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「見えない脅威」と「見える友好」

 

平原紀子

 「沖縄の人は中国が怖くないのか」。本土の人からよく聞かれる言葉だ。かく言う自分も本土出身で、沖縄には仕事の転勤で来ている。しかし住んでみると、沖縄には、地理的・歴史的経緯から、観光客や伝統文化など日常に隣人としての中国の存在がある。そうした友好の面を見ずして脅威ばかりを心配するのは、脅威が見えないものだからだと考える。脅威は誇張されやすく、それゆえ、より増大する。それでは冷え込んだ日中の両国関係は改善できない。脅威を論じる前に、まずは見える友好を評価するべきではないか。

 たとえば沖縄の米軍基地。「基地に反対する沖縄の人は、沖縄を中国にとられてもいいと思っているのか」。沖縄の米軍基地が、中国に対する抑止力になっているとの考えから出る言葉だ。日米安保が仮想敵国の抑止力になっているのは事実。しかし、見えない脅威ばかりが先行して、仮想敵国をバッシングしなければ非国民と言われかねない時代が到来している。

 沖縄では、米軍の新基地建設に反対する首長が、「中国のスパイ」としてインターネット上や街頭演説で激しく攻撃される。沖縄の「基地反対」にも、「即時閉鎖・全面撤去」から「新基地建設反対」など多様な主張があるが、国土の0.6%の面積に在日米軍専用施設の74%が集中するのはあまりにも過重な負担じゃないか、というのがおおかたの一致点だ。日米安保が守っているのは沖縄だけではない。基地負担を沖縄に押し付け、ほとんど引き受けて来なかった本土の人に、「中国にとられてもいいのか」などと言う権利はない。ましてや、「米軍は中国から沖縄を守ってくれているのに」などと沖縄の人が批判される筋合いもない。

 では沖縄では中国に脅威を感じる人がいないのかというと、そうではない。聞かれれば、「怖い」「沖縄をとられるのは困る」と答える人もいるだろう。ただ、沖縄の人は地理的.歴史的なつながりから、中国を本当の意味での隣人と捉えているように感じる。

 たとえば観光客。2013年に沖縄を訪れた中国、台湾、香港の観光客は約36万8000人で、同年の外国人観光客の6割以上を占める。今年はそれをさらに上回る勢いだ。街を歩いていても、そこかしこで中国語が飛び交っている。東京では「声が大きくうるさい」「行儀が悪い」などの感想をよく耳にしたが、沖縄では観光業に従事する人が多いからか、そのような感想はあまり聞かない。「歓迎光臨」の看板を掲げる店も多く、商品の説明などのため中国人スタッフを置いているところも少なくない。

 観光以外にも、姉妹提携都市間の交流、伝統文化や慣習に見られる共通点など、「隣人」を目に見える形で意識する機会が多い。「見えない脅威」を感じるのは本土の人と同じだが、「見える友好」が存在するからこそ、本土の人ほど脅威が誇大化されないのではないだろうか。

 自分が中国に興味を持ったのも、聞いていた「見えない脅威」と実際に自分で見た「見える友好」とのギャップを目の当たりにしたからだ。

 2008年にアメリカの大学に留学した際、マンハッタンのチャイナタウンを訪れた。大学の友人たちに言わせれば「チャイナタウンは危ない場所」だった。道に迷い、近くを歩いていた老女に「Excuse me?」と声をかけると、「No English. No English.」の一点張り。去りゆく老女に向かってとっさに出てきたのが、日本で少し勉強していた中国語の「请问」だった。

 老女は驚いたように「なぜ中国語を話せるのか」「どこから来たのか」「なぜチャイナタウンに来たのか」などと、矢継ぎ早に質問を浴びせてきた。片言の中国語で返すと、先ほどとは打って変わって優しい表情になり、道も丁寧に教えてくれた。

 どこの国のどんな人でも、自分が脅威と見なされていると、自ら友好的になろうとはしない。それならば自分の持つ空想の脅威をまずは脇に置き、こちらが友好的になることから始めるべきではないか。そう思わせてくれた体験だった。

 この老女に会って以降、自分が中国に関心があるということを示すと、同じような反応が続いた。アメリカ留学中に出会った中国人留学生、日本で道を尋ねてきた中国人観光客、中国本土で白酒を飲んで「朋友」になる中国の企業幹部。そして、中国に関心があると言うと、すぐに仲間意識を持って打ち解け、若輩者の自分にさまざまなことを教えてくれた日本の経済界、学識経験者の先輩方。

 民間交流だけで両国の冷え込んだ関係が改善できるとは思っていない。しかし、自分自身「見える友好」を大事にしてきたことで、両国関係をどうにかよくしたいという多くの人々と出会うことができた。自分の知る範囲内だけでも多くの仲間が存在する。そのネットワークを広げ、少しでも「見える友好」を大事にできる仲間を増やしていければと思う。

 

人民中国インターネット版 2014年12月

 

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