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「本気は通じ合う」
-井村雅代コーチが見た日中スポーツ交流-

 

胡錦濤主席から「感謝」を

中国でシンクロを教えている日々は中国から徹底的に信用されていた日々であった。国家体育総局水泳運動管理センター水球•シンクロナイズドスイミング部部長の兪麗さんは井村コーチにこう言ったことがある。

「中国チームのヘッドコーチはあなたです。あなたは言う人、私は支える人。あなたを全面的に支えます」

そのとき、井村コーチはがんばっている子どもたちにメダルを取らせてあげたいと思った。

北京オリンピックを間近に控えたある日、中国国家主席胡錦濤氏にお目にかかる機会が訪れた。胡錦濤主席は井村コーチに、「科学的なトレーニングで中国のチームを強くしてくださって、とても感謝しています」と感謝の言葉を贈った。

井村コーチは胡主席と身近に接して、「優しそうなまなざしをしている、人を包み込むようなあたたかいお方です。逆にこの方のどこにこの国を仕切るきびしさがおありでしょうかと考えてしまうんです。海のような、空のような大きなお方です」との感慨を覚えた。

また、北京オリンピックが終わったある日、井村コーチがタクシーに乗った時のこと。運転手さんが中国シンクロナイズドスイミングチームを指導するあの井村雅代コーチだと知ると、「中国の選手にメダルを取らせてくれて、ありがとうございます」と感謝した。

井村コーチはよく中国で幸せなコーチのひと時を過ごしたと言っている。自分のことを完全に信用し、支えてくれる中国。自分の努力を認め、真摯に感謝してくれる中国。そんな中国に「感謝しています」と井村コーチは言った。

自分だけと向き合った三日間

全身全霊で中国のシンクロナイズドスイミングの指導に力を尽くした井村コーチは、北京オリンピックで、中国チームでデュエットとチームの二つのメダルを獲得したかった。しかし、2008年8月20日のシンクロデュエットの決勝戦では、中国チームはメダルを逃した。

第4位という中国にとっての史上最高の成績だったが、メダル獲得を目標に掲げてきた井村コーチは自分が自分で許せなかったのだという。しかし、いくら落ち込んでも出た結果は覆ることができない。2日後の23日にはまだチームの決勝戦が控えている。そう考える井村コーチは誰よりもはやく気分を切り替え、チームメダルを取るためには何をすればいいかばかりを考えていた。

「デュエットが終わってからチームが始まるまでの間、いつ寝たかいつ起きたか何を食べたかまったく記憶がなかった」と、今になってやっと冷静に語れるようになった当時の状況を、井村コーチは淡々と語る。

デュエットの試合が終わったとき、中国のあるシンクロ関係者の方は井村コーチにこう言った。「中国のコーチはオリンピックの経験がありません。あなたにはたくさんの経験があります。よろしくお願いします」

その言葉に託された信頼を感じた井村コーチは、選手たちを集めて、「デュエットはもう終わった。これからチームを考えよう」と言葉をかけた。チームの練習を始めた。

「選手を支えるのは練習しかない」と考えた井村コーチは、練習を通して選手たちをメダルを逃した不安から守りたかったのだ。

チームの雰囲気を変えるため、選手村で一番人通りの多い場所で手で足技を表現するランドドリルの練習もした。すると、周囲の人が写真を撮ったり、手をたたいてくれた。人の目を怖く感じ始めていた選手らは見られることに対して徐々に自信をつけていった。

21日から23日までの3日間は、井村コーチが自分だけと向き合った時間だった。ほかの人に相談したらみんなが不安になるのがこわくて、誰にも何も言わずにずっと一人で考え続けていたという。試合に行く前に、どういう声をかければ選手たちに力を与えられるだろうとずっとずっと考えていた。

勝負のときがついにきた。井村コーチが選手たちを送り出すときに言った言葉は、「ここは北京。あなたたちの故郷です。みんな応援している。あれだけ練習したから、大丈夫よ」だった。

そんな言葉を胸に試合に臨んだ選手たちは見事に銅メダルに輝いた。中国シンクロナイズドスイミング史上初めてのオリンピックメダルである。

 

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