現在位置: 中日交流
浜田恵造 香川県知事
先輩・大平元首相の信念を今に生かす

聞き手=于文 写真=呉文欽

 

 写真・呉文欽/人民中国
杭州市で開催されたG20サミット(主要20カ国・地域首脳会議)では、参加者が「革新的で、活力ある、連動した、包摂的な世界経済の構築」のテーマをめぐって意見を交わしたが、かつて環境汚染と過疎に悩まされた瀬戸内海に浮かぶ島々が、今や現代アートが集まる芸術の島へと変貌を遂げ、G20のテーマそのままに「革新的で、活力ある」成功例として注目されていることをご存知だろうか。香川県の直島はその代表格で、「直島再生の奇跡」として中国の各メディアもこぞって報道している。

 

香川県はまた、中日友好関係に大きな功績を残した大平正芳元首相の故郷でもある。元首相とは同郷で高校の後輩でもある浜田恵造香川県知事は、その信念を引き継ぐと同時に、たゆまぬ努力で中日間の関係を構築すべきという理念を持っていた。

 

————中日両国はしばしば「一衣帯水」とその近しさを表現しますが、香川県は日本の中でも中国に近い位置にありながら、中国人にとってはあまりなじみがありません。

 

浜田恵造知事 確かに香川県の認知度はあまり高くないようですが、実は意外に交流の歴史は長く、今も決して交流が少なくありません。今年6月には、友好提携を行っている陝西省より訪問団が来県されました。また7月には、今年5月に着任した李天然・中国駐大阪総領事が、日本に支店を置く中国企業代表者や四国華僑華人連合会の皆さま方と共に、香川にお越しになりました。この際には香川の企業代表者や県の担当部局との座談会も開催しました。

 

————座談会で香川県は中国のどのような分野に注目したのでしょうか。

 

浜田 主な関心分野は産業と観光でした。産業については、中国から香川への投資はもちろん、香川から中国への投資も含めた相互交流ですね。観光の分野では、上海便に加え今年7月には香港地区との直行便も就航し、インバウンドとアウトバウンドの相互利益を狙いたいと思っています。

 

 2014年11月、陝西省との友好提携20周年を記念し、浜田知事は友好代表団を率いて訪中、陝西省人民政府を表敬訪問した。娄勤倹省長と面会し、今後更なる友好交流を誓った(写真提供/香川県)

 

————知事ご自身の訪中経験は。

 

浜田 最初の訪中は、大蔵省在籍当時の20年ほど前です。出向先の総務庁(現在の総務省)は国全体の組織の管理を担当しており、私はそこで外務省を担当していましたが、その縁で北京、成都を訪問しました。

 

私は『三国志』が好きで、登場人物の関羽は武勇に優れているだけではなく、人情味のある軍略家でお気に入りです。司馬仲達もなかなか面白い人間ですね。そんなことから、成都に行くのはとても楽しみでした。今の成都はすっかり大都会に変貌を遂げてしまったようですが、当時の成都は『三国志』の面影を感じさせる風景も多く残っており、自然も豊かで『三国志』の世界に浸ることができました。

 

知事就任後は西安の園芸博覧会に行ったことが印象的です。東日本大震災の直後で訪日中国人観光客が減っていましたので、自ら出向いて日本のPRをすることも兼ねての訪中でした。先々で震災について気遣いの言葉をかけていただき、うれしかったですね。

 

 瀬戸内国際芸術祭の会場となる瀬戸内海に浮かぶ島々

 

————香川県は陝西省と友好提携を行い22年になるそうですね。両者には様々な共通点があります。香川県はうどんで有名ですし、陝西省も中国有数の麺どころです。また、香川で生まれた弘法大師(空海)は長安(西安)に留学しています。

 

浜田 確かにそうですね。空海は真言宗の開祖のみならず、能書家としても知られていますが、香川にある満濃池(まんのういけ)というかんがい用貯水池も空海の修築といわれており、まさに万能の天才だと私は思っています。現在世界遺産登録を目指している「四国霊場八十八カ所と遍路道」を巡り空海の足跡をたどるだけでも、その偉大さが理解できると思いますよ。

 

また、香川県のうどんは有名ですが、実はこのうどんも空海が唐から持ち帰ったと伝えられています。ですから私も、うどんのルーツともいえる西安の麺には興味津々で、色々な麺を食べてみました。日本にも中国の麺を出す店は少なくありませんが、さすがに本場の味は違いますね。

 

今年開催の瀬戸内国際芸術祭には2名の中国人アーティストが参加し、島の環境を生かした作品を展示した

(禿鷹墳上「20世紀の回想」 Photo:Osamu Nakamura)

 

————空海は仏教を修めるために中国に渡りましたが、現代では多くの中国人観光客が日本を訪れるようになりました。当初はツアー客が大半でしたが、最近はリピーターの個人旅行が増えているようです。こうした旅行者に向け、香川県の見どころをお教えください。

