──なぜ映画『女優』の舞台を日本と中国に置いたのですか。
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プロフィール 寺西一浩
1979年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。作家、メディアプロデューサー。業界最年少24歳で芸能事務所社長に就任。歌手・島倉千代子さんをプロデュース。代表作『新宿ミッドナイトベイビー』『女優』『Mariko』など多数。 | 2012年はちょうど日中国交正常化40周年にあたります。香港のサム・レオン(梁徳森)監督は私の友人で、映画の舞台を日本と中国に置いたらいいのではないかと勧めてくれました。
2011年3月、サム・レオン監督といっしょに、香港で脚本を書き始めました。「監督には観察力が必要。何でも自分の目で見るべきだ」とサム・レオン監督から言われ、一人で中国の大陸に行き、半年ぐらいそこで暮らしました。中国の庶民と同じものを食べ、同じものを着て、中国人の生活を体験したのです。通訳も案内の人もいないという時間が、かなり長くありました。そうした実体験や肌で感じた「中国」を、後で脚本に落とし込みました。脚本は18回も書き直しました。
──中野良子さんを選んだ理由は何ですか。
最初、脚本には日本人キャストしかいなかったのです。せっかく舞台を中国にも置いたので、主人公である「女優」は中国人がふさわしいと思い、林丹丹さんを起用しました。
映画の中で、その主人公を見守る「大女優」の役があります。中国の人たちが「大女優」と認める日本の女優はいるかどうか、脚本を抱えて上海や北京など多くの都市をまわりました。出会った中国の人々は、口をそろえてこう言ったのです。「日本の大女優といえば、そりゃー、中野良子だよ」
もちろん、中野良子さんの存在は知っていましたが、中国で『君よ憤怒の河を渉れ』が大ヒットした後も、30数年間、ずっと中国との交流を続けてきたという事実は知りませんでした。「これはすごいことだ」と思いました。
2012年は中野良子さんの女優生活40周年にも当たります。この年に、日中国交正常化の記念映画を、中野良子さんとともに制作できたのは、不思議なご縁とも言えるでしょう。
──この映画を通して、両国の人々に何を伝えたかったのですか。
『女優』は家族愛や友情を描いた作品です。国が違っても、家族愛や友情は共通していると思います。
人を許すことがどれだけ難しいかという場面が、この作品に何度か出てきます。しかし人を許すことによって自分が強くなったり、包容力が大きくなったりします。
映画の中で描かれた親子関係は、娘が自分を捨てた母親を許し、受け入れていきます。それが人間の強さにつながっていく、それが一つの重要なテーマになっているのです。
そして、主人公が辛い目に遭い、すべて放り出して「もう中国へ帰ります」というところで、中野良子さん演じる大女優は「一度決めたことを最後までやりなさい」と、主人公の頬を叩くシーンがあります。
どんなことが起きても「自分はこれをやっていく」というのが、今の若者には足りないのではないでしょうか。チャンスがあるのに活かせない人も多い。出演者の一人、小松拓也さんが、実際に中国でも活躍しているように、別の世界に飛び込むという勇気ある行動ができる人は、まだまだ少ない。
この映画には、「あなたには人生を変えるチャンスがある」というキーワードがあります。日本と中国の若者に対して、「あなたはチャンスを逃していませんか」というメッセージが込められているのです。
人民中国インターネット版 2012年7月12日
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