは農閑期の退屈しのぎとして、この地の老若男女の間に深く根付いている。中国人の伝統的観念では、赤はめでたさ、成功、幸運の象徴だ。窓花が登場する以前、蔚県の民衆の間には戸や窓に「貼紅」、「貼喜字」を行う習慣があった。息子や娘が結婚する時や春節(旧正月)には、窓枠の四隅に赤い三角の紙を貼り、窓紙を張り替え、将来の幸運と生活が豊かになることを祈ったのだ。この地の人はこうした赤い三角を「紅紙尖」と呼んだ。後に、この簡単な形の赤い三角、赤い「喜」の文字の周囲に次第に梅の花やボタンの花、おしどりなどがあしらわれるようになり、内容豊富な図案が出現してきた。こうした絶え間ない変化の中で、切り紙の題材はより広範になり、五穀豊穣や満ち足りた幸福を表すおめでたい図案から、真に迫った芝居の登場人物まで、いわゆる森羅万象を網羅して、蔚県の切り紙は芸術的に真の成熟に向かって進化した。つまり単一の色彩から彩りを添えたものへ発展したのだった。
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「亮子」に並べられた切り紙作品 |
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