仲代達矢氏インタビュー 「演ずることは生きること」

2019-05-06 12:21:49

人民中国雑誌社総編集長 王衆一

『北京晩報』記者 孫小寧=聞き手

中国との縁そして友情

インタビューを受ける仲代達矢氏(写真・陳克/人民中国)
――これまでに5回訪中されているそうですが、中国の印象はいかがですか?

仲代達矢(以下、仲代) 1977年、私は日本の映画人の代表として中国に参りました。代表団の団長は木下恵介監督で、『切腹』の監督である小林正樹さんもご一緒でした。北京は素晴らしい都市で、びっくりしました。その後、90年代に日中共同制作の『大地の子』を撮影するため、また訪中しました。その際、中国人スタッフの中に、お父さんが日中戦争で亡くなった方がいました。私はこれを聞いて彼に、「本当に申し訳なかった。日中は二度と戦争をしてはいけない」と言いましたが、彼は「そうですね。歴史は歴史として、それを乗り越えて未来に向かわないといけません」と答えた。これが一番印象に残っています。プライベートでシルクロードを訪れたこともあります。井上靖先生が書いた『敦煌』という小説が日本ですごい評判でした。小林正樹さんは『敦煌』を撮りたくて、最後まで頑張ったんですが、いろんな条件が合わなくて、残念ながらかなわなかった。彼が『敦煌』を撮れたらよかったのにと私は今でも思っています。 

――『大地の子』には、仲代達矢先生、宇津井健先生、そして朱旭先生が出演していました。宇津井先生は『赤い疑惑』で、毅然として思いやりのある日本の父親像を中国の観客に伝えました。朱旭先生は『大地の子』『變臉この櫂に手をそえて』『こころの湯』などを通して、寛大で親しみやすい中国の父親像を日本の皆さんに伝えました。残念なのは、『大地の子』は中国で公開できなかったので、先生が演じた日本の父親像が中国に伝わっていないことです。お二人とのエピソードをお聞かせください。 

仲代 撮影時、私は朱旭さんの演技に圧倒され、こんなに素敵な俳優が中国にもいらっしゃるのだと思いました。撮影中も人間的にも素晴らしい俳優でしたが、残念ながら亡くなってしまった。数年前、最後に日本へ来られたとき、私がやっている「無名塾」まで来て、若い子の芝居まで見ていただきました。宇津井健は俳優学校の同級生で、私より先に俳優業界に入って活躍していました。朱旭さんとも宇津井健とも最後の共演は『大地の子』で、そういう意味では、非常に印象深く、私の心の中に残っています。 

中日共同制作ドラマ『大地の子』

異なる役に挑戦し演技を磨く

――先生が演じた日本の父親像は中国に伝わっていませんが、70年代、『金環蝕』と『華麗なる一族』で演じた全く違う二つの役柄を中国の観客は今もはっきり覚えています。それが中国人が知った最初の仲代先生でした。この二つの映画の中で演じて感じたことを教えてください。 

仲代 『金環蝕』と『華麗なる一族』は山本薩夫監督――現体制に対して文句をつける社会派の監督の作品です。『金環蝕』では本当に悪い政治家をやりましたが、『華麗なる一族』では打って変わって、政治の在り方に非常に批判的な役を演じました。全然違う二つの役ですけども、役者がいろんな役を演じるのは普通のこと。これこそ役者と映画スターの違う点です。映画スターというのは、1本の映画で良いイメージを観客に与えたら、会社はそのイメージを崩さずに、また同じような役を演じさせます。あるいは、映画スターの雰囲気によって企画を立てるということもあります。私は演劇の役者として劇団にいて、どの映画会社にも所属していなかった。例えるなら、私はフリーで、東宝という映画会社の監督が私に映画出演のオファーを出すわけです。作品によって、私の演じる役は大きく変わりました。観客は初めは、「あれ、この前は『人間の條件』でずいぶんいい人をやったのに、なんで『金環蝕』では悪いやつをやるんだ」みたいな違和感を持ったでしょうね。 

 

映画『人間の條件』より

――千差万別のさまざまな役を演じてこられましたが、印象に残っている役といえばどれですか? 

仲代 俳優というものは、一人ではできません。素晴らしいシナリオ、素晴らしい監督、素晴らしい共演者、素晴らしいスタッフ、これで1本の素晴らしい映画ができるんですね。そういう意味で、全てが素晴らしかった映画は『切腹』です。武士道の中の人間的ではない部分を描いた作品です。当時において、この映画は体制の不公平や、個人の命に対する尊重などの問題に触れていました。 

――だから、『切腹』は時代を超えた、不滅の作品として認められているんですね。 

仲代 そろそろあの世に行くとなったときに、1本どれかと言われたら『切腹』を選びます。 

映画『切腹』より。仲代氏は、同作は伝統的な武士道の概念を覆した映画だと考えている

12下一页
関連文章
日中辞典: