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金融危機下の日本企業中国市場での活路

 

「リスク」を「チャンス」に変えるには

 

中国農業部国際交流専門家グループ代表 陳龍
世界的金融危機の影響を受け、中国に進出した多くの外資系企業は、輸出が低迷し、資金力が低下し、このため生産は停滞し、経営は困難に陥った。多くの外資系企業が中国から撤収しようと考え、その中には日系企業も少なくはない。

現在、中国に進出した日系企業は約2万社で、主に製造業である。もし現在、日系企業が中国市場から撤退すると、多くの現実的な問題や長期的な問題が派生するであろう。

現実的な問題から言えば、多くの日系企業は、進出した当初、土地や雇用、税金などでさまざまな優遇措置を受けた。もし契約期間満了前に撤退すれば、各種の高額な違約金を払わなければならず、免除された税金の返還など多方面の損失の賠償も請求される。長期的に見ると、日系企業の撤退は、いま持っている市場を無条件で手放すことに等しい。将来、経済情勢が好転し、再び中国市場に戻ろうとしても、それは非常に難しい。

では、現在の世界的金融危機の環境下で、日系企業は中国市場をどのように理解すべきか、どのようなポジションをとったらいいのか。私は見方を述べてみたい。

効果が見えてきた政府の対策

2008年5月10日、日本を訪問した胡錦濤国家主席はパナソニックを視察した(新華社)
今回の金融危機で、中国経済も大きな影響を受けた。2008年11月、私は広東省を視察したが、多くの輸出企業が生産を停止しているのをこの目で見た。一部の企業は、輸出品の受注がキャンセルされ、新たな発注もわずかしかなく、儲からないのに無理に生産を続けていた。ある企業は倒産し、労働者は賃金をもらえずに、大挙して都市から故郷へ帰らなざるを得ないという現象が起こっていた。

2008年の第3四半期以来、輸出は大幅に減少し、成長が減速し、2月の中国の工業生産の成長率はわずかな3.8%にすぎなかった。これは「改革・開放」政策が始まってから30年間でかつてなかったことだ。中国の経済構造は輸出主導型であり、過度に輸出に依存して経済を引っ張ってきた。2008年の輸出入総額は国内総生産(GDP)の60%を占め、対外依存度が高すぎるために中国の輸出企業が受けた影響は大きかった。

2008年の上半期、海外の経済情勢に対する判断が間違っていたため、政府は依然、経済過熱とインフレを抑制する政策を実施していた。不動産と株式市場に対する監督・管理に手を抜いていたから、不動産業と大衆株主の多額の資金が株式市場で、損失を抱えたまま塩漬けにされていた。これが多くの業種の発展に直接、影響を及ぼした。労働者の利益を守るための法律が制定されたが、企業にとっては人件費が増加する結果となった。こうした中国経済の抱える不良要素が、金融危機の衝撃で明白に暴露されたのである。

中国政府は4兆元を投資し、インフラ建設などの内需拡大によって金融危機に対応しようとしている
しかしこうした困難な状況に対して中国政府はただちに措置をとり、一連の重大な政策を打ち出した。その中には積極財政政策、「三農(農業、農村、農民)」問題の解決促進政策、技術改造の促進政策、中小企業の発展を支える政策、4兆元の政府投資などが含まれており、これらによって積極的に内需を呼び起こし、経済成長を促進するというものである。

金融危機の影響と国内の一部の問題を抱えながら、中国経済はほかの新興国の市場と比べて、依然として旋回する余地を多く残している。中国には大きな市場があり、しかもインフラへの投資の需要が大きく、個人の収入の増加がもたらす消費の増加の潜在力が比較的大きいので、輸出減少に伴う影響を緩和することができる。一連のコントロール政策が実施された後、現在、中国経済にはすでに緩やかに回復しつつある状況が現れてきた。

