ソフトパワーと和諧世界
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2007年12月、北京で中日青年アニメ漫画短編作品コンテストが挙行された
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張季風 今回、私は五十人の学者といっしょに日本を訪問しました。欧米や東南アジアにいた人が多く、数人を除き初めての日本訪問でした。彼らは「日本はきれいだ」「国民の教養レベルが高い」「礼儀作法が良い」「国全体で管理が行き届いている」「日本のイメージがすっかり変わった」などと言っていました。帰国後、彼らが日本で感じたことを教え子たちに語ってくれるでしょうから、対日理解の促進に大いに役立つと思います。
江原 昨年12月の福田首相の訪中で、今年を「日中青少年友好交流年」とし、両国の「戦略的互恵関係」の内容を充実させるために、文化、学術、環境保護、科学技術、メディア、映画・テレビ、観光などの分野で青少年交流活動を進めることになりました。昨年は「3万人交流事業」で多くの高校生が相互訪問しています。
青少年交流や両国民の往来を増やし、相互理解を促進していくことも、日中間の貿易や投資交流の拡大に勝るとも劣らないと思います。ソフトパワーにはいろいろありますが、そのねらいは、等身大で相手を理解しよう、好感度を上げる努力をしよう、ということだと思います。日中関係は経済関係が先行していましたが、学者の往来、青少年の交流、そして要人の頻繁な相互訪問はソフトパワーそのものです。ソフトパワーが発揮されると、経済関係の円滑な発展のための基盤が築かれるわけです。
胡錦涛主席の訪日で、さらにレベルアップされた交流が生まれることが期待されています。
張季風 昨年、一昨年と中日首脳の相互訪問により、両国関係に「春」が来ました。その「春」に、きれいな花を咲かせよう、中日両国は世世代々、友好を続けていきましょう、という中国人民の誠意を伝えるのが、胡錦涛主席の訪日の大きな目的でしょう。
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「中国文化フェスティバル2006」で、北京のおばさんたちが東京の街頭をヤンコー踊りをしながら行進した
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中国では2005年10月に開催された中国共産党の第16期中央委員会第5回全体会議で「和諧社会」(注5)の建設が打ち出されました。
「和諧社会」では、経済発展と環境の調和、格差是正、貧困救済などを重視しています。この「和諧社会」をいっしょにつくりましょうというのも訪日目的にあるでしょう。
江原 「和諧社会」は中国のことではないのですか。
張季風 「和諧社会」を世界に発信して「和諧世界」つくるということです。「和諧社会」の「和」は中国の伝統的文化・考え方を代表しています。これを生かしてソフトパワーを対外発信していこうとしています。
江原 「和諧社会」は中国のソフトパワーということですね。これまで中国は世界からたくさんのものを受け入れてきました。世界各国からの企業、文化、製品、そして観光客などなどです。こうして中国に「外国要素」増えてきました。同時に、中国も世界にいろいろなものを発信しています。中国企業の海外展開が注目されていますが、中国は中国文化や伝統を今後積極的に対外発信しようとしています。日本の多くの大学に孔子学院が設置されるなど、日中両国が経済、文化などいろいろな分野で交流が活発化しています。張先生は両国の経済交流はハイレベルで「徘徊」しているといわれましたが、交流の幅が拡大すれば、また経済交流も新たな広がりを見せるのではないでしょうか。
経験を鑑に学びあう
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今年1月、東京の中国大使館で開かれた集会で、中国の崔天凱駐日大使(左)は日本の歌手、芹洋子(中央)と、中国の歌を歌った(新華社)
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江原 ところで、張先生は、中国を代表する日本研究者ですが、今後の日中関係をどう読んでいますか。
張季風 江原先生は中日貿易は水平関係になりつつあるといわれましたが、日米や日欧に比べれば、中日はまだ補完関係にあると思います。中国は農業人口が多く、東芝、トヨタ、新日鉄などのように世界に通じるブランドをもっている企業はありません。
鄧小平さんが、1979年に日本を訪問し、新幹線に乗って各地を視察し、近代化とは何であるか、大いに参考になったといわれます。中日両国は地理的に近く、歴史的にも国情的にも似かよっており、欧米よりまだまだ勉強するに値する国です。
今、中国経済はバブル化しているといわれ、インフレ抑制に乗り出しています。日本は、70年代の石油危機、狂乱物価を乗り越え、高度な省エネ技術や環境保全技術を開発しました。産業構造を調整し、企業は減量経営を徹底しています。今の中国はこうした日本の経営を学ぶことが出来ると思います。(日本貿易振興機構海外調査部主任調査研究員 江原規由 VS 中国社会科学院日本研究所経済研究室主任 張季風)
注1 他の3つは、『中日共同声明』(1972年9月29日)、『中日平和友好条約』(1978年8月12日署名、10月23日発効)、『中日共同宣言』(1998年11月26日)
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注2 日本側の統計(財務省貿易統計をJETROがドル建て換算したもの)では、日本側の赤字(主に香港経由をどうカウントするかの違いによる)
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注3 「三北」は華北、西北、東北のこと
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注4 中国企業の海外進出(工場建設、海外企業のM&A、海外上場、資源開発、販売拠点の確立など)
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注5 調和のとれた社会のこと
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人民中国インターネット版
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