蒲島郁夫 熊本県知事に聞く
于文=文
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蒲島郁夫・熊本県知事(右) 2013年1月、香港トップセールス(YATA百貨店)にて ©2010熊本県くまモン | 熊本県に1000億円を超える経済効果をもたらし、経済活性化に大きく貢献したPRマスコットキャラクターのくまモン(中国語:酷MA萌(クマモン))が、最近になって上海、北京などの都市部にたびたび出没している。くまモン参加のイベントには記念撮影を求めるファンが殺到するなど、その愛くるしいキャラクターは、人びとの心をしっかりと捉えたようだ。
先だって行われた「第11回 北京-東京フォーラム」の中日地方交流分科会でも、地方同士の協力体制の充実が両国関係を改善し、お互いを理解する上で極めて有効という結論を得ている。くまモンによるプロモーション効果は、まさに今後の地方交流のあり方の手本と言えるだろう。その秘訣を蒲島郁夫・熊本県知事に聞いた。
――知事になって一番大変なことは何でしょうか?
蒲島郁夫知事 2008年4月に知事に就任し、すでに7年が過ぎましたが、やはりひとりの政治家として、重大な局面において厳しい決断を迫られることではないかと思っています。
例えば、50年近く熊本県が抱えてきた川辺川ダム建設の問題がありました。私はこの問題を就任後半年以内に決着すると明言し、実際に就任後6ヶ月で川辺川ダム建設計画の白紙撤回を表明しました。
難しい決断であっても逃げることはできません。また、時として、ひとり孤独な決断を下さなければなりません。様々な葛藤や苦しみの中で決断を下すことは大変ではあります。しかし、それは私の政治家としてのモチベーションの一つともなっています。何故なら蒲島県政の目標が「県民の総幸福量の最大化」であり、私の決断が県民の幸福につながっていると信じているからです。
――中国の文化に興味はありますか?
蒲島 知事就任以降、私は中国を4回訪問しておりますが、今年7月に日中友好のシンボル「朱鷺(とき)」を題材にした、上海歌劇団による舞劇「千年の朱鷺」が、熊本県で公演されました。昨年、北京で李小林・中国人民対外友好協会会長とお会いした際、会長から是非見てほしいとお勧め頂いた公演です。
今年8月には熊本バレエ劇場40周年記念行事として、上海市舞蹈学校をお迎えした「眠れる森の美女」の特別公演がありました。日中の若い踊り手による公演は、1995年から5年毎に開催されており、熊本県民にとっても待ち遠しい公演の一つとなっています。
いずれの公演も妻と一緒に観ましたが、すばらしい芸術に触れることができ、非常に感銘を受けました。このような実演芸術は、民族や言語を超え、文化の奥深さを肌で体感かつ共感し得るものですね。このような文化交流を重ねていくことで、日本と中国の互いの相互理解が着実に深められていくと期待しています。
――さて、現在中国でも人気急上昇中のくまモンですが、進出にあたっての計画をお教えください。
2012年6月に熊本県は「幸せ実感くまもと4カ年戦略」という計画を策定しましたが、「アクション・アジア~成長するアジアの市場に打って出る~」を掲げ、躍動し成長を続ける中国とともに成長していくため、上海に熊本市、熊本大学と共同で新たに事務所を設置、そこを中心に県産品の販売促進、県内企業の進出支援や観光客誘客などの取り組みを行っています。そこでぜひ熊本県の営業部長であるくまモンにも力を発揮してもらいたいと思い、中国への派遣を開始しました。
くまモンには、物産展などでの県産品の販売増加や、熊本のPR効果に期待しており、今年の秋には、上海東方明珠国際交流有限公司と共同で「上海くまもとフェア」を実施します。こうした取り組みを通じて、熊本の認知度向上に弾みをつけ、中国と熊本の交流拡大に取り組んでいきたいと思っています。
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中国では神出鬼没のくまモンだが、告知をしっかりチェックしている「追っかけ」ファンも少なくない。今年4月、上海高島屋で行われた九州沖縄物産展にて(写真提供:熊本県) |
――くまモンは今まで中国でどのようなプロモーションを行いましたか。中国での反応は?
