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伝えたい「花と触れ合う楽しみ」

 

生け花を指導する堀江森花さん(左から2番目)
1962年生まれ。北京在住。87年に池坊に入門、92年に教授免許を、2007年には華督の資格を取得した。外国人として初めて、中国挿花協会高級挿花員教師の資格も取得している。

私が生け花を習うきっかけとなったのは中国留学です。ですから、中国に留学しなければ生け花と出会うこともなく、その素晴らしさを知ることもなかったと思います。私の中国留学は父の強い勧めによるものです。父は本当に中国を「熱愛」していて、友好団体の一員として訪中した時にどれほど温かいもてなしを受けたか、日本に留学している中国の学生がどれほど優秀で勤勉であるかを毎日のように私たちに話して聞かせ、そして戦後残された日本の孤児をわが子として育ててくれてありがたいというのが最後の決まり文句でした。父の中国への思いは上海で貿易をしていた祖父から子供の頃に何度となく聞いた話がきっかけで、父は子供心に上海は素晴らしい所だと強い憧れと興味を持ったそうです。その後、日中友好協会を通してさまざまな中国の人たちに実際に会ってみると、日本人がとっくに忘れてしまった純朴で温かい心の持ち主が多く、ますます中国に傾倒していったそうです。

そんな家庭で育ったので、私もいつしか中国に行って、父から聞かされていた中国がどんな所か自分の目で見てみようと思うようになりました。当時中国と日本は国交を回復して間もなく、改革開放政策も始まったばかりで、友人たちには何のために中国に行くのかと怪訝がられました。1980年代初めの中国と言えば、日本の家庭では当たり前の家電が一切なく、特別待遇の留学生寮でさえ停電・断水は日常茶飯事、ろうそくは必需品、シャワーの途中で断水して大騒ぎということが何度もありました。それは私が経験したことのない「テレビドラマ」のような生活で、カルチャーショックを強く受け、慣れるまでに時間はかかりました。しかし、私はまだ若かったし、自分だけでなく誰もが同じ生活であったため、そしてまだ珍しかった外国人に興味津々で接してきて、自分の気持ちをそのままぶつけてきてくれた中国の友人たちのおかげで、そんな生活を楽しむことができました。

生け花をする堀江さん

母は6年の留学生活から戻った私と接して、あまりにも「日本人らしさ」がなくなったと感じたそうです。男女平等の中国文化にどっぷりつかって過ごしてきた娘に、表面上だけでも男性を立てて二歩も三歩も引き下がるという母のイメージする日本女性の姿を学ばせたかったのでしょう。母の勧めで身近な日本文化であるお茶かお花のどちらかを半ば強制的に習うことになり、正座しなくても良いお花の方が楽だという発想で私がお花を習うことを決めたのが、ちょうど25年前です。決して生け花に興味があって習い始めたのではないので、最初の数年は仕方なく通うという感じでした。自然の中できれいに咲いている花や伸び伸び枝を広げている木をわざわざ切ってきて小さな器に入れるなんて、なんと傲慢なものだという反感、そして華道、茶道は女性のたしなみという考えにも抵抗がありました。それでも続けていくうちに、お花と向き合っている時間は、他のことを何も考えずに心静かに集中できる時間となり、切り取った草花の命に値するような真摯な気持ちで花を生けなければならないと思うようになりました。また、私の生けた花を楽しみにしてくれた母のおかげで、花を生けて誰かに喜んでもらうという楽しみも分かるようになり、毎日の生活と切り離せないものとなりました。

2005年に再び北京に来てからは、日本に居た時のように身近に先生がいないので、誰かに教えてもらうという受け身の姿勢では、生け花と関わっていけないことを痛感しました。そんな時に「教えることも勉強の一つ」という先生の言葉に後押しされて、自分の教室を持ったのが2年前になります。生け花の道具も花材も教材もなく、相談できる先生や先輩が身近にいるわけでもなく、本当に何もないところからの出発でした。誰かに伝えてそれを理解してもらうということは、ある意味自分が学ぶよりもっと難しいことで、生け花の知識や技術はもとより、教える者としての姿勢や師弟関係の築き方など、本当に多くのことを日々学んでいます。たった一人から始めた教室も今では20余名となりました。生徒も最初は日本人が多かったのですが、今は中国人が多くなり、自分が学んだ生け花の技術や生け花を通して自分が感じたことを、拙いながらも自分の言葉で中国の人たちに伝えたいという夢が、少しずつ実現しています。

堀江さんの生け花作品

 

大多数の中国人が生け花を見たことがないという事実を知り、できるだけ機会を作って「生け花体験」を行っています。最初は生け花の楽しさをうまく伝えられるか不安でしたが、回を重ねるうちに、お花を手にした途端に体験者が笑顔になり、顔がぱっと明るくなることに気づき、これがお花のパワー、癒しなのだと改めて思いました。お花を見て怒る人は一人もおらず、誰もが知らず知らずのうちに笑顔になり、そして自分と花だけの世界に夢中になる姿を見ていくうちに、高度な技術よりも、「お花に触れることの楽しさ」を一人でも多くの中国人に経験してもらうことが、私の役目なのではと思うようになりました。 海外であるが故に技術の向上を求めることは難しく、いろいろ悩んだり迷ったりしたこともありましたが、中国に留学したこと、池坊のお花に出会ったこと、そして再び中国に渡ったこと、これら全てが「生け花の心」を中国の人に伝えるためにあったのではないかと思うほどです。

 

人民中国インターネット版 2013年1月15日

 

 

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