さらにうれしいことには、中国の多くの企業家が、金融危機によって希望をなくしてはいないことである。2009年4月、私は中国木材・製材業の年次総会に参加したが、そこは活気に溢れていた。経営者たちは企業を買収したり、新しい技術を購入したり、職工を養成したりして、企業を拡張したり、新製品を開発するのに忙しかった。「今度の金融危機は何も恐ろしくない。副作用を恐れて思い切りが悪いとチャンスを逸する。企業にとって危機は、自分の会社を再構築するいい機会であり、リスクよりチャンスの方が大きい」とある企業家は言った。

中国政府の積極政策や中国企業の確信と行動を分析した米国のある経済機関は、今回の金融危機から最初に脱出できる国はおそらく中国だろう、と予測している。

4つの面から中国を分析

孫子兵法に「彼を知り己を知れば、百戦殆からず」という言葉がある。中国市場に進出するなら、まず中国市場を理解しなければならない。それでは日本企業にとって、現在のチャンスはどこにあるのか。私はまず、国の発展にかかわる4つの要素、つまり市場、資金、労働力、技術からの面それぞれ述べてみたい。

【市場】 中国の人口は13億であり、大きな消費市場とかなりの購買力があり、しかも現在、政府が積極的に内需を拡大している。これらは日本企業にとって大きなビジネスチャンスをもたらすだろう。国の統計では、今年3月から、中国の消費はすでに9カ月連続で20%以上増加している。消費はますます経済成長を引っ張る役割を果たしている。中国国民の消費レベルは相対的にまだ低いといえるものの、専門家は、中国が毎年、GDPの伸びが10%で成長すると、2020年には消費の規模は30兆元を超えると予測している。この巨大な消費市場は、文化や娯楽、住宅、車、旅行など多くの面に集中し、こうした分野がこれからの消費市場で主流を占めるだろう。

【資金】 中国は金融システムが安定しており、しかも十分な資金を持っている。預貯金は21兆元、保有外貨は2兆ドルあり、毎年900億ドル以上の外貨を利用している。

最近、中国政府はたびたび商工業の企業家たちを組織して、米国やドイツなどの国へ大量買い付けに行かせている。こうすれば、中国は先進的な設備や製品を買い付けることができるし、売った国にも経済的実益をもたらすことができる。日本企業もこのチャンスを十分に利用して、中国に先進的な製品や設備を輸出することができる。いまは素晴らしい潮時であり、ビジネスチャンスである。

【労働力】 中国は人口大国であり、先進国から見れば労働力はかなり安い。とくに毎年、大量の大学卒業生が就職しなければならない。私は外資系企業を調査したが、外資系企業の中国の出先機関では、管理職のほぼ半分以上を中国人が占めていた。外資系企業に勤めている中国人社員は一般に素質が高く、知的な構想力から具体的なプロジェクトの開発まで、戦略的計画から具体的な仕事の実行まで、中国人社員は非常に重要な役割を果たしており、所属している企業に相当な経済的利益をもたらしている。

【技術】 中国の技術レベルはまだ高くはない。ハイテク分野や環境保護、省エネと排出削減、ゴミや汚水の処理、都市化建設などの面で大きな市場の需要がある。

注目すべきは、中国政府が食品の安全問題をますます重視していることである。食品安全にかかわる産業は新たな発展のチャンスがある。

6月1日から、中国では『食品安全法』が正式に実施され、食品生産企業の管理、技術、設備、担当者の責任などについて厳しい法律の規定を定めた。このため多くの食品企業は、基準に合格する製品を生産するため、設備の改造や技術革新、衛生基準をより厳格にするうえで多くの投資をした。と同時に、現地の政府も監督と処罰に力を入れるようになった。国は現在、食品企業に対し、政府の品質管理部門の係官を工場に派遣し、工場に駐在させて監督・管理を実施している。食品の製造や技術改造の面で日本の企業は、自ら保有しているすばらしい経験と技術、設備を生かして、中国と幅広く交流や協力を進めることができると思う。

日本企業へのアドバイス

日本企業が中国に進出するときは、自らの長所を発揮し、短所を避けなければならない。私は、多くの外資系企業が中国で失敗した原因の1つは、中国の市場と中国のビジネススタイルについて理解が足りなかったからではないかと思う。失敗した例を示すと――

