本誌特約レポーター・エコノミスト 陳言
目の前に来た新しい時代
日本に行くたびに、貿易会社に勤める胡俊才さん(50歳)は、かならず東京の秋葉原に行く。
胡さんが初めて日本を訪問したのは1983年。その時、秋葉原の免税店にはカラーテレビやラジカセが山ほど積んであった。それを見て、胡さんは目を丸くした。当時、中国人は、一回の外国訪問で一台のテレビを買う権利が国から与えられていた。それを利用して胡さんは、自分の家のテレビだけでなく、遠い親戚の分まで買って帰った。
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2009年9月、中国の胡錦濤国家主席(右)はニューヨークで、日本の鳩山由紀夫首相と会見した。これによって中日間の「政冷経熱」の局面は改善されつつある(新華社) |
2009年8月、中日両国の役者による昆劇『牡丹亭』が上海で上演された。左は坂東玉三郎(新華社) |
「あの時の免税店は、人、人、人でいつもいっぱい。それが今日のように閑散としてしまうなんて、想像もつかないよ」と胡さんは言う。しかし、現在、胡さんの自宅で使っている液晶テレビは、中国で買った中国ブランド品である。
秋葉原での買い物はテレビからビデオカメラ、デジカメへと発展し、もはや買うものはなくなった。それでも胡さんが秋葉原詣でを続けているのは、ここが日本の流行を感じ取る格好の場所だからだ。アニメなどは、息子から注文されてもいる。いくつかの大型電気製品の量販店に足を運び、何か新しい物はないかと物色する。流行っているアニメ、最新の若者のファッション情報などはデジカメで記録する。
「中国製が溢れている。ブランドはまだ日本製が多いが、中国ブランドのパソコンが日本のメーカーのものといっしょに並んでいるが、日本の消費者は製造元などを別に気にしないで買っている」。これは二十年前では想像もつかない変化だと胡さんは感じている。
ときどき日本の友人から「来年あたり、GDPで中国は日本を追い越すだろう。両国の経済関係はどう変わるだろうか」と聞かれる。胡さんは、いつ逆転するかよりも、むしろ中日両国が同じぐらいの経済規模になったので、やっと何かいっしょにやれるようになったのではないか、と考えている。
20年来の日本の友人も、髪の毛が薄くなり、酒の量も少なくなった。中国人の自分も日本人の彼も、普通の人だ。こうした普通の人が国境を越えて頻繁に付き合うというようなことは、歴史上、それほど多くなかっただろう。
「中国も日本もすごく変化してきた。日本人の持っているモノを中国人も持つようになった。これからは、日本にもない、中国にもないモノをいっしょに開発する時代になったのではないか。その時代はもう、すぐ目の前にきている」と胡さんは、自分の経験から近い将来をこう展望している。
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2009年7月8日、日本が中国人の個人観光ビザを発給するようになり、中国からの個人旅行客が初めて成田空港に到着し、温かい歓迎を受けた |
中日の経済関係にかぎって言えば、今こそパラダイム・シフト(思考の枠組みの遷移)の時に来ている。今年8月に行われた日本の総選挙は、日本の政治、経済などほぼすべての分野で変革を起こした。「アジア重視」は民主党政権の外交の大きな特徴である。
一方、GDPの成長率8%前後を確保する(これを「保八」と言う)と国内外に公約した中国は、年末になってこの公約を実現し、次は経済の持続的成長のために新たな政策を講じる時期に来た。GDPで肩を並べるようになった中日両国は、それぞれの経済発展のためには、これまで提起されてきた「戦略的互恵関係」を、より具体的に遂行していく時だと言っても過言ではない。
「戦略的互恵関係」を目指す中国と日本。それぞれの市場や社会にどんな変化が出ているのか、アジアに、二つの経済大国が現れることが何を意味するか今後どのような方向に発展するかなどについて探ってみたい。
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