現在位置: ニュース>経済
供給側改革に全力

 

2015年2月の春節(旧正月)期間中、数十万人の中国人観光客が日本を訪れ、家電製品やアクセサリー、腕時計、薬、化粧品などを大量に購入した。同年10月の国慶節の連休にも、中国人観光客は争うように日本で温水洗浄便座や炊飯器を買い求め、中日メディアのホットな話題になった。日本の観光庁の統計によると、中国大陸の観光客の旅行消費額は昨年、訪日外国人全体の4割を占めた。また1人当たりの旅行支出は国・地域別で1位の28万3842円に上り、「爆買い」という言葉が日本の流行語になった。

2016年2月の春節では、中国人は日本で「爆買い」を続けただけでなく、インターネットを通じた外国製品の直接購入を繰り広げた。もはや買い物の対象はぜいたく品や粉ミルク、健康食品にとどまらず、筆記具やノート、冷却シート、馬油までもが人気商品になった。こうした海外ショッピングの多様化と外国製品に対する高評価は中国の若者の購買行動に特にはっきりと表れている。

ロサンゼルス大都市圏に位置する「サウスコーストプラザ」は米国西部で最大の高級ショッピングセンターだ。春節期間には数百の赤ちょうちんが飾られ、極彩色の丸天井に祝賀ムードが満ちる。この3年ほど、サウスコーストプラザが迎え入れる中国人顧客はますます増えており、1人当たりの消費金額も絶えず上昇している。フランスのファッションブランド「クロエ」の専門店で販売員を務めるビビアンさんは「中国の旧正月は私たちの商品が最も売れる時期です」と話す。

「爆買い」が示す需給矛盾

世界観光機関のデータによると、中国は2012年から連続で世界一の海外旅行消費国になっており、全世界の観光収入に対する寄与は年平均で13%を超える。昨年も中国の国外消費は引き続き世界一だった。

出国していない中国人であっても、ネットを通じて大量に海外の製品を購入している。中国で毎年11月11日は俗に「双11」と呼ばれ、ネットショッピングの大セールが行われる。昨年のこの日、アリババグループの大手ショッピングサイト「天猫(Tモール)」は912億元(約1兆5355億円)の取引高を記録し、3000万人以上の中国人が日本の紙おむつや韓国の化粧品、オーストラリアの粉ミルクなどを購入した。回復力が乏しく、自信を失っている世界経済に中国人の消費はぬくもりを与え、世界の商業者も中国のもたらす大きな幸運にいっそう期待するようになった。

だが「爆買い」と外国製品の直接購入によって中国社会は別のことを深く考えるようになった。08年の世界金融危機以降、世界の消費市場は低迷を続け、輸出頼みだった中国経済は過去にない困難に陥った。これに対して中国政府は内需拡大に転じ、国内消費によって経済発展の持続力を維持しようとした。しかし、今では中国の消費者は海外ショッピングに支出し、国内の製品は大量の在庫になっている。これは具合の悪い状態だ。

魏亮・中国現代国際関係研究院経済安全研究センター主任は次のように分析する。「『爆買い』は現代中国の『需給のずれ』を描き出している。日増しに高まる人々のニーズと生産力が釣り合っていないという矛盾に中国経済が依然として直面していることの反映だ。一般の人々のニーズは絶えず増え、いっそう多様化し、深くなっている。中国はすでに供給不足の時代に別れを告げ、一部の伝統産業の供給能力は大幅に需要を超えるほどになっている。供給を刷新して初めて多様な消費ニーズ、特にハイエンドからミドルレンジのニーズを活性化し、満足させられる」

過剰在庫を重点的に解決

「需給のずれ」は中国経済の持続的な発展を制約する最大の障害になっている。一方では立ち遅れた国内企業が社会資源を独占的に使い、生産された大量のローエンド製品は倉庫で眠っている。もう一方では人々の実際のニーズが満たされず、国内の消費不振が続く。生産すればするほど浪費になり、投資すればするほど損失を生むこのいびつな状態を中国政府は重く見て、政策決定層は構造的な調整を進めることを決意した。

2015年11月10日、中央財経指導グループ第11回会議が開かれ、グループリーダーを兼ねる習近平国家主席は次のように述べた。「全体的なニーズを適度に拡大すると同時に、サプライサイドの構造改革に力を入れ、供給システムの質と効率の向上に力を入れ、経済の持続的な成長の原動力を強め、わが国の社会生産力レベルの全体的な飛躍の実現を推し進める」。これにより中国経済に「サプライサイド改革」という処方箋が出された。

