中国国産アニメ映画「哪吒之魔童降世(ナーザ 魔童降世)」が今年の夏一番の評判の映画になると誰が想像しただろうか?特にナーザのキャラクターデザインは好感の持てない要素が満載だ。目鼻立ちが悪くて醜く、背が低くてぽっちゃり体型、歯並びは不ぞろい(しかもすきっ歯)な様子は「一言では言い尽くしがたい」。身振りにも才気が感じられず、浮ついていて荒っぽい。一番目障りなのはパンダメイクをしたかのような「死んだ魚のようなうつろな目」だろう。すっかり気が抜けた表情で、カッコよくないだけでなく、言うまでもなく可愛らしさなど感じられない。しかし、良い作品にはやはり自然と高い評価が寄せられるもので、観客は次々と「飛び上がるくらいスゴい!」と絶賛している。
実際、古典的な物語に対する大胆な改編から細かな部分の奇想天外なアイデアまで、そして製作チームの2年にわたる丹念な作業、さらには監督自身の「医学を捨てて文化産業に従事」し17年間アニメに取り組むという人生のレールから逸れた「反骨精神」に至るまで、「ナーザ魔童降世」は作品そのものも、そして製作裏話も、「自分の運命は自分で決める」というテーマを体現するものとなっている。
思いのこめられたリメーク
近年の国産アニメはほとんどが中国伝統文化の焼き直しだ。以前公開された「西遊記之大聖帰来(西遊記 ヒーロー・イズ・バック)」は「西遊記」から生まれたものだし、今年初めのアニメ「白蛇:縁起」は「白蛇伝」の前日譚を描いたものだ。「ナーザ 魔童降世」も例外ではない。
「ナーザ 魔童降世」も「封神演義」の物語の枠組みから離れてはいない。ナーザは頑迷かつ無知で、おごり高ぶった浮ついた心を持ち、騒ぎを引き起こして世の中を混乱させる魔童から、天に逆らって運命を変え、世を救うヒーローへと変わっていく。しかしその一方で、製作チームは伝統に「背いて」、人物関係と人間ドラマに改編を加え、ひいては概念を全く覆すようなアレンジを施した。そのうち父親である李靖に対する改編が特に見事だ。これまでのテレビ・映画作品のうち、この大将軍は往々にして記号化された、存在感のない、頑固な人々の代表だった。しかし「ナーザ 魔童降世」では、観客は李靖に父親としての深い愛を感じることができる。李靖はナーザを信じるだけでなく、息子のために自尊心まで捨てているからだ。そして作品のラストで繰り広げられる父と子のシーンは観客の涙を誘っている。
ナーザは海で大暴れもせず、肉を削って母に返上もしない代わりに、「天に逆らい運命を変える」不撓不屈な人物として描かれている。ここが今の若者にとってグッとくるポイントになった。生まれながらにして妖怪だったナーザは小さいころから人に先入観を持って見られ、いじめられながらも、人から受け入れられることを渇望してきた。表面的には強い個性を持った変わり者でも、その実、内心では非常に孤独だった。ナーザは生身の人間の感情を持った活き活きとした存在として描かれ、時として映画を見る者に人生で悩む自分とひどく似通っていると感じさせる。
ナーザのほか、本来なら高圧的で残酷な西海竜王の太子・敖丙もすっかり穏やかなやさしいキャラクターになり、見た目は麗しく、感情も細やかになり、より優柔不断な性格になっている。ナーザとは正反対のキャラで、鮮やかなコントラストを見せるこのキャラの組み合わせは観客から最も好まれた。
大人気国産アニメ誕生でナーザ現象到来
「ナーザ 魔童降世」は公開後たちまち興行収入をうなぎ上りに伸ばし、わずか1時間29分で1億元(1元は約15.8円)を突破。最も速く1億を突破したアニメ映画の記録を塗り替えた。公開翌日には1日の興行収入が2億元を上回り、アニメ映画興行収入の記録を塗り替え、中国映画史上初の1日の興行収入が2億元を突破したアニメ映画となった。
興行収入が注目されたほか、各大手サイトの評価も非常に高い。20万人以上がポイント評価を行う映画レビュー・コミュニティーサイトの豆瓣網では、同作品の評価が8.7ポイントに達した。この評価は「哪吒鬧海(ナーザの大暴れ)」や「天書奇譚」などの名作にわずかに次ぐもので、「西遊記ヒーロー・イズ・バック」と「大魚・海棠(ビッグフィッシュ&ベゴニア)」を上回った。オンラインチケット販売大手の猫眼と淘票票でも、それぞれ9.7、9.6というさらに高い評価ポイントを得ている。
監督の餃子は本名を楊宇といい、アニメ界に転職する前は華西医科大学薬学専攻の学生だった。業界に入った当初、多くの不理解やプレッシャーに耐えて1人でコンピューターに向かい、3年8ヶ月をかけて処女作「打、打個大西瓜(See Through)」を完成させ、2009年から2010年にかけて数十の短編アニメ賞を総なめにした。
「ナーザ 魔童降世」は2年の時間をかけ、66回脚本を書き換えた末に完成したという。監督は「我々のシーン製作に対する要求は極めて高く、それを満足させるために平均して数十回挑戦してようやくクリアできるほどだった」と語る。映画のなかのある格闘シーンは、監督自身とゼネラルディレクターが2ヶ月を費やしてようやく完成したという。たった一言のギャグのために、チームが脳みそをぐちゃぐちゃにしたくなるほど苦しんだこともあった。ナーザの表情はほぼ監督自身が「演じた」もので、モーションキャプチャーを採用したものではないという。
「ナーザは中国の伝統的な神話ヒーロー。でも年代によってナーザから感じ取る精神的な芯の部分は異なると思う。我々のナーザで一番際立っているのは、『運命に甘んじず、先入観を打ち破る』信念だ」と餃子監督は説明する。ナーザのキャラクターデザインは100以上のパターンを試したという。「最初は行儀が良くてかわいいキャラも考えたが、後からそれでは飽き足らなくなり、最終的にはこの目のまわりにクマのあるナーザでチームの意見が一致した」。このキャラクターデザインは徹夜で作業を続けていた製作チームのメンバーからインスピレーションを得たものだという。「とことんこれまでの路線に背く反骨の」態度が、今の「シナリオはもう国産映画の弱点ではなくなった」や、「ストーリー、特殊効果ともに素晴らしい」といった爆発的高評価につながったと言えるだろう。
「人民網日本語版」2019年7月30日
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