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「本気は通じ合う」
-井村雅代コーチが見た日中スポーツ交流-

 

「仕方がない」という言葉はない

2006年12月、井村コーチは日本国内のさまざまなプレッシャーに耐え、中国シンクロナイズドスイミング国家チームに来た。

井村コーチの言葉によると、自分がチームに来たことで、選手たちは三つの困難に臨まなければならなくなったという。練習時間が長いこと、たくさん食べることと言葉が通じないことである。毎日10時間余り練習させて筋肉をつけ、いっぱい食べさせてエネルギーを摂取し体力を鍛える。選手たちにとってはいままでにないきびしい訓練だった。体中が痛かった。ダイエットトレーニングのためずっと少食に慣れていたので、たくさん食べることがかえって苦痛だった。

しかし、井村コーチを感動させたのは、たとえどんなにトレーニングがきびしくても、どんなに思い通りにできなくても、選手たちがぜったいにあきらめないことである。

「日本人はよく『限界です』という言葉を口にします。しかし中国人は違います。私が思うには、人間って、限界がないんです。『死ぬ気で行け』という言葉はここの子には通じるんですね。選手たちは奨の期待をいっぱい背負っていますから、途中でやめるという選択肢はないんです」

そんながんばっている中国の選手にぜったいにメダルを取らせてあげようと井村コーチが思った。

そんな時にやってきたチャンスが、3ヵ月後にメルボルンで開かれた第12回世界水泳選手権大会である。井村コーチはこの大会を「戦い前の戦い」とみなし、1年8ヵ月後の北京オリンピックという正念場の戦場に行く前の大事な戦いの場と位置付けた。ところが、そこに思わぬことが待ち受けていた。まだ選手たちの体にコーチが要求する技術につりあう筋肉がついていなかった。選手権大会までたった3ヶ月間。きっちりとした筋肉をつける時間がない。けれど、3ヵ月後の大会でどうしてもなにかをアピールしたい、そう思う井村コーチは方針を変えた。「お愛想笑い」「あいさつする」「ありがとうを言う」の三つを選手たちに要求した。この3点を通して、中国チームは「明るいチーム」、「元気なチーム」、「勢いのあるチーム」だというイメージを世界にアピールすることにした。

メダルが取れなくても、その積極的な姿勢で中国チームの強さとメダル獲得の予感を世界にアピールしたかった。

「私は『仕方がない』という言葉をぜったいに使いません。それを言ったら物事がとまるから。『仕方がない』はずはない。うまくいかないときは、がんばり方を変えればいい」と井村コーチは微笑みながらそう語った。

そして2007年5月から、ついにオリンピックをめざして本格的なのトレーニングを始めた。日々の訓練の中で、「1ミリの努力」という井村コーチの指導方針が選手たちに堅実に、速やかに浸透した。練習する毎日がはっきりとした達成できる小さな目標を持ち、それを次から次へと成し遂げていくうちに、選手たちに達成感と自信をもたらし、最後に大きな目標――オリンピックでメダルを獲得することにつながる方針だった。普段の地道な努力が必ず良い結果を実る。井村コーチはそう信じている。

「私は結果がすべてだと思います。価値は過程になく、結果にあります。よい結果が出たときにはじめて過程が輝く。だから、『先生の練習はきつかった、長かった。けど、それがあったからこの結果があるのよ。先生についてきてよかった』って言わせたいんです」

 

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