過去三十数年に及ぶ改革開放で、中国は主に投資と消費、輸出の「トロイカ」で経済成長の問題を解決し、目覚ましい成果を挙げてきたが、同時に危険も覆い隠してきた。楊偉民・中央財経指導グループ弁公室副主任は「長年の行き過ぎた投資により、実体経済での生産能力の過剰や不動産の大量の在庫、超大型で必要以上のインフラ建設、工業系企業の高債務、銀行が抱える多くの不良資産などの問題が起きてしまった」と指摘する。特に世界経済が低迷する中で、山積みになったこれらの問題をうまく解決できなければ、リスクを引き寄せかねない。

「経済は1枚のコインのようなもので、需要と供給が表裏の関係にある。長らく私たちはマクロ調整について語るとき、需要側に比較的重点を置いてきた。つまり投資と消費、輸出だ。過去5年間、私たちは一貫して内需拡大の戦略と政策を実行してきたが、経済は減速し、工業製品の価格は下落し続け、企業の利益は下がっている。もう需要の調整で問題を解決できなくなっているのは明らかだ。このため、中央政府は実際の状況に基づいてサプライサイド改革のプランを打ち出した。過剰在庫の問題を重点的に解決しなければならないということだ」。楊副主任はこのように解説する。

「中所得国のわな」を回避

中国政府の処方箋による「薬理作用」は何か。言い換えれば、サプライサイド改革の精神は何か。著名な経済学者の厲以寧・北京大学光華学院名誉院長は「寺にくしを売る」という次のような物語でその意義を述べた。

くし工場に4人のセールスマンがいた。経営者はくしを寺院に売るよう4人に命じた。1人目のセールスマンは何の成果もなく戻ってきて、「寺の僧侶はくしを全く必要としていません」と言った。2人目は僧侶たちに「あなた方は髪を伸ばしていませんが、くしで頭皮をいつもマッサージすれば血液の循環に役立ち、長生きできます」と説明し、10枚売った。3人目は100枚売った。寺の参拝客が焼香でいつも髪の上に灰をかぶっていたため、彼は「もし寺がくしをたくさん用意しておけば、参拝客は気遣いに感謝し、ますます人々が訪れるようになるでしょう」と住職にアドバイスしたという。4人目は1000枚の注文を受けて帰ってきた。彼は「仏教の名言をくしに彫り、『吉善くし』と命名して善男善女に贈りましょう。宗教文化を付け加えたくしは参拝客をより敬虔にするでしょう」と住職を説得したのだった。

同じ商品でなぜ異なる販売成績が出るのか。主に製品の効用に対して4人のセールスマンが別々の理解をしていたからだと厲名誉院長は考えている。「1人目はくしとしての用途でマーケットを考え、目標とするマーケットを基本的な用途の範囲に絞ったため、販路がおのずから狭まった。2人目は商品の付加的な効用をやや広げたため、販売効果が大きく変わった。3、4人目は発想がうまく、より大きなマーケットのニーズを満たせる新しい効用と価値を発掘し、達成できないように見える仕事を最終的に成し遂げた。くしの新しい効用を見いだす上で頼りになるのは革新だ。ではサプライサイド改革は現在の中国が直面する経済問題を効果的に解決できるのか。鍵になるのは革新の精神をどう実行するかだ。それがサプライサイド改革の成否に直接関わってくる」

 

サプライサイド改革は差し迫った構造的なモデルチェンジの問題だけでなく、長期的で持続可能な発展を促し、「中所得国のわな」を回避するための戦略的な布石に着目しているのだと海外のアナリストは気付いている。世界銀行の基準では、中国はすでに中所得国になっているが、先進国グループに身を置くには国民の平均収入が1万2000㌦(約130万円)の上限を突破し、「わな」を避けなければならない。世界銀行のデータによると、1960年時点で中所得国のグループに入っていた101の国・地域のうち、高所得国に発展できたのはわずか13の国・地域だけだ。例えば、大多数の南米の国家は60、70年代に中所得国になった後、スタート条件の似ていた「アジア四小龍(香港、台湾、シンガポール、韓国)」のようには高所得国・地域に発展できていない。原因を追究すると、技術の飛躍的な進歩や経済の構造調整、制度の革新などを実現できていないことが挙げられる。これらは全てサプライサイド改革の内容に含まれるものだ。

このため、中国の各級政府の政策でも、社会に奉仕するために世に出した公共製品でも、また中国企業が製造した商品でも、今後は必ず革新の精神を発揮し、絶えず発展・変化する人々とマーケットのニーズを実務的な態度で満足させなければならない。もし社会全体の革新ブームを導くなら、サプライサイド改革のプラスの効果は経済分野にとどまらないだろう。

