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伝説の京劇スター描いた中国映画 『花の生涯─梅蘭芳』に日本人の熱い視線

紀平重茂=文・写真

その美しさゆえに牡丹の花にたとえられたという京劇の名優、梅蘭芳。彼の波乱の人生を描いた中国映画『花の生涯─梅蘭芳』(チェン・カイコー監督)の日本公開は、同じ監督のヒット作『さらば、わが愛 覇王別姫』(1993年)以来の京劇ファンを満足させただろうか。先行上映された新宿ピカデリーでの観客の感想には、日本の歌舞伎と重ね合わせて評価する声の多いことが印象的だった。

『花の生涯─梅蘭芳』の魅力も着実に日本のファンに受け入れられたようだ。

映画は、梅蘭芳が古い因習にとらわれていた京劇を改革し芸術として高める一方、日本や旧ソ連、アメリカ公演も成功させるなど、中国を代表する京劇スターに育っていく姿を追う。若いころは内心の恐怖心と闘い、名声をあげてからは芸術と愛人との間を揺れ動く。日中戦争が始まると日本軍から圧力をかけられるなど幾たびも逆風にさらされながら、妻や師匠、友人、おじらとの愛憎半ばする交遊の中で大きく美しい大輪を咲かせていく。

休日朝からの一回目の上映。華やかな京劇世界と偉大な芸術家の人間ドラマに酔いしれてか、上気した面持ちで観客が次々に出てくる。圧倒的に中高年女性が多い。

『覇王別姫』見て京劇に興味

「『覇王別姫』を見たときに、こんな世界があるのかとびっくりして、それから京劇に興味を持ちました。今回も期待通りです」。こう話すのは東京都狛江市の永井さんだ。

「梅蘭芳を演じる若いときの俳優(余少群)が途中でレオン・ライに代わり大丈夫かなと思いましたが、それなりに良かったです。一番は女形の梅蘭芳とチャン・ツィイー扮する男形の恋人、孟小冬が性を倒錯させて演じあう場面で、ゾクゾクッときました。京劇の奥深さはすごい」と感嘆する。

埼玉県富士見市の教員、河野さんも「坂東玉三郎さんが梅蘭芳の演目『牡丹亭』を公演していたので、それで見ようと思いました。とくに若いときの梅蘭芳を演じた方がいい役者さんですよね。レオン・ライさんと交代したら急に背が高くなり女形としては違和感がありましたが、若い役者さんはレスリー・チャンみたいで将来が楽しみ。歌舞伎の好きな方でしたら映画はきっとおもしろいです。それから日本と中国との文化的な交流というのも私達は知っていていいと思います」と話し、生徒にも紹介したいという。

京劇の衣装に多くの来場者が足を止めて見入っていた

一方、レオン・ライのファンという神奈川県の薄元さんは「それも見に来た動機の一つですが、『覇王別姫』でも描かれたこの時代のお話が好きなんです。映画はどこの場面がというより全体的によかった。入場料は2000円で通常より高いけれど、それだけの価値はありました」と感想を寄せる。

日本の歌舞伎と通じるもの

友人同士で見に来た東京都品川区の山澤さんにも聞いた。「もうすっかり楽しませていただきました。こういう芸術は残すべきと話していたんです」と言えば、埼玉県所沢市の高橋さんも「そう、日本の歌舞伎と通じるものがあり、とても良かった」と満足そう。

すべての人の感想は聞けなかったが、元々の京劇ファン、歌舞伎ファン、そしてレオン・ライが好きという三つのファン層がメーンのように感じた。もちろん中国映画やチェン・カイコー監督のファンもいただろう。

青年時代演じた俳優へ賛辞

評価の内容も大まかに分けて三つに分類されるかもしれない。その一つ、梅蘭芳の青年時代を演じた余少群への賛辞が目立った。彼は中国・杭州地方の伝統劇である越劇の役者さん。元々は男性役だが、映画では美貌と演技力を買われ初めての女形を見事にこなした。1月下旬に監督と来日した際の記者会見場。舞台用の衣装を身にまとい京劇の代表的演目の一つ『貴妃酔酒』を縦2メートル、横3メートルという狭い演台上で披露したが、艶のある舞、表情に加え、宇宙の広がりまで感じさせる技術には驚かされた。思わず「好!」という掛け声をかけたくなったのをぐっと我慢したほどである。

その他の評価では歌舞伎と京劇という日中伝統芸能の共通点や違いをあげたり、『覇王別姫』と比較する声も多かった。 早くから日本に伝わった京劇

友人同士で見に来た山澤さんと高橋さん(新宿ピカデリー)

チェン・カイコー監督は映画化にあたって膨大な資料を読み込んで脚本作りに生かしたという。その中には梅蘭芳の詳細なデータが記述されている故・波多野乾一の著書も含まれていた。  梅蘭芳の来日は1919年、24年、56年の3度にわたり、外国公演の中でも目立って多い。また映画にも出てくるが、日本軍の中にも熱烈なファンがいて、尊敬する芸術家の政治的利用に悩む人もいたことだろう。京劇が早くから日本に浸透していた事情がうかがえる。

2月下旬に来日した主演のレオン・ライは筆者のインタビューにこう答えている。

「『レッドクリフ』のようにすべての中国映画が日本で400万人を動員することにはたぶんならないと思います。やはり見る側の好みもありますし、目的も方向も違います。人々がウインドーショッピングするような形で、お店はお店で見せますが、見る人の楽しみ方もそれぞれですね。それでいいと思います」

紀平重茂(きひら・しげなり) 1974年毎日新聞入社。東京本社社会部記者、生活家庭部編集委員などを経て、現在はテレビガイド「とっちゃお」編集長。そのかたわら中国の大陸や香港、台湾、そして韓国に出かけ、アジア映画の動向をウォッチし、コラム「銀幕閑話」をウェブサイト毎日jpで連載中。

 

 

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