文=城谷妙子 写真=王炎
|
ひときわ人目を引く衣装 | 会場に一歩足を踏み入れるとそこは完璧な異空間だった。その予感は最寄の地下鉄駅でから始まっていたが、アニメのキャラクターに変身したコスプレイヤーたちの大集会だ。3月14、15両日、北京で開かれた3万人が集まる「MYC遊園会」に筆者も紛れ込んでみた。このイベントは北京のACGファンを盛り上げる目的で始まり、今回は10回目。
会場を埋め尽くした圧倒的な数にまず言葉を失った。そこで見聞きしたACG、音楽、グッズはほとんどがメード・イン・ジャパンなのだが、ウキウキした表情の若者-カップルもいれば、2人、3人のグループもいた-でごった返していた。会場ではセールも行われていた。買い込んだグッズではち切れそうな紙袋を両手に持っているコスプレ姿の若者がまだキョロキョロと掘り出し物を物色していた。
その青年に中国語で声を掛けた。「もう1000元近く使っちゃったよ。お金?まだ大丈夫。バイトで稼いだからね」。学校の食堂では毎日10元以下に抑えるようにしているという彼にとって、1000元は大金だが、日本アニメが大好きなのだという。ちょっと試してみたくなって、「日本語?」と中国語で聞いてみた。「sumimasen、我不会(ウオブフェィ=できません)」と日中語を織り交ぜたなんとも器用な答えが返ってきた。簡単な日本語は日本のアニメを見ているうちに自然に覚えたそうだ。
中国では日本の漫画が何十年も前から中国語に翻訳・出版されている。アニメも同じように中国語の字幕付き。一方、最近では中国の漫画が日本語へと翻訳され、「マンガ文化の逆流が」始まる気配だ。中国人の漫画家が日本でデビューを果たすだけではなく、イラストレーターや声優も日本に「走出去(海外進出)」し始めている。
詰めかけたコスプレイヤーたちはイベント開催の何カ月も前から準備に忙しかったそうだ。今回特に人目を引いていたのが、スパンコールがきらめく衣装をまとった少女。恐らく既製品ではなく彼女の手作りだろう。「恐らく」としか書けないのは、彼女の周りにはツーショットを希望する若者が途切れることなく列を作っており、彼女もにこやかに応じ、ポーズを決めていた。筆者が突入できる雰囲気ではなかった。会場を一周して戻って来ても、彼女はやはり同じポーズで若者の渦の中にいた。2次元のキャラクターを立体化するだけでも大変だろうと思うが、マンガのキャラクターが紙から飛び出してきたように錯覚させる見事な「変身」ぶりだった。
|
|
精巧に作られた衣装 |
会場内に設置された無料化粧コーナー。会場内で手軽に「変身」できる
(写真・城谷妙子) |
知り合いの日本語教師はACGイベントが近づくと「まだイベントの準備が出来ていないので」と、これを理由に堂々と授業を休む学生が多くなるとこぼしていた。その彼女も「日本の文化に触れるのはいいことだし、一部の学生はACGがあるから日本語を学習するという立派な動機であることは否定できないのよね」と、寛大にみているそうだ。
日本のアニメ文化は中国式の「寛大さ」で輸入されているようだ。日本でのコスプレイヤーはそのキャラクターのイメージを壊すということで、声を発してはいけないらしい。しかし、ここ中国では彼らによる寸劇が演じられる。そのほとんどがトーナメント形式となっており、専属の舞台監督が檄を飛ばす。中にはカリスマコスプレイヤーも誕生し、女性からの黄色い声が飛ぶ。このようなアニメ文化と共に秋葉系オタク文化も中国に輸入されており、観客としては1回で2種類のオタク文化が楽しめる。
今回のイベントでは制服姿の少女が踊るその隣にオタクブースなるものが設置されていた。オタクたちはライトを両手になぜか観客に向かってパフォーマンスをするという日本では恐らく想像もできない光景を堪能できた。
|
|
人気の高いコスプレイヤーは引っ切り無しにポーズを求められる
(写真・城谷妙子) |
日本からは大学留学説明のブースも |
会場で日本のお祭りには欠かせない焼き鳥やたこ焼きを販売していたイベント会社の斉藤信行さんは「毎回、来場者の質が上がってきていますよ。2日間で3万人の来客は固いでしょうね」と上機嫌で話してくれた。現在、中国のアニメ好きを対象とし、日本でオタクたちの「聖地」を観光するツアーを検討中だという。これからの中国ACG業界の成長は大いに注目を浴びている。
|