瀬口清之・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹に聞く
文=呉文欽
2013年9月の習近平国家主席による提唱以来、すでに100を超える国家と地区が構想に応じた「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」。その国際協力ハイレベルサミットが、5月14日と15日の両日に北京で行われる。
しかし日本は目下のところ、「一帯一路」に関しては静観の態度を崩していない。中日国交正常化45周年の今年、「一帯一路」を利用した協力関係の方向性の発見と、「政冷経冷」といわれて久しい局面の改善は不可能なのだろうか。長年にわたり年4回の訪中でフィールドワークを続け、「『一帯一路』は国際社会への寄与だけでなく、中国国内でのサプライサイドの構造改革や日中経済協力の可能性を広げるもの」と「一帯一路」を評価する、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の瀬口清之氏に話を聞いた。
2016年、中国GDPの伸び率は6・7%でした。この数値から見た中国経済の行方をどう思われますか。
瀬口清之氏 昨年度は「第13次5カ年計画」の初年度で、最重要課題は、過剰設備の廃棄や過剰不動産の処理など構造改革の実行だったと思います。
それを踏まえると、2016年度経済成長率目標の6・5~7%はいささか高過ぎだったでしょう。仮に過剰設備の廃棄や過剰不動産の処理を進めれば、重工業系の産業は設備投資が伸びず、地方政府の財政収入が上がらないことで、インフラ投資もさして伸びなかったと思います。それに伴い経済成長率が低下すれば、設備や不動産の過剰がより明確となり、それらの削減を進めやすい状況が生じたはずです。ところが去年の高い目標設定では、景気刺激策としてインフラ投資や不動産投資拡大などを促進したことから、全体として不動産の処理が後退してしまったという面がありました。同時に、インフラ建設投資拡大により鋼材需要が伸びて鋼材価格が上昇し、高炉の採算が改善したため、本来つぶれるべきゾンビ企業の高炉がまた動いてしまったのです。
しかし、昨年後半に景気刺激のために無理をしなかったのは賢明でした。昨秋以降、経済が少し強めで推移しているようなので、今年は特段の景気刺激策を実施しなくても自然に6・5~6・6%に落ち着くでしょう。昨年集中的に過剰設備の廃棄や過剰不動産の処理を進めたことで今年は負担が軽くなるため、今年の経済成長率は昨年よりやや強めで推移するかと思います。
昨年のサプライサイドの構造改革の成果をどう見ていますか。今年の展望も併せてお聞かせください。
瀬口 昨年、国有企業改革の一環として、宝山鋼鉄集団(宝鋼)と武漢鋼鉄集団(武鋼)の合併が新たに提示されたことに注目しています。基本的には効率の悪い武鋼のリストラを視野に、吸収合併で宝鋼を残し、武鋼をつぶすというのが大きな目的であったと私は見ています。
日本でも、吸収合併で片方をリストラする方法はほとんどうまくいっていますが、双方を残そうと試みる合併はうまくいかないケースが多いのです。
今回の武鋼と宝鋼は吸収合併の方式なので、うまくいくパターンに乗っていると思いますが、心配なのは、大型国有企業の武鋼が宝鋼の言うことを素直に聞くかどうかです。中央政府の過剰設備削減の基本方針に沿って合併後のリストラを実現するには、中央政府の武鋼幹部に対する強力な働き掛けが重要です。これがきちんと実行に移されれば、合併後に経営効率が改善し、利益が上げられる企業への転身も可能だと思います。このような形で上記の合併が成功すれば、国有企業改革の成功事例として、金融機関や自動車など、他の産業における非効率な企業の吸収合併のモデルケースになると思います。
昨年12月に開催された中央経済工作会議において、今年のサプライサイド構造改革の柱である実体経済の振興策として、匠の精神(工匠精神)の発揚と百年企業(百年老店)の経営理念重視の二つが提案されました。政府関係者から聞いた話では、この目標は日本とドイツが念頭にあるとのことで、とてもうれしく思います。1995年から2016年までの中国向け直接投資の累積金額を見ると、日本はほとんど1千億㌦に達しているのに対し、ドイツは300億㌦にも達していません。こうしたこれまでの実績の大きな違いから見て、実際には上記の基本方針は日本企業の経営モデルを最も強く念頭に置いていると理解して差し支えないと思います。中国の非常に重要な経済政策の柱として、「日本に学べ、日本と提携せよ」という言葉が明らかに掲げられたのはとても画期的であり、今こそ中国と協調発展のチャンスなのです。ですから私は日本の各企業に、中国への直接投資増加をと強く繰り返し主張しています。
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