70、80年代の米英に先例

サプライサイド改革の理論はサプライサイド経済学から来ている。生産の伸びは労働力や資本などの生産要素の供給と有効活用によって決まり、市場は生産要素の利用を自動的に調節するため、市場の調節を妨げる要素を取り除くべきだとサプライサイド経済学では考えられてる。このため、マクロ調整政策の重点を生産の刺激に置くべきだとする。

米国と英国はかつてサプライサイド改革でモデルとなる実践を行っている。70年代の米国ではインフレ率が13・5%、失業率が7・2%に達し、経済の成長率はマイナス0・2%まで下がった。この時期、米国経済にも高すぎる税率や輸入制限、価格統制など多くの構造的な問題があった。81年にレーガン大統領が就任すると、サプライサイド経済学の主張を実行し、経済再生計画を打ち出した。彼は主に減税を進め、政府の関与を減らして財政支出を削減し、マネーサプライを減らした。この経済政策は「レーガノミクス」とも呼ばれ、大きな成功を収め、米国経済は大きな安定の時代を迎えた。

英国は70~80年代に高率のインフレと低成長のスタグフレーションに陥り、小売価格が25%上昇し、国内総生産(GDP)はマイナス成長に転じた。また巨大な力を持つ労働組合と多すぎる国有企業、政府の過剰な関与などの構造的な問題に直面していた。79年に就任したサッチャー首相はまず金融引き締めによってインフレを抑制した。同時にサプライサイド経済学の観点に基づいて国有企業の民営化と減税、物価統制の撤廃などの改革を進め、経済への政府の関与を減らした。改革を経て悪性のインフレは抑制され、英国経済は上向きになった。サッチャー首相の構造改革は英国経済を救ったと考えられており、その改革理念は「サッチャリズム」と呼ばれてたたえられている。

中国は目下、当時の米英のようなスタグフレーションには直面していないが、経済の構造的な問題は似ている。例えば一定規模以上の工業企業が持つ総資産のうち、37%は国家の投資から来ている。しかし昨年の第3四半期における利潤の増加率を見ると、政府の投資を受けているそうした国有・国有持ち株企業は前年同期比で30%近い下げ幅を記録している。これは国有企業が大量の経済資源を独占的に使いながらも非効率的に運営され、経済の妨げになっていることを示している。また銀行融資の獲得は国有企業にとっては比較的容易だが、民営企業には非常に難しい。たとえ中央銀行が金融緩和政策を採用しても、資金の大部分は国有企業やその関連企業に流れ、民営企業の融資調達コストは依然高いままだ。これらは供給側の問題だ。

公平考慮し特色ある政策

レーガノミクスは減税に、サッチャリズムは国有企業の民営化にそれぞれ重点を置いた。その本質は経済面で自由主義をあがめていることだ。減税なのか各種の規制緩和なのかを問わず、政府の行き過ぎた関与を減らし、市場を活性化させた。現在、中国にも経済に対する政府の過度の関与がある。金融や通信、エネルギー、交通、教育、医療衛生など多くの分野では、民営企業への開放レベルが低く、価格統制が存在している。このほか、企業の税負担が重すぎ、経済運営の効率まで下げている。米英のサプライサイド改革と比べ、中国が過度の自由主義をあがめるはずはない。市場にも効力を失う場合があるほか、中国政府は社会の公平性という問題を考慮しなければならないからだ。

このため、中国はサプライサイド改革の推進に当たって、①遅れた生産能力の淘汰②過剰在庫の整理③政府関与の減少④企業コストの削減⑤ハイエンドやミドルレンジの産業発展―を並行して進める総合的な措置を打ち出した。オーストラリアの経済学者ピーター・ドライスデール氏によれば、中国のサプライサイド改革は財政・税務改革と構造調整、「行政のスリム化と権限委譲(2)」、産業の革新など多様な手段を通じ、適切な役割を発揮するよう市場を導き、市場の需給関係を正常化し、全要素生産性を高める必要があるという。

サプライサイド改革が解決するのは経済の構造的な問題であるため、実施期間が長引くだけでなく、多くの人々の利益に衝突するだろう。中国の特色あるサプライサイド改革は始まったばかりで、今後の進展には政策決定者の気迫と執行者の知恵、社会全体の支持が必要だ。しかし、改革の始まりに際して中国経済、ひいては世界経済に発した積極的なシグナルは、人々の期待を大いに高めている。

 

 

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。 京ICP備14043293号
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010)6831-3990  FAX: (010)6831-3850