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頓挫した「中国包囲網」と止血に走ったNHK

 

安倍・プーチン会談の「成果ゼロ」が示唆する日本外交の迷走

 

文=野中大樹『週刊金曜日 2016.12.22-1.6』

 

昨年12月15日、安倍晋三首相はプーチン•ロシア大統領と

山口県長門市で首脳会談を行った

 

ロシアのプーチン大統領と安倍晋三首相の会談は、実質的に「成果ゼロ」のまま終結した。「北方領土問題が解決するかもしれない」という国民の期待値は下がり、日本外交の行方に陰りを残す結果となった。

「4島返還を主張しているだけでは、71年間、1ミリも動かなっかたんです」

「特別な制度下で(北方4島で)共同経済活動をやっていく。それは難易度が高いことなんです」。

12月15日と16日の2日間にわたるプーチン•ロシア大統領との会談を終えた安倍晋三首相は16日夜、NHKや民放番組に自ら出演し、必死の形相でしゃべり続けた。日ロ交渉は「簡単ではないのです」と釈明するかのように。

 

 

  「現地には民族派が全国各地から集結しました。プーチンに「北方4島を返せ」と訴えるためにです。安倍総理ならやってくれると期待していたんです」。

小誌にこう語るのは、甲信越から街宣車で長門市の「大谷山荘」近くまで遠征した民族派右翼団体の幹部だ。安倍首相の応援団の1員なのだが、今回の会談については「何ですか、あの会議は」と憤リを隠さない。

自民党の二階俊博幹事長は16日、記者団に「国民はみな(北方領土問題が)今度解決するんだと思ったと思う。やっぱり、国民の皆さんの大半はがっかりしている」と語った。この発言はNHKニュース7を除き各社が報じ、永田町でもの物議をかもしている。日ロ会談の“成果”をものがたって余りあるからだ。安倍首相は釈明せざるをえなかった。

 

「中国包囲網」の頓挫

平和条約締結に向けた「重要な一歩になり得る」と安倍首相がどれだけ強調しても、北方4島の帰属をめぐる両者の主張は最後まで平行線をたどった。共同経済活動の土台となる「特別な制度」がどんな形になるのかも見えない。とりわけ、安倍首相とその周辺が秘かに危機感を募らせるのが「中国包囲網」の行き詰まりだ。

 

『東京新聞』より

 

安倍首相と側近たちの安保•経済政策の要は「中国包囲網の構築」に尽きる。今秋のTPP(環太平洋経済連携協定)、国会承認、ベトナムへの原発輸出、インドとの準同盟関係の確認、そして今般のプーチン会談はいずれも「中国包囲網」構築にむけた重要局面だった。

キーパーソンは谷内正太郎•国家安全保障局長である。谷内氏の両サイドには杉山晋輔•外務次官と秋葉剛男•外務審議官がいる。ふたりは谷内氏が外務省の旧条約局長、事務次官の時代から直属の部下として安保政策を担ってきた。

ちなみに秋葉氏はワシントン日本大使館の政治担当だった2009年に米国議会特別委員会に招かれ、中国や朝鮮民主主義人民共和国の脅威に対峙するためとして「アジアへの核配備」を米国にリクエスト(要請)していたことがわかっている。

こうした面々を外交ブレーンとする安倍政権は、しかし、米国の読みを見誤った。トランプ次期大統領は1月20日の就任日にTPPから脱退すると明言したのだ。

 

『毎日新聞』より

 

一方、インド外交は“成功”したと言える。11月11日、安倍首相は来日したモディ首相と会談し、インドの高速鉄道計画は日本の新幹線方式を採用することに合意。両者は日印原子力協定にも署名し,日本はインド向けの原発輸出が可能となった。準同盟関係と言える日印関係は今後,中国牽制の強力なカードとなる。

