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企業から市全体へ
研修生を通じて培った中日友好の歴史

パール金属株式会社代表取締役社長 高波久雄氏を訪ねて

                       文・光部愛 写真・賈秋雅

新潟県三条市は日本でも指折りの市民積極参加型の中日友好都市である。

インタビューに答える高波久雄社長

同市で20年も続いている「友好の翼」中国訪問ツアーには、毎年多くの参加者があり、1度に280人の市民が参加したこともある。ツアーの日程には、友好都市である湖北省顎州(がくしゅう)市訪問が組み込まれており、そこでは市をあげての大歓迎を受けるという。こうした交流の背景には、中国人研修生受け入れに長く尽力してきたある中小企業の存在がある。

第1回研修生を「我が子のように」迎えた日

三条市では、20年ほど前のバブル期に他の地域と同様に新卒者が大企業に流れ、地元中小企業は人材不足に陥っていた。同市ではそれを補うために中国からの研修生受け入れに乗り出したが、その中心となって奔走したのが、多くの中小企業と取引をしていたパール金属株式会社の高波久雄社長だった。

高波社長は、知り合いのつてで湖北省顎州市の当時の市長を紹介してもらうと、市内の企業関係者120人を率いて直接顎州市を訪ね、研修生受け入れの提携を結んだ。そして、初めての面接では500名の応募者から42名を選んだ。ところがその夜、遅くまで高波氏の部屋をノックする者が後を絶たず、ひっきりなしに訪れる陳情者の相手をしながら、彼は中国が政治の国であることをひしひしと感じたという。

2002年、湖北省省長張国光氏から外国人を表彰する「編鐘奨」を授かっている

パール金属で働いている中国人スタッフ

初めての受け入れとあって、準備には大変な労力を費やした。このため、研修生が船を乗り継いで三条市に到着した時には、我が子を迎えるような気持ちになり、涙が出るほど感動したという。

来日後は1週間ほどの時間をかけ、彼らに交通ルールや日本の法律、習慣、ごみの捨て方、買い物の仕方を1から教えた。仕事や言葉を教えるだけでなく、特に「日本人と日本企業の考え方」を一所懸命説明したという。

また、研修生に日本語を学ばせるだけでなく、日本人社員も中国語を勉強するようになり、現場では自然にお互いが学び合う習慣ができたという。

パール金属のエントランスに並べられた兵馬俑模型。毎日、社員たちと共に中国文化を味わう

毎週末には、社長自ら研修生を連れて花見やきのこ狩りなどに出かけた。夜遅くまで研修生の話し声がうるさいと研修生寮の近隣住民から苦情が出ると、彼らに手作り餃子を持って行かせた。こうしたことがきっかけになって、次第に研修生は一般市民にも受け入れられるようになり「ニーハオの会」という中国勉強会まで発足されることとなった。

高波社長は今でも、1年の研修期間を終えて帰国する彼らを乗せた鑑真号を、いつまでも港に立って見送ったことを覚えている。

「研修生のふるさとへ行ってみたい」

こうしてスタートした研修生受け入れだが、企業によっては研修生の扱いに慣れず、残業手当をめぐってのトラブルなどが多発し、受け入れ企業は徐々に淘汰されていった。

研修生に友好的な企業だけが残り、受け入れも定着してきた頃、三条市民から「私たちも研修生のふるさとに行ってみたい」という声が上がった。そこで、高波社長が中心となってツアーを企画したところ、申し込み人数が多く飛行機をチャーターして新潟空港から飛び立つことになった。

顎州市に到着すると市をあげての大歓迎。小旗を振って迎える数千人の子どもの中には、以前受け入れた研修生の子どももいた。高波社長は、駆け寄ってきた子どもたちを心からの喜びとともに抱き上げたという。そしてツアーは毎年恒例の「友好の翼ツアー」となり、20年にわたって毎年顎州市と中国の観光地を訪れている。広い中国でもさすがに主要観光地は行きつくしてしまったというのはうれしい悲鳴である。 

元研修生が提案した中国展開

地道な研修生事業がやっと軌道に乗ってきた頃、第1回研修生の1人からパール金属のリビング・レジャー用品を中国で販売したいという申し出があった。その提案を受け入れ中国進出を決断した高波社長は、その元研修生に会社を作らせた。そして15年、今では中国各地のデパート170店にテナント出店しており、昨年の上海の見本市では100社と代理店契約を取り交わした。また、中国に製品を販売するだけでなく、毎年120億円程度を中国から購入しているという。彼によれば、売りと買いの両方をすることが本当の中日友好だという。

展示室で陳列されているパール金属の製品、中国製も多数

いきさつをあまり知らない人は、こうした成果だけを見て「商売上手」と言うが、彼は現在の成功を「心と心の交流から生まれた自然な流れ」だと言う。「中国人ほど信頼できる人たちはいない」というのが持論。「深い交流ができれば彼らは絶対に裏切らない」、そんな彼の強い信念と研修生への愛情が、大きく育った交流の背景にはあったのだ。

 

人民中国インターネット版 2011年4月14日

 

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