 

浜田 春秋航空の直行便就航以来、中国からの観光客数は格段に増えていますし、最近では大都市から離れて香川で個人旅行を楽しむ方も見受けられます。

 

より香川を楽しむためにお勧めなのは、やはり瀬戸内国際芸術祭での現代アート鑑賞でしょう。島々を船で渡って作品を見るという鑑賞方法は世界的にも珍しく、まさにここでしか味わえない楽しみだと思います。

 

2011年、上海旅遊局主催で行われた上海遊節には香川県も参加し、パレードで花車を出した。

「烏冬面」(中国語でうどんの意)と大きく書かれたうどんをモチーフにした装飾で、香川の魅力をアピールする(写真提供/香川県)

 

————瀬戸内国際芸術祭は、高齢化や過疎化、環境汚染に悩む小さな島がアートで活力を取り戻したと、中国のメディアにも取り上げられました。

 

浜田 この芸術祭は、公益財団法人福武財団理事長の「瀬戸内の海を取り戻そう」という呼びかけから始まっています。「海」をテーマにした島や港などでの作品展示がユニークだといわれますが、地域の活性化につながっていることにも注目していただきたいですね。東京や海外からやって来た芸術家が島民と一丸となって制作に取り組んだり、数多くの来場者を迎えることで、島々が活気を取り戻しています。実際、この芸術祭をきっかけに島に戻る若い人も少なくなく、過疎を理由に閉鎖されていた小学校が再開した事例もありました。

 

直島の成功例が中国に注目されるのは、中国は環境保護とイノベーションを重視している証でしょう。とてもうれしく思います。香川の経験が中国に役立てばと思います。今後は中国のアーティストにも積極的に芸術祭に参加していただきたいと思いますし、その成果を見に、より多くの中国人観光客に香川を訪れてほしいと思います。

コシが強く、瀬戸内の上質ないりこを使ったダシで食べる讃岐うどんは、最近中国でも認知度が高まりつつある。香川県の琴平と高松にある「中野うどん学校」では、空海が伝えたとされる讃岐うどんの手打ち体験ができ、本場のうどんを手作りでと参加する中国人観光客が増えているという

 

————空海同様忘れてはならない香川県出身者が、中日国交正常化当時外務大臣だった大平正芳元首相でしょう。国交正常化といえば田中角栄元首相が有名ですが、大平元首相の功績も忘れてはならないと思います。

 

浜田 実は私は大平元首相と同じ町の出身で、高校の後輩に当たります。大蔵省でも一緒だった時期がありました。私の入省当初は大蔵大臣で、新人歓迎の宴会や故郷のご自宅でお会いしたことが思い起こされます。

 

大平元首相は田舎の良さと都市の発展の双方を実現する、田園都市の実現を理想に掲げていました。都市と豊かな海や山がコンパクトに共存している香川県という環境で生まれ育ったことが関係しているのでしょう。私もこの考えを汲み、香川県を都市と自然が共存する、新しい田園都市として発展させていきたいと思います。

 

決して豊かではない家庭に生まれ、数々の苦労を経てきたからでしょうか、非常に哲学的な思考をお持ちでした。そこから独自の世界観を構築し、さらに旧満州(中国東北地区)で過ごした経験からアジアの平和を考え、日中友好が必要と思い至ったのだと思います。外務大臣時代、国内に多くの反対派がいたにもかかわらず、田中元首相と共に日中関係の基礎を築いたのはとても大きな功績でした。政治生命の中で最も心血を注いだのが、まさに日中平和交渉だったと私は思います。

 

八十八ヶ所巡礼で空海の偉業を偲ぶ

 

————現在の中日関係は残念ながら決して良いとはいえない状況ですが、大平元首相の発想に現状を打破する方法を見つけることはできないでしょうか。

 

浜田 大平元首相が好んで揮毫した「着々寸進 洋々万里」という言葉があります。「一寸ずつでも絶えず前進していけば、洋々とした未来が開ける」という意味だと理解しています。着実に前進し続けるという不断の努力が、両国の未来を明るいものにするというメッセージを、今に生かしていければと思っています。

 

————今年9月には「第12回東京—北京フォーラム」が開かれますが、このフォーラムは両国の有識者が幅広く意見を交わす、民間交流のプラットホームです。地方の立場から、地方間交流が国民感情の改善にもたらすものについての提言をお願いします。

 

浜田 香川県は春秋航空の上海直行便があるので、中国には隣町のような親近感を抱くことができます。地の利を生かし、ビジネス、芸術鑑賞や文化体験などの機会を通じて、積極的にお互いを見つめることが大切だと感じます。

 

今は世界全体が宗教、資源などの難しい問題で緊張していますが、一方では経済面での相互依存が深まっています。日中間も同じです。互いの得意分野を生かし、世界のためにも密接な関係を築いていくべきでしょう。

 

人民中国インターネット版 2016年10月10日

 

 

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