ソフトパワー秘めた山東省
黄河の河口に位置する山東省は、実にバランスのとれた産業構造を有しています。2006年、GDP規模で中国第二位の経済大省です。農業(付加価値増加額で中国一位)では野菜、果実などの栽培が盛んで、水産業、牧畜業も発展し、輸入農水産品で日本がもっともお世話になっている省といってよいでしょう。
また、「半島製造業基地」を標榜しており、青島のハイアール、青島ビール、煙台東岳、済南重汽、シ博の新華製薬、濱州の魏橋紡織など、国内外に名高い企業が集まっています。対外関係では、韓国や日本など東アジアとの結びつきが強い省といえるでしょう。
経済のグローバル化が進展する中、中国はソフトパワーを発揮し、世界における中国の好感度指数をアップさせたいとしています。この点、山東省はソフトパワー大省でもあります(注4)。孔子の故郷、風光明媚な泰山、悠久な歴史などソフトパワーには事欠きません。
山東省の最南部に棗荘市がありますが、そこの陳偉市長は、「江北水郷」(注5)を目指した都市づくりと経済発展を考えていると言っていました。
また、山東省最西部の棗沢市の市長は、発展が遅れていることを真摯に紹介したうえで、同市が歴史上、中原地区の経済文化の中心となったことがあること、例えば劉邦が帝を称し、曹操が覇業を成し、『水滸伝』の主人公の宋江が武装蜂起を起こしたことなどを紹介し、こうした無形の資源を活用して市の発展に役立てたいと、ソフトパワーによる「町おこし」に期待していました。
このほか、山東半島のほぼ中央部にある莱陽市(煙台市所轄)では、日本の食品メーカーが循環農業を実践し、注目されています(注6)。中国の資源・エネルギー、環境問題、そして食品の安全問題が物議を醸す今日、山東省は環境にやさしく、省エネに配慮し、安全を優先する経済発展を実行していこうとしていると感じました。
「黄北経済」の「日本要素」
「黄北経済」では、中国経済の重化学工業化、対外開放の新展開、沿海と内陸の連携強化、そして環境保全・省エネへの配慮、ソフトパワーの発揮など、試行錯誤はあるものの、時代の流れを先取りする多くの試みが実践されようとしています。世界経済において「中国要素」が増え、中国経済において「外国要素」が増え、その「外国要素」のうち「日本要素」は相対的に低下傾向にあるようです。「黄北経済」が目指す方向と可能性の中で、「日本要素」がクローズアップされることを期待したいものです。
注1「黄北経済」という表現は筆者の造語。
注2 ダボス会議はこれまで、一貫して冬季に、スイスの片田舎のダボスで開催されてきた。今年の主テーマは、「変化の中の力の均衡」であった。
注3 会議に出席したフィンランド駐中国大使館員は「今回のダボス会議を通じて、大連や東北地区との協力を強化したい」(『経済日報』2007年9月4日)としている。
注4 日本関係では、徐福(秦の始皇帝の命により不老長寿の薬を求めて日本に渡航したという伝説の主人公)が海を渡った地、遣隋使、遣唐使の上陸地として、山東省は対日ソフトパワーが発揮できるといえる。ソフトパワーについては、本誌2006年10月号を参照。
注5 産業が発展し水郷で有名な江南に対し、長江の北にあって水の豊かな棗荘市一帯のことを江北と表現したと、陳偉市長は説明した。
注6 オーストラリアから乳牛を輸入し、その牛糞を主たる肥料として有機栽培した野菜、トウモロコシ、イチゴなどを栽培し、主に中国国内の日系スーパーで販売するというもの。中国の同類製品の価格の3~4倍でも、飛ぶように売れているとのことであった。 |
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