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視覚障害者のための「映画館」と「図書館」――紅丹丹の挑戦

 

北京市内、後海の北を東西に走る鼓楼西大街に面した人目につかない一角に、視覚障害者のためのサービスを行うNGO(非政府組織)北京紅丹丹教育文化交流センター(以下、紅丹丹と略す)がある。

紅丹丹は、2003年の設立以来一貫して音声解説技術によって、視覚障害者にバリアフリーのコンテンツ・サービスを提供している。その中には定期的に催される映画鑑賞会や放送番組の制作、雑誌朗読サービスなどが含まれており、紅丹丹は中国国内でこうしたサービスを最初に始めた民間の非営利組織でもある。このセンターで最も注目され人気があるプログラムは「心目影院」(心の目で見る映画館)と「心目図書館」(心の目で読む図書館)だ。

視覚障害者が世界に触れる「心目影院」

毎週土曜日の早朝、小さな紅丹丹の敷地内には熱気があふれ、人の行き来が絶えない。ここでは毎週土曜日の午前、「心目影院」活動が催され、視覚障害者のために映画が上映されている。専門の訓練を受けたボランティアの語り手が、的確で生き生きとした言葉で映画のシーンを解説し、視覚障害者に視覚情報を伝えていくのだ。

陳凱歌監督の『阿虎』上映を準備する「視覚解説」の語り手・大偉さん

「心目影院」プログラムは2005年に正式スタートした。現場での解説以外に放送やCDの形で、現場に来て映画を「聞く」ことのできない人もサービスを享受できるようにしている。2010年6月までに、「心目影院」として各地で上映した映画は240作以上になり、1万人近くのボランティアがサービスにあたり、鑑賞した視覚障害者は延べ1万人を上回る。

紅丹丹が実験を繰り返して確立した「視覚解説」手法は、視覚障害者が世界を感じるのを手助けする「目」となっている。多くの人の視覚障害は先天的なものであり、生まれた瞬間からこの人たちの生活は暗闇の中にある。多くの後天的な障害者も、数年の後には視覚の記憶を失ってしまい、夢でさえ画像イメージを持たない場合もある。このため、多くの健常者にとって当たり前のことが、彼らにはまったく知らない、想像もできないことなのだ。語り手は、必ず視覚障害者の観点から解説を進めなければならず、その過程では視覚障害者が生活の中でよく知っている事物に例えたり比較したりして話さなければならない。紅丹丹の「視覚解説」の語り手の一人である大偉は例を挙げて紹介してくれた。

「映画のシーンでヘリコプターが登場した場合、『それは、長いおたまをひっくり返し、おたまの頭の上に回る扇風機を取り付けたような形』などと説明することができます。成功する『視覚解説』は、必ず完全に聞き手の立場で進められるものです」

「視覚解説」に対するもう一つの基本的要求は正確さで、情報が滞りなく伝わることが求められる。紅丹丹の創始者である鄭暁潔さんは、ある来場者に関するこんなエピソードを紹介してくれた。以前、「心目影院」では映画『タイタニック』を上映したことがある。その時、語り手は多くの言葉で巨大な客船が沈没する最後の一瞬まで、船上オーケストラが演奏を止めなかったという名場面を描写した。会場で聞いていたある女性はこれにとても感動し、家に帰ってからそのシーンについて自分の息子に語り聞かせたという。母親の生き生きとして詳細な描写に息子は非常に驚き、母親が勝手に物語を作っているのではと疑った。そこで、自ら映画館に出向いてその部分を検証したところ、母親の語りが映画の筋と寸分たがわぬことを知り、心から納得し受け入れたのだった。

「その後、その女性はとてもうれしそうに話してくれたのです。『鄭先生、私もほかの人に映画を語ってあげられるようになりましたよ!』と」

鄭さんは、「視覚障害者は映画の画面を見ることができず、もし誰かが誤った情報を伝えても、本人には分かりませんし、検証もできません。しかし、その人が周りの人と交流した時に、この誤った情報がある種の障害になるかもしれませんし、これによって差別を受けたり傷ついたりすることも大いにありえます。逆に、正確で間違いない情報を伝達すれば、視覚障害者は日常の交流の中でほかの人から大いに尊重されるのです。これは非常に重要なことです」と話している。

「心目影院」の活動を紹介する鄭暁潔さん(白い服の女性)

今では、「心目影院」は多くの熱心なファンを抱えるようになった。郊外からクルマに3時間揺られて駆けつける人さえいる。北京市内の豊台区に住むある視覚障害者は、この「心目影院」について、「映画を『聞く』過程は、まるで世界に『触れる』ようだ」と評したという。

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