第25回東京国際映画祭が20日、開幕した。そのわずか2日前、コンペティション部門に中国映画として唯一ノミネートされた「風水(原題:万箭穿心)」のプロデューサーが中国国内で記者会見を行い、日本政府の釣魚島(日本名:尖閣諸島)の国有化宣言が中国国民の感情を大きく傷つけたことから、同作品は東京国際映画祭への出品を取りやめると発表した。同作品の芸術顧問を担当した著名映画監督の謝飛氏は19日、自身のブログに声明を掲載し、「プロデューサーが演じたこの『辞退劇』は、完全に商業的なパフォーマンスだ」と厳しく批判した。中国青年報が伝えた。
謝氏は同作品の出品取りやめについて、理にも法にもかなうものではないと主張。コメント欄では、映画業界人・一般のネットユーザーに関係なく、大多数の人が謝氏の意見を支持した。「風水」の原作者である有名作家・方方氏でさえ、記者取材に対し、「出品取りやめは、低次元での決断だ」との見方を示した。
映画「風水」では、平凡な人々の、日常生活における温かみ、苦しみ、やるせなさが描かれている。
制作費はわずか400万元(約5114万円)、宣伝費を加えても総コストは600万元(約7671円)。このようなローコストの国産映画は、謝氏によると、中国の現実主義という優れた伝統を引き継いだ傑作という。たとえ素晴らしい映画であっても、PRやマーケティング活動が適切に行われなければ、世の人々が作品の存在を知ることはできない。よって、作品のPR・マーケティング活動は、本来、当たり前のことだ。ところが、映画「風水」の配給会社は、愛国心という大義名分を掲げ、出品取りやめを突然発表した。しかし、謝氏によって事の真相を暴露される結果となった。氏の指摘によると、彼らが意図したのは、出品取りやめによって世間の関心を集め、「百城万幕十万場前売り」という大々的なマーケティング計画を実行に移し、「愛国映画」という幻想のもとに大金を稼ぐことだった。
釣魚島問題が悪化して以降、ハリウッド映画「バイオハザード5」に出演した人気女優の李氷氷さんは、日本での試写会イベント欠席を発表、世界的ピアニスト・李雲迪氏も東京でのコンサートを中止した。彼らの行為は世間に取り沙汰されることはなかったが、「風水」の出品辞退は、謝氏さらには一般の人々の反感を買った。これは、今回の「愛国劇」の中に、「金儲け」の匂いがあまりにも強すぎたことによる。「釣魚島問題」が本当の理由ならば、最も緊迫化していた9月下旬から10月初旬に、出品辞退を表明していたはずだ。映画祭開幕のための準備が全て整い、映画のチケットが日本の観客に売り出される2日前になって、なぜ急きょ出品辞退を発表したのか?また、中国国内で出品辞退を発表した後に、映画祭主催者に連絡するといったやり方は、職業上の道徳や礼儀に欠けた行為だ。
謝氏は「出品取りやめは、誠実・信用を持ち合わせず、人を欺く行為がまかり通っており、正義のかけらもなく、心には貪欲さしかないという中国の今の世相を反映している」と厳しく批判した。謝氏の言う通り、映画祭などの民間交流、特に一般大衆を巻き込んだ文化交流活動は、慎重な取り扱いが求められ、過激な行動は控えなければならない。しかし実際は、「ドタキャン」自体不道徳な行為であるのに、さらに「愛国主義」や「民族感情」などの言葉を上げつらね、「事の真相を知らない」一般大衆を扇動し、それによって宣伝効果を挙げようとしており、これは社会道徳上のボトムラインに抵触している。彼らは愛国分子ではなく、愛国投機分子だ。彼らの関心の的は、いかにして儲けるかということだけで、「愛国」は、ただのタイムリーな宣伝文句に過ぎない。愛国投機分子にとって、国民の愛国感情は、彼らの消費を促すツールに過ぎないのだ。
「風水」の出品取りやめと同様の、「愛国主義」という大きな旗印を掲げての騒ぎは、過去にもあった。2009年12月初め、「タイ拳法、中国カンフーを秒殺」という話題がネット上を賑わせた。当時、中国人の心は義憤で満ち溢れた。タイ拳法使い手による挑発的な発言に対し、中国人ネットユーザーが怒りの反論を行っていた時、あるキックボクシング試合の関係者が、主催者側のやり方に不満を持ち、「でっち上げ、国民感情を逆なでした主催者の行為は、試合に注目を寄せるためのものだ。タイ拳法の使い手は、一度も挑発的な発言をしたことはなく、政府も民間からの応戦申請を受け付けた記録は一切ない。『挑戦状』の原文を実際に誰か見たのかどうかについても、はなはだ怪しい」と、真相を暴露した。
その1年後の2010年11月初め、「磁器愛国主義」が再びネットの話題をさらった。中年の英国人兄妹が、保有する清乾隆時代の粉彩透かし彫り磁器製瓶をオークションに出し、何と5億元(約63億9100万円)で競り落とされ、中英両国のメディアに大きく報じられた。その後、法外な価格でこの磁器製瓶を手に入れた人物は、中国の富豪であることが判明した。各メディアは、愛国心から自国の文化遺産を買い戻したと取り沙汰したが、「磁器愛国主義」の背後には、「金儲け」のためのさまざまな目論みが渦巻いている。
2年前の「磁器愛国主義」から、1カ月前の「日本車破壊」、さらには数日前の「文化交流破壊」まで、愛国主義はゴロツキどもの「隠れ蓑」になっただけではなく、不心得な商人たちの「ドル箱」としても利用された。投機を企む人々は、さまざまな思案を巡らし、正論として主張し、愛国主義という「シェルター」に逃げ込んだ。理性に欠ける考え方や独りよがりな判断が社会に横行し、あのような大げさな「愛国劇」が天下の王道を堂々と歩くことをいったん許してしまえば、そのような行為は、人々を「万箭穿心(万の矢が心を貫く。大変心を痛めること)」状態に陥れることになる。このような事態を、我々は決して容認すべきではない。(文:陳方)
「人民網日本語版」 2012年10月24日
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