他方、ベトナムへの原発輸出は一度は決まったものの、11月下旬にベトナム国会が白紙撤回を決め,日本の目算は狂った。

対インドでは成功し、ベトナムでは失敗、TPPでもつまずき、最大の成果としたっかた日ロ会談の成果は「ゼロと言うしかない」(自民党担当記者)状態。「中国包囲網」は迷走している。

 

“止血”をするNHK

「流血」ばりの痛打となった日ロ会談だが、傷口を素早く手当てする人員が揃っているのがこの政権の強さでもある。

NHKは12月18日、NHKスペシャル「スクープドキュメント 北方領土交渉」を放送し、見事なまでの「止血」をやりとげた。対ロ交渉がいかに難しいものであったか、ロシア側の要求がいかに度を超していたか、そんな厳しい国を相手に安倍政権がいかに果敢に向き合ったかを懇切丁寧に描いて見せたのだ。

 

写真提供・ 『週刊金曜日』編集部

 

驚かされるのは、番組の中にプーチン会談の直前になされたという政権中枢の会議の様子まで映っていたことだ。映像(写真参照)には「悩める姿」を見せる安倍首相を中心に、向かって左が谷内氏、その左には秋葉氏、首相の右に今井尚哉(たかや)・首相秘書官、その右には杉山氏(外務事務次官)が映っている。こんな映像が撮れる記者はそういない。

番組の締めくくりは安倍首相本人のインタビューだった。「重要な1歩になった」ことをくりかえし強調する安倍首相に話を聞いているのは、例によって、首相ともっとも近い岩田明子記者である。

「スクープドキュメント」について政治部記者が呆れて言う。「スクープというのは政権が嫌がる内容を記者がすっぱ抜くことを言います。この番組は政権が流してほしい内容をNHKに撮らせ、流しただけ。スクープではなく単なるリークです」

「日ロ会談」を通して浮かび上がったことが二つある。日米同盟に固執する日本の態度を、ロシアが見透かしていること。そして、ロ米関係に回復の兆しが出てきていることだ。

11月上旬、モスクワで開かれた谷内氏とバトルシェフ安全保障会議書記の会談が「決裂した」という情報がある。「決裂」の中身は詳らかにされていないが、『朝日新聞』(12月14日付)によると、バトルシェフ氏は谷内氏に、歯舞と色丹の2島を引き渡した場合「島に米軍基地は置かれるのか」と質問。これに谷内氏が「可能性はある」と答えたことでロシアの態度が急激に硬化したという。冷戦時代のマインドを日本が引きずっていることにロシア側が苛立ちを示した恰好だ。

クリミア併合やウクライナ危機に対し、G7はロシアに経済制裁を強めてきた。そんな中で日本はロシアにとって唯一「話せる国」だった。だからこそプーチンは日本との協議に前向きだったのだが、風向きは変わった。

 

ユダヤ系ロビーの影

ユダヤ系ロビーに詳しい官邸関係者は「トランプ勝利後、ユダヤ系ロシア人のロビー活動が活発化している」という情報分析を小誌に示した。「資源系のロビイストがロシアと米国の接近を後押ししている。」というのだ。

トランプ次期米政権の国務長官候補であるレックス・ティラーソン氏(左)とユダヤ系ロシア人の実業家(石油王)、英国のプロサッカーチーム「チェルシー」のオーナーであるアブラモヴィッチ氏(右)は米露関係の改善に取り組んでいるだろう

 

その代表格がアブラモヴィッチだという。ユダヤ系ロシア人のアブラモヴィッチは「石油王」の異名をとる実業家だ。

真偽のほどはともかく、トランプ政権の国務長官にエクソンモービル会長兼CEOのレックス•ティラーソン氏が就くというニュースはロ米関係の行き先に大きな示唆を与えている。ロシアの油田開発を通して、プーチン大統領と20年来の親交がある親ロシア派の代表格だからだ。

「中国包囲網」ばかりを追い求めてきたこの国は、世界の潮流から取り残されつつある。

 

  人民中国インターネット版 2017年1月11日

 

 

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