2009年2月28日、北京長富宮飯店で元中国シンクロナイズドスイミング国家チームのヘッドコーチ井村雅代氏による講演会が行われた。テーマは「本気で向き合った北京オリンピックへの道―シンクロがつないだ日中の絆―」である。今回の講演会は国際交流基金北京日本文化センター及び北京日本人会が主催し、在中国日本大使館が後援している。会場には中日双方の聴衆が詰めかけ、井村氏の真心のこもった話を傾聴した。
井村コーチは2006年12月に中国国家チームのヘッドコーチに就任し、1年8ヵ月の短い期間で中国チームを北京オリンピックでメダル獲得にまで導いた。日本では多くのオリンピック選手を育て、たくさんのメダル獲得を成し遂げた井村コーチであるが、中国チームを指導することによって、中国でも数多くの人に尊敬され、親しまれるようになった。
今回の講演の中で、井村コーチは中国でチームを指導していた1年8ヵ月の間の訓練、生活や中国の選手たちをはじめとするたくさんの中国人とのこころからの付き合いを語った。
アジアの仲間に頼まれたら断れない
井村コーチによく聞かれる質問がある。「どうして中国チームを指導するようになったのですか?」である。
最初に中国からチーム指導の相談がきたときに、井村コーチはこう考えた。
「中国と日本はもとをたどれば同じ民族であり、しかも同じくアジアの仲間である。そんなアジアの仲間に頼まれたら断れない」
そして、シンクロという競技は、スポーツ性を持っていると同時に、芸術性も強い。だからそれぞれの国のシンクロに、それぞれの芸術的特徴がある。日本流のシンクロもあれば、中国流のシンクロもある。中国でシンクロを教えるのは、日本のシンクロをアピールするいいチャンスでもある。
しかし、井村コーチは、日本国内の反応に驚いた。「敵国に技術を売る」、「国賊」、「裏切り者」などの声である。井村コーチはそのような声に対して、「自分はけっして人の道に反しているようなことはしていない」と強く確信している。日本にもたくさんの外国人コーチが来てスポーツ技術を伝授しているし、第一中国から「力を貸してくれ」と頼まれ、本気で中国チームを強くしようと求めている。同じアジアの仲間として力を貸さないわけにはいかない、という井村コーチの強い信念があったのである。
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