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290円弁当、1500円コーヒー
――日本の観光業受け入れ態勢の問題点

 

昨日は北京で知り合った友人と都内ですこしの時間だけ話しをする機会がありました。コーヒーを飲みながら、彼の今の仕事の状況、そしてこれから将来的には自営業を目指したいという内容だったのですが、日本観光にやってくる中国人旅行客のお金使いの豪華さについて、だいぶ興味をもっているようでした。例えば、携帯にとりつける日本製の健康グッズ(電磁波を防ぐ?)があるらしいのですが、小さなスポンジ状のものが、なんと3000円で飛ぶように売れていくそうです。

国内であれ、国外であれ、多くの観光業には、確かにこうした「(一般的な)市場価格との不一致」がみられることは明らかです。この主な要因は、そうした観光サービスにおける個別商品売買という市場取引には、市場的遠隔性から生じる情報の非対称ならびに潜在的即時需要プレミアム価格を内在するからです。

資料写真:春節の時、秋葉原で買い物する中国の観光ツアー

旅行客(サービス需要者)からすれば、観光地のみで販売されている特殊な製品(例えばお土産品、特産品、特殊技術品)やサービス(例えば、現地だけで体験できるエンターテイメント)の現地市場価格はわかりませんし、さらに、観光地だけではなくどこでの市場でも販売されている一般的な製品(例えば、スーツケース、缶詰食品)やサービス(例えば、ありふれた飲食サービス)であっても、現地即時消費需要から他地域の市場価格よりもプレミアム価格が上乗せされているわけです。

こうした、情報の非対称性そしてプレミアム価格を要因とした、高価格の設定(強気の価格設定)がために、観光地での製品・サービスの価格は原則的に高価格になりますね。

資料写真:流暢な中国語で中国人の観光客に化粧品を紹介する銀座三越の店員

さて、その観光業の原則論は踏まえるものの、冒頭でお話した「市場価格」ギャップがあまりにも激しいのではないかということが今回のテーマです。

需給関係がバランスを保っている以上、こうした、中国人観光者相手の日本製品販売は、現在の観光地価格で継続されてしまいます。販売業者は経済的合理性のもとで、商行為を行っているわけですから悪徳ではありません。しかしながら、この「度が激しすぎる」状態は、これまで日本が国全体として「ジャパンブランド」を創り上げてきたものに対して、ブランド価値以上の商品への価格転嫁がなされているような気がします。中国の観光客の方からすれば、観光業の原則たる「情報の非対称性」と「観光地プレミアム価格」をそれぞれより強める「日本ブランド」に対して多額に支払っているとしか思えません。

最終取引価格=「本質的な製品・サービス品質からの市場価格」+「(情報の非対称性による事業利潤+観光地プレミアム価格による事業利潤)×日本ブランドプレミアム変数」という計算式において、日本ブランドプレミアム変数が過度に高く設定されている状態です。

個別の事業として捉えれば、決してこれは「詐欺」ではなく「商行為」ではありますが、個別の事業者が、国全体の「日本ブランド」という蓄積されたブランド価値を摩耗させながら、高利潤を得ている状況といえます。より平易な表現を使えば、中国人観光客に対しての日本観光事業として、在日本の観光事業者(日本資本or海外資本)が、日本国全体の財産たる日本ブランド価値を「適正なレベル以上」に利用している状況といえるでしょう。

これは、長期的に中国の方に対する、日本ブランド価値を下げ、最悪のシナリオ想定の相関関係においては、中国内で日本観光における「買い物」というものが「異常な高価格設定(いわゆる、ボッタクリ)」として、広くメディアを通じて報じられ、健全な日本製品販売(自動車にせよ、光学機器にせよ)が中国内で風評被害をこうむるということになりかねません。

商行為あるところに、「悪徳」との曖昧な境界線をみることになるのは、「常」であると思いますが、これら「悪徳」を法規制することが難しい中で、これから産業が成熟期に入り、適正な商行為が成り立ってくると、本当に中国向けの観光ビジネス体制が整うということになるとおもいます。

中国からの受け入れ態勢が「法的」にできた、ということで、まずはゼロ地点として中国人観光客の方が増えるのはいいこととおもいますが、次の問題は、日本国内で「商行為的」に受け入れ態勢ができるかということです。日本はまだまだ、こうした「外に開かれた」観光ビジネスでは先進国とはいいがたいな、と思う次第です。これから、「日本から世界へ」の日本人向け観光業ではなく、「世界から日本へ」の外国人向け観光業が国内でどれだけ発展するのか、観察していきたいと思います。

(中川幸司 アジア経営戦略研究所上席コンサルティング研究員)

 

「中国網日本語版(チャイナネット)」

 

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