寅年に虎の絵でコロナよけ

2022-01-27 17:27:59

王朝陽=文

 今年の干支は寅、そして干支は中日両国共通の文化だ。虎はその力強い外見と勇敢で強い性質で、人々に愛されている。画家にとっては常にお気に入りのモチーフの一つであり、中国人は虎を描くことで悪霊を追い払い、一家の平穏を守り、子どもの健康と成長の期待を込めてきた。寅年を迎えるに当たり、本誌は虎の絵を得意とする中国の著名な画家・夏山河氏に、中日両国の虎の絵にまつわるさまざまなエピソードを語ってもらった。

 

山泉

 

夏山河

1944年陝西省咸陽市生まれ。西安美術学院卒業。国家一級美術師。中国美術家協会会員、中国詩書画研究院研究員、陝西書画院常務委員院長。画集には『夏山河中国画集』『案頭画範―夏山河画虎』(人民美術出版社刊)がある。

 

きっかけは年画から

 画家の夏山河氏は中国でも有名な虎を描く画家であり、その筆による虎は格別に生き生きとした生命力にあふれているため、中国の国家指導者が外遊の際、国外の友人への贈り物として携えたこともある。陝西省の農村育ちの夏氏は、年越しのたびに家々の門に貼られる、一家を守る虎の年画を見るのが幼い頃から好きだったという。さらに、家族や隣近所の人々が、子どもの健康と成長を願って手作りする虎の頭をモチーフにした枕や帽子も好んだ。これらに見られる威風堂々とした、あるいは愛らしい虎の姿が、夏氏の脳裏に虎のイメージとして初めて刻まれたものだった。

 のち西安美術学院に入学した夏氏は、中国の伝統絵画を学び、文人の筆による墨虎に出会った。そのことが、虎を描く生涯を決定付けた。虎を間近で観察するために数々の野生動物園を訪れ、大量のスケッチやドローイングを行って、虎の身体構造やしま模様の特徴、さらには動きや表情の特徴に至るまで精通した。夏氏の描く虎は写実的でありながらも芸術的想像力がみなぎる、創造性にあふれたものだ。彼は墨と筆を用い、幼い頃から崇拝と憧れの対象だった、王者の風格と利発さを兼ね備える虎を表現したいと願い、さらに作品を見る人々に、勇敢さ、正義、守護者といった虎の「持ち味」を感じてもらいたいとも願っている。

 

全家福

 

特徴的な日本の虎の絵

 日本の虎の絵の特徴を仔細に研究した夏氏は、日本には虎が生息していないため、昔の画家は中国画の虎を手本にネコの姿とイヌの動作を観察し、そこに虎のしまを加えた独自の虎の絵を描いていたと語る。日本の虎の絵は、中国の虎の絵を基礎に独自の芸術的スタイルを確立したものだというのが夏氏の見解だ。例えば日本の虎の絵は瞳孔を縦に描き、背景に石、竹、松、波濤が描かれていることが多く、虎の造形を似せることにはあまり気を配っておらず、その性質の描写に重点を置いている。こうした特徴が日本の画家が描く虎に神秘的な色彩を添え、装飾性や劇的要素を持つ独自の味わいを加えた。

 画法は違っても、中日双方の芸術家には虎に対する相通じる感情があると夏氏は感じている。中国同様、虎は日本でも美しいイメージと寓意があり、画家が熱心に取り組むモチーフの一つでもある。よって日本では水墨画、屏風、壁画、漆画など、さまざまなところに虎の姿を見ることができる。夏氏自身は特に竹内栖鳳の描く、生き生きとした造形と神性を兼ね備え、伸びやかな筆致の虎が好きだという。

 

小虎出山図

 

日本との芸術交流

 夏氏は2009年、陝西省文化代表団の一員として訪日し、文化交流のイベントに参加した。奈良では中日両国の画家と書家が集まり揮毫する会が開かれた。夏氏は日本の画家と共に筆を走らせ、感情を表現し、芸術について語り合い、作品を贈り合った。この時の経験は、夏氏にとって生涯忘れられない思い出となった。

 夏氏の出身地に近い西安は、中日民間交流が最も盛んな場所の一つだ。夏氏は西安の碑林博物館で、日本人観光客が展示の書と文化財を見て涙を流しているのを見たことがあるという。この感動は中日間の長年にわたる文化交流と、今日になっても依然として両国民の心中に響く東洋芸術への共鳴からくるものだろう。

 しかし夏氏にとって残念なのは、中日国交正常化当初に比べて両国間の頻繁な美術展や交流、さらに大規模美術交流展の機会が少なくなっていることだ。1980年代に東山魁夷展が北京で行われたときのような盛況ぶりが見られなくなって、すでに久しい。中国の人々が日本の美術や美術家について学ぶ機会が増えたり、中国の現代美術家が日本に紹介されたりして、両国の文化相互交流がより一層強まり、文化的つながりが引き継がれていってほしいと夏氏は語る。

 今年は中日国交正常化50周年であり、両国の人々に親しまれている寅年でもある。この2年間、新型コロナウイルスの流行が両国間の文化交流と人的交流に大きな影響を及ぼした。虎がまとう気風や邪気をはらい幸運を守る力を借り、ウイルスを駆逐し、両国の民間交流を促進し、人々が文化への理解を深めることを、夏氏は心から願っている。

 

秋興

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