中国経済を牽引する「黄北」

 

江原規由

 「黄北」とは「黄河以北」という意味です(注1)。筆者は、今年5月、6月、そして9月に、黒竜江省(ハルビン)、遼寧省(瀋陽、大連)、北京市、山東省(青島、威海、煙台、済南)を訪問しましたが、その地の経済発展が中国経済の持続的発展に大きくかかわっていることを再認識しました。

 

ダボスから大連へ

 

 今年9月、世界の政財界が注目するダボス会議(注2)が大連で開催されました。夏季に開かれたダボス会議は今回が初めてですが、大連がその開催地となったことの意義は大きいと思います。すなわち、世界経済で成長の著しい東アジア、その中心が中国、そして中国の経済成長の拠点が北上しているという時代の潮流を、ダボス夏季会議は先取りしたのです。温家宝総理は開会式で「中国の発展は世界情勢と切り離せず、世界の発展も中国を必要としている」と挨拶しました。

 

  山東省内を流れる黄河を渤海湾越しに延長すると、その線上に大連があります。今年8月、中国は、「東北地区振興規画」を打ち出しました。これは、国家の地域発展戦略の第三弾である「東北振興策」に続き、今後10年から15年をかけて、東北地区を国際競争力のある装備製造業基地(重化学工業基地)とすることを主目的とするというものです。

 

瀋陽でひらかれた第6回中国国際装備製造業博覧会

  大連は「東北振興」を支える北方最大の対外開放都市です。その地で開催されたダボス会議は、中国東北地区の重化学工業をもクローズアップしたといえるでしょう(注3)。

 

  中国東北地区最大の装備製造業拠点である瀋陽、長春、ハルビンでは、ダボス会議と同時期に、それぞれ第6回中国国際装備製造業博覧会、第3回東北アジア博覧会、第18回中国ハルビン国際経済貿易交易会が開催され、大型商談が成立しました。「東北地区振興規画」が発表されたことも追い風となったようです。

 

  また、東北地区の重化学工業のメッカである瀋陽では、昨年10月、国務院から浦東新区(上海)、天津濱海新区(天津)に続き、鄭東新区(河南省鄭州市)とほぼ同時期に中国第四の新区として「瀋北新区」の設立が認定されましたが、これも「黄北経済」の台頭という視点から特筆できるでしょう。

 

  さて、来年のダボス夏季会議は、対中ビジネスの拠点として注目されている環渤海経済圏の拠点である天津市で開催されます。来年も「黄北」に世界の目が集まることになります。

 

    まず天津から始めよ

 

  その天津市の最近の動きで最も注目されているのが、天津濱海新区だけに認められた「港股直通車」でしょう。これは中国の人々に海外証券投資を可能とする措置で、当面、天津濱海新区の金融機関(中国銀行天津分行、香港中銀国際証券有限公司)を通じ、香港証券投資取引所が公開する上場銘柄を対象とした対外投資が可能となりました。今後、全国40の重点都市に拡大するとしていますが、個人が人民元でも直接対外証券投資ができるという画期的な措置が、環渤海経済圏の中心都市の天津で施行された意義は大きいといえます。

 

  天津税関が2005年以来構築してきた通関モデルも注目点です。これは、天津濱海新区の発展、開放促進のために、通関機能を内陸部(9月時点で西安、フホホト、ウルムチ、合肥、ラサなど12都市)に拡大した「属地申報、口岸験放」(所在地で申告し、税関で検査・許可を受けること)という新たな通関サービスです。これにより通関手続きが簡略化され、企業は貿易コストを抑えることができるなど、中国政府が打ち出した地域発展戦略における内陸開発(西部大開発、中部崛起)への外資導入や物流促進に貢献が期待できます。

 

  また、天津から北京へは高速道路網の拡充、鉄道のスピードアップ化などで時間的距離が縮まりました。首都経済圏の両極である天津と北京の経済関係が密接化しつつあることは、中国の経済発展における環渤海経済圏の役割が一段と高まり、「黄北経済」の活性化を後押しすることにつながるでしょう。

 

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