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景徳鎮の茶器 |
景徳鎮といえば、世界的な陶磁器の名産地で、中国茶文化とは無縁のものだと思っている人が多いかもしれません。しかし、昔も今も著名な名茶の産地でもあるのです。
唐代の白居易(白楽天)は名作『琵琶行』のなかで「前月浮梁に茶を買いに去る」と詠っていますが、「浮梁」とは現在の景徳鎮のことです。当時、浮梁などの江西省の茶生産は、全国の四分の一を占めていたと言われています。現在も名茶の誉れ高い「浮瑶仙芝」や「得雨活茶」などが生産されています。
このように名茶もあるのですが、景徳鎮といえば、やはり陶磁器が有名です。なかでも景徳鎮の花瓶や絵皿などは、多くの人が一度は目にしたことがあると思います。同時に景徳鎮の茶器は、中国茶文化のなかでも宜興の紫砂茶壺と並んで重要なものです。
景徳鎮では、宋代の青磁茶器と元代の青花磁茶器が人気で、更に現代では、茶の色が美しく見える白磁に人気があります。私も、紫砂壺とともに、最近は景徳鎮の茶器を使用することが多くなっています。その理由は、
①茶器そのものに品格がある
②白磁は茶湯が美しく、風雅な趣を添えることができる
③磁器はさまざまな中国茶の全てに適している
などです。
3月に中国茶文化国際検定を景徳鎮で開催するために、打ち合わせで訪問したとき、景徳鎮市長の李放氏は、「景徳鎮の陶磁器のなかで茶器は大きな位置を占めており、今後もその発展に力を入れていきます」と語っておられました。今後、さまざまな茶に適した茶器が生産されていくようになると思います。
私が景徳鎮を訪れるきっかけになったのは、孫浩翔(原名・立新、号・江南子)という友人のおかげです。初めてお会いしたのは、1994年4月、江西省の鷹潭で開かれた漢詩会の席でした。
彼は、景徳鎮の著名な24家の「陶磁世家」(景徳鎮市が認定した優秀な窯元)孫公窯の4代目で、新進気鋭の若手作家でした。
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左から孫公窯三代目の孫同キン氏、筆者、孫浩翔氏 |
漢詩会では異色の存在で、画を描き句をひねり出そうとする姿を見つけた私が、「貴方は陶芸作家なのに、なぜ漢詩会に来ているのですか」と尋ねると、「景徳鎮の作家は絵付けが主な仕事です。絵付けの後、その意境を句で表現しなければ一人前とは言えないのです。漢詩会に参加し、詩人の優れた詩的感性を学ぶことは陶芸作家にも必要な教養なのです」との答え。優れた作家には、中国文化の総合力が求められることを私は知ることができました。
その後、1999年、昆明の「花の万博」江西省パビリオンで偶然再会し、その冬、さっそく彼の窯元を訪問して以来、今回で4回目の景徳鎮訪問です。
実は彼は、専門の茶器の作家ではありません。伝統的な陶芸の家に生まれ、現代と未来を見据えた前衛的な作品が有名です。まさに彼の作品そのものが景徳鎮の過去・現在・未来を表現していると言ってよいと思います。作家としての評価も高く、多くの受賞歴があり、日本でも展覧会が開かれています。
彼の紹介で、景徳鎮のさまざまな歴史的陶磁器の作品を見学し、現代の茶器の工場も見学することができました。私が、中国茶文化の研究をしていることを知ると、茶芸に使ってくださいと現代的な風炉も制作してくれました。
私たちが中国茶文化を考える上で、茶器は、茶葉に次いで重要なものです。茶を飲むということは、ただ単に喉を潤せばよいと言うことだけではありません。
古代の人は「器は茶の父なり」と言っています。伝統的な飲茶芸術・文化からいうと、茶器は茶湯の容器だけではなく、茶を飲む過程のなかで、欠かすことのできない重要な部分なのです。
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江西省の名茶「浮瑶仙芝」 |
優れた品質と優雅な造形、そして文化の奥深い意味をもっている茶器はお茶と巧く合い、お茶の味わいと茶を飲む趣を盛り上げるのに重要な役割を果たしており、これを陸羽は「益茶」と言っています。茶器の芸術性も重要な要素で、茶器の美しさは、場を文化的な空間に変える力があると昔から重視されてきているのです。
茶文化の核心は、茶道であり、中でも茶器の知識や鑑定眼は、基本的な教養として考えなければいけません。
今日では、茶器は歴史的な名品とともに、現代的な雰囲気でなおかつ優雅なものもできているので、中国茶芸の雰囲気を高めるために大事なものです。
現代の景徳鎮は、そんな茶器により高い芸術性を追求し、私たちの茶道空間を楽しませてくれるに違いありません。中国茶の愛好者は、同時に陶芸技術の優れた鑑賞者であり、愛好者でありたいものです。貴方も素晴らしいお茶を甦らせる「器」探しの旅に出てみてください。(棚橋篁峰=文)
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