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議論の場としてのイノベーションを -「東京-北京フォーラム」に向けて-

 

文=日中経済協会調査部長 高見澤学

今年9月25~28日に東京で第12回「東京-北京フォーラム」が開催される。メインテーマは「アジアや世界の平和と発展に向けた日中協力」で、メインフォーラム(全体会議)の他、分科会として「政治外交」、「経済・貿易」、「安全保障」、「メディア」、「特別」の5つのテーマが設定されている。英国のEU離脱決定や新興国経済の低迷など、世界経済の不安定化が懸念される中、これら分科会の中で、私自身が最も関心を寄せるテーマはやはり「経済・貿易」である。

本フォーラムをはじめ、いろいろな機会に日中両国をめぐる経済協力についての議論が行われている。そこでは、両国がそれぞれ抱えている課題や今後の方向性、両国の新たな協力分野などの道筋はそれぞれに示されており、概ね結論は一致している。両国が共に喫緊の課題として取り組まなければならないのは構造改革である。それを実現するためには、産業の高度化や消費主導型の経済構造への転換が必要で、中国では過剰生産設備の削減やゾンビ企業の淘汰、国有企業改革を進め、日本においては消費需要を掘り起こすことが求められている。省エネ・環境や医療・ヘルスケア、農業等の分野で日中協力の可能性があるほか、情報通信技術の発達により、IoTやAI、ビッグ・データ等を活用した産業の融合に更なる発展のポテンシャルが秘められている。こうしたお決まりの結論自体は決して間違いではないのだが、重要なのはその結果を今後どう実現していくのかの具体的な方法である。

政府の立場からすれば、具体的なビジネスの展開となれば、そこは「企業さん頑張ってよ」という話になり、企業は企業で「規制緩和」や「資金的援助」といったこれもまたお決まりの要望を持ち出すことが一般的だ。何らかのプロジェクトを進めるために資金が必要なのは当然なのだが、財政事情が芳しくない政府としては財政出動による企業支援を極力控え、企業が保有している「内部留保を使え」ということになる。他方、企業は先行きの見えない経済情勢の中では、内部留保をできる限り増やそうとする。政府と民間との間でこのようなやり取りが続く限り、問題の解決は一向に進まないだろう。

日中両国経済や世界経済の現状と課題、今後の方向性など、ほとんどのマクロ的テーマについては概ね議論し尽くされ、議論の内容が過去の焼き直しでしかないように思える会議も少なくない。つまり、大きな会議の場においては、新たな問題提起がなされない限り、無駄な議論が続くことにもなりかねない。もちろん議論を重ねる中で新たな発想法やアイデアが生まれることも十分にあり得るので、日常的に議論を重ねることは重要であろう。その意味では、議論の場としての会議自体のイノベーションが求められていることも事実である。

では、本フォーラムのような大きな会議では、今後どのように議論を進めていけばよいのであろうか。

昨年10月24日に北京で行われた第11回「北京-東京フォーラム」の分科会「経済対話」の締め括りとして、中国側の司会を務めた中国国際経済交流センターの魏建国副理事長は、「企業のために、どこにビジネスの連携や協力の可能性があるのかを示すことが課題である」と指摘された。それに続いて日本側の司会を務めた日興リサーチセンターの山口廣秀理事長が、「今後はより具体的にどのように実施していくかについて、フォーラムに参加している日中の企業関係者が考える」必要があるとの認識を示した。この指摘と認識は大変重要なことで、ここにその解を見出すことができると思う。

繰り返しになるが、現代経済学理論によって導き出される総花的な結論が既に出し尽くされた中で、仮に、マクロ的な話題に対してさらに議論を進めるのであれば、現代経済学理論では説明のつかない問題に対し、次元の異なる理論・発想法を以て解を求める以外に道はない。しかし、現実的には一定の方法論が確立されている現代経済学の手法を覆しての議論は限りなく不可能に近いのが現実だ。

こうした現状を踏まえれば、大きな会議で議論するべき今後の方向性は、魏副理事長や山口理事長が提起したように、「具体的なビジネス協力の実施方法」にあることは明白である。実際に、我が日中経済協会が主催者として名を連ねている「日中省エネ・環境総合フォーラム」や「日中経済協力会議」では、参加企業などから、実際のビジネス協力の具体的なプロジェクトにつながるビジネス・マッチングや企業交流の機会を求める声が年々強まっている。

もちろん、こうした大規模な会議では、宣伝効果の高いハイレベルの交流の場としての要素を盛り込むことも重要だ。しかし、多くの参加者は、より具体的なビジネスに直結する議論や出会いを求めており、主催者の立場としては、そうした参加者のニーズにできる限り応えるよう努力する必要がある。つまり、会議自体のイノベーションが求められているのだ。

過去11回もの開催経験を有する「東京-北京フォーラム」は、テーマの選定は別として、会議の運営方法について、今後どのように発展させ、進化させていくかが期待されるところである。

(本稿は筆者個人の意見であり、中国網や所属機関を代表するものではありません。)

 

「中国網日本語版(チャイナネット)」 2016年8月29日

 

 

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