蒲島 くまモンの中国デビューは2012年1月です。まずはキャラクターを知ってもらおうと、観光地での神出鬼没のパフォーマンスのほか、新聞やネットなどのメディア露出を行いました。その後は展示会場や日系スーパーなどで年間約40回出動し、熊本の観光や物産をPRしています。
くまモンの出動機会が増えるに従い、中国での認知度が急上昇していることをはっきりと実感しています。今では出動場所・時間を告知すると、100~200人のファンが駆け付けてくれるそうです。上海市街では、くまモンのグッズを持って歩いている女性の姿も見かけられるようですし、熱狂的なファンも増えており、微博(ウェイボー)で情報を発信してくれるファンも複数いるようですよ。あるファンが開設したページなどは、フォロワーが8万人にも上るそうです。日本のみならず、中国でもくまモン人気がますます上昇していくことに期待しています。
――くまモン営業部長の「上司」として、知事ご自身も中国でのイベントに参加されましたが、印象に残っていることをお教えください。
蒲島 2008年4月に知事に就任して以来、私は中国を4回訪問していますが、くまモンが中国デビューを飾った3年前の2012年1月には、上海に開設した熊本上海事務所のオープニングセレモニーを行っています。復旦大学で講演を行い、オープニングレセプションを開催しましたが、約200名の方に出席いただく大盛況となりました。さらに広西チワン族自治区にも訪問し、当時のトップの郭声琨党書記と会見し、熊本県と自治区との経済交流拡大について、意見交換を行うことができました。
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北京大学で約80人の学生等を対象に「行政の新フロンティア〜くまモンの政治経済学」というテーマで講義を行なう(写真提供:熊本県) |
また昨年8月31日から9月4日にかけて、九州各県、県議会、経済団体の役員の方々と中国を訪問し、北京では、李小林・中国人民対外友好協会会長や、劉建超・中国外交部部長助理(当時)などと率直な意見交換を行い、「日中関係は厳しい状況にあるが、こういう時だからこそ、地方政府や民間の交流が大事である」との認識で一致し、今後も経済面や青少年交流などのさまざまな交流を積み重ねていくことを確認しました。北京大学で約80人の学生等を対象に「行政の新フロンティア~くまモンの政治経済学」というテーマで講義を行いました。くまモンも同行し、日中関係の将来を担う若者に日本・熊本を強く印象づけることができたと思っています。九州が一体となって訪中したことが中国側に高く評価されたので、両国の関係改善に向けた第一歩として、大きな役割を果たしたのではないかと思っています。
――中国の大都市だけではなく、地方との交流にも積極的に取り組んでおられるようですが、成果をお聞かせください。
蒲島 熊本県は1982年5月に、広西チワン族自治区との友好県区提携協定を締結しており、青少年を相互派遣する青少年国際理解交流をはじめ、自治区内の行政の経済担当中堅幹部を受け入れる経済交流員の受入れなども実施しています。また海外技術研修員制度により、広西チワン族自治区をはじめ、中国から延べ61人の研修生を受け入れています。このほかにも延べ30人の若者が県費留学生として熊本の大学で研さんを積みました。また、南寧市で開催される「中国―ASEAN(東南アジア諸国連合)博覧会」には、熊本県からもブースを出展し、県産品や観光のプロモーションを行っています。2010年の同第7回博覧会には、私も48人の訪問団を率いて現地に赴きました。
こうした交流を重ねる中、2012年7月に発生した熊本広域大水害の時には、広西チワン族自治区から30万㌦という多額の義援金が寄せられました。私はその時の感激と感謝の念を今でも忘れていません。
中国との経済交流に関しては、上海に熊本上海事務所を、広西チワン族自治区に熊本広西館を設置し、県内企業の海外展開や県産品の販路拡大、観光客の誘致などに力を入れています。
――熊本県を訪れる中国人観光客は増加傾向にあると思います。知事のお薦め観光スポットをお教えください。
蒲島 2013年の熊本県観光統計による中国人宿泊者は約1万7000人でしたが、国土交通省観光庁の統計調査によると、昨年には約3万5000人と倍増しています。
中国ゆかりの地の代表格は、熊本県荒尾市にある「宮崎兄弟資料館」でしょう。辛亥革命を成し遂げた孫文を長きにわたって支え、影響を与え続けた宮崎滔天(とうてん)の生家です。孫文はここで数日を過ごし、中国の革命をめぐって滔天と語り合っています。今は資料館として、孫文直筆の篇額(へんがく)や革命にゆかりの品が展示されています。
また、熊本県には大迫力の自然や数多くの温泉がある「阿蘇」や、キリシタン文化を伝える歴史的建造物が多く、島と海が織りなす絶景と新鮮な海産物のある「天草(あまくさ)」、日本三名城の一つ、熊本城のある「熊本」などの情報発信に努めています。今年7月に世界文化遺産として登録された「万田坑(まんだこう)(荒尾市)」、「三角(みすみ)西港(宇城市)」も、今後は情報発信に力を入れていきます。
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2012年1月、上海に熊本上海事務所を開設(写真提供:熊本県) |
――今後、中日関係がより良い方向に発展していった場合、熊本県にとってプラスになることは?
蒲島 最近、日本は中国からの観光客が急増していますが、熊本は中国に近いという地の利がありますので、クルーズ船の寄港などでさらなる誘客が進み、県内への経済的な波及効果が期待できると考えています。今後もくまモンを効果的に活用し、熊本の認知度を高めて、県産品の販路開拓による県内企業等のマーケット拡大にもつなげていきたいと考えています。
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