孫雅甜=文・写真
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著名児童文学作家曹文軒さん |
「主人公は誰でしょう?」
1981年、日本で『窓ぎわのトットちゃん』が出版されると、子どもや保護者、教師だけでなく、さまざまな年齢の読者から支持を集め、同書は「戦後最大のベストセラー」となった。その売れ行きのすさまじさは、出版社や著者の黒柳さんも想像できないほどだった。そして、20年後に海を渡って中国で出版された『トットちゃん』はこちらでも大人気となり、日本と同じ現象が繰り返されている。どのような魅力が、この本を両国でベストセラー、ロングセラーにしたのだろうか?
1984年に発行された文庫版にその答えを見つけることができる。黒柳さんは、文庫版あとがきの中で、日本の教育には多くの問題が出現し、みな「どうすればいいのか」と考えている時にこの本が出版され、「教育書」として注目された。これがこの本をベストセラーにしたのではないかと指摘している。
それから30年後の今日、中国で中国語版の『トットちゃん』が出版されて10年余りが経過し、出版業界人や作家たちもこの興味ある現象の背景について強い関心を示すようになっている。
猿渡理事長によれば、同書が中国でベストセラーとなったことには複数の原因があるが、重要な社会背景はやはり子ども、保護者、さらには教師が持つ現在の教育体制への不満だという。「子どもたちは読書や勉強ができ、遊んだりリラックスしたりもできる環境を求めています。『トットちゃん』にはちょうどそうした学校のことが書かれており、子どもたちは『トモエ学園のような場所があったなんて! これは理想の学校じゃないの!』と思ったのです」
著名児童文学作家の曹文軒さんは『トットちゃん』について詳細に分析している。彼によれば『トットちゃん』の魅力のキーワードは「教育」だという。中国語版『絵本 窓ぎわのトットちゃん』出版発表会の席上、彼は「この長編小説の主人公は誰でしょうか?」とシンプルな質問を発して、来場者にこの問題を考えさせた。「私は教育、トモエ学園だと思うのです。物語の冒頭で、トットちゃんは退学を勧告されます。私が見るに、トットちゃんを拒絶したのは一つの学校ではなく、古い教育理念なのです。一方、トモエ学園の小林宗作校長は、トットちゃんが一気に語った4時間の話を聞いて、彼女を迎え入れる決定を下しました。彼女を受け入れたのは一つの学校ではなく、一種の自由、尊重、平等、愛の教育理念なのです」
曹さんによれば、同作の中国での人気は、学校長や先生方の推薦を抜きには語れないという。彼らにとってトモエ学園の教育は自分たちが行っているものとは相いれないものだが、それが彼らのこの本に対する愛を妨げることはない。これは、誰もが『トットちゃん』の中で紹介される教育に憧れていることを意味している。
『トットちゃん』は私たちにまったく新しい教育理念と方式を紹介した。社会が苦労して探す「良い教育」がなかなか得られない時に、ちょうどこのトモエ学園を扱った本が提供されたのだ。北京ではすでにトモエ学園式の教育実践を実験的に行うところが出てきており、これは異なった角度からこの本の価値と意義を証明するものと言えそうだ。
純粋さと優しさに共感
黒柳さんは『トットちゃん』を教育小説に仕上げようと意識して書いたのではなかった。そのため、この作品には説教くささがなく、中国の読者もすんなりとその物語を受け入れた。「黒柳さんは自分の好きな教育理念を誰にも押し付けていません。温和で包容的な態度で訴えるだけです」と曹さんは説明している。例えば、トットちゃんが退学させられたことについては、母親の不安を描いただけで、その学校を責めるような言葉は何も書かれていない。自分が何が好きかについては書くが、何が嫌いかについては書かない作者の姿勢が見える。作品には白か黒かのはっきりした対立もなければ、一触即発の緊張したにらみ合いもない。これは日本人の語り方でもあり、中国の作家が参考にしていい点だと曹さんは考えている。
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中国語版『トットちゃん』翻訳者の趙玉皎さん |
中国語版『トットちゃん』の翻訳者である趙玉皎さんは、この本の最大の魅力はその「シンプルさと純粋さ」にあると考えている。「シンプルな物事、純粋な人間は大きな力を持っています」と趙さんは話す。『トットちゃん』は非常にシンプルな本だ。文字もシンプルで、子どもたちの日常生活を綴っただけだ。作者の創作意図も簡単で、ただあのような時代に、あのような校長先生がいて、子どもたちがあのような学校生活を送っていたことを人々に伝えたかっただけだ。黒柳さん、イラストを担当した岩崎ちひろさん、そして小林宗作校長、誰もが非常に純粋な人々だ。ただし、彼らは人生が順風満帆だから、世間知らずだから純粋なのではなく、むしろ現実には苦しみやつらいことを多く経験してきた人たちだ。本の最後に、戦火の中で焼け落ちるトモエ学園を眺めながら、小林先生がただ静かに「今度はどんな学校をつくろうか?」と話したことが紹介されている。彼らは苦難をなめ尽くした後でも、依然として優しい目でこの世界を見ることができ、易しい文字と明るい色で表現することができる。これも『トットちゃん』が人々の心を打つ大きな原因だろう。
人民中国インターネット版 2015年5月22日
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