北京に住む消費者の王さん(女性)は、ある日本の有名ブランドのプラズマテレビ2台を購入した。1台9980元もしたこのテレビは、2台とも1年余りで映らなくなった。王さんはアフターサービスのスタッフに何回も問い合わせをしたが、答えは「保証期間が過ぎているので、購入した値段の8割近い金をさらに払ってプラズマパネルを取り替えなければなりません」というものだった。

さらに困ったことに、調べてみると、この「アフターサービスセンター」は、日本メーカーの正規のメンテナンス部門ではなく、個人が登録して開いた修理店にすぎなかった。この日本の企業は、中国の消費者の消費レベルや消費心理を正確に理解していなかったので、中国でのアフターサービスも不完全なものになったのだ。実はこの企業の日本の本社は、中国の国情に合った投資戦略やブランドマーケティング戦略を制定できなかったので、最後は失敗する結果となった。

もう1つ強調したいのは、外資系企業が中国のマスコミの役割を軽視していることだ。

2007年11月、この日系企業の電子レンジは、有害物質の量が判定基準を超えていたことが発覚した。人々の安全にかかわるこれほどの大事件にもかかわらず、この企業は「ラベルが不合格ならば、ラベルを貼り直せばいい」と弁解し、その一方でマスコミに対し「余計なお世話だ。大げさだ」などと批判した。

2008年末、この電子レンジが家電の販売チェーン店から撤退したが、その際、マスコミに「販売店からさまざまな名目で費用を徴収されるのは耐えられないから」と言い訳をした。中国の消費者の目には、このような発言は道理に合わない強弁であり、誤りを認めない傲慢なものに見えた。メディアとの意思疎通を重視せず、消費者を尊重しないことで、この企業の名声はまったくなくなってしまった。

郷に入っては郷に従え

私は、現在の金融危機の下で日本企業がなすべきことは、中国市場を捨てることではなく、中国の内需拡大の好機を利用して市場を拡大することだと思う。

まずはハイテクによって品質で勝負することだ。環境保護や省エネ、排出削減、ゴミや汚水の処理、都市の建設などの分野において、自動車の電子部品や機械部品、光電子工学、農産物の高付加価値加工、ソフトの開発や包装、物流、環境保護などの産業、バイオエネルギー、保健製品などの多くのプロジェクトの中から、自分に適したプロジェクトを選んで、果断かつ速やかに市場のシェアを占めることだ。

また、中国で商売をしようとするなら、中国の人材を活用し、管理面では中国人の使い方を学ばなければならない。企業のカギを握る部門は、人事、財務、資材である。管理の面では、実際状況に基づいて中国側の社員の役割を発揮させ、仕事の面では彼ら個人の価値を発揮させなければならない。

最後に、中国の風土や人情について少し触れたいと思う。中国は国土が広くて、人口が多い。各地にはそれぞれの習慣がある。事業をうまくやろうと思うなら、「郷に入っては郷に従え」でなければならない。

例えば、中国人は面子を重んずる。日本の客人を接待するとき、誠意と情熱を示そうとして高級ホテルやレストランで宴席を設けることが多いが、日本人には、派手好みのムダ遣いのように感じられる。しかし、中国の企業は、日本側との協力の中で、日本側は中国側がしたように、気前よく客人を接待しないことに気づき、日本側はケチで中国側をバカにしていると恨み言を言うことが多い。だがそれは全くの誤解である。

金融危機の下に、チャレンジとチャンスがともに存在している。日本企業はこのチャンスをとらえて、日本製品の質の高さとハイテクの素晴らしさを発揮し、中国が内需を拡大し、消費を促進し、インフラ建設と技術改造に力を入れているのをチャンスとしてとらえれば、その企業は中国市場でしっかりと根を下ろすことが必ずできるだろう。

世界的な金融危機は、われわれに一時的な困難をもたらすだろうが、中日両国の企業の共同の努力によって、この困難は必ず乗り越えられると私は信じている。われわれの前には、すでに曙光が見えているのだ。

 

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