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鮑栄振 (ほう・えいしん) 北京市の金杜律師事務所の弁護士。1986年、日本の佐々木静子法律事務所で弁護士実務を研修、87年、東京大学大学院で外国人特別研究生として会社法などを研究。 |
中国の外資系企業の労働組合の組織率は、2006年9月末現在54.5%、組合員1179万人で、年々、増加傾向にある。これに対して、日本の労組の2006年の組織率は18.2%で、年々、減少傾向にあるという。
その要因の一つとして、中国の労組は、日本の労組とは異なり、企業側と対立するものではなく、あくまで企業内において企業経営者と従業員との意思疎通を図る立場をとっていることが挙げられる。この意味で、中国の労組は、福利増進と労使紛争防止の役割を持つ、企業との利益共同体ともいわれている。
しかし、このような労組も、福利厚生にかかわる問題などについては企業側と相反することが多く、ときには紛争にまで発展する。
そのため、一部の多国籍企業や外資系企業は、労組が結成されると企業側と対立する力が形成され、企業側の支配権に支障をもたらされるのではないかと心配し、労組の結成に消極的だった。そのため、「中国の法律を無視している」という批判の声が広がった。
売上高世界一の巨大小売企業であるウォルマートの中国現地法人は、長らく労組の設立に反対していた。中国の労組の全国組織である中華全国総工会は、中国国内のウォルマート各支店で組合結成を促してきたが、ウォルマートは、ずっと曖昧な態度を取り、「(ウォルマートには)労組を作る慣例がない。これは、世界中の支店に共通したことだ。したがって、中国も例外ではない」と、その理由を説明していた。
しかし、2006年8月、福建省の晋江市で30人の従業員が、さまざまな困難を乗り越えてウォルマートの中国国内支店に初の労組を結成した。その後、ウォルマートは労組設置の問題に対する立場を変更し、中国全土30都市の62の店舗のすべてに労組が設立された。
外資系企業に労組の設置が義務づけられているのか。この点について、労組とは、労働者が自主的に組織すべきものだから、そのような義務が外資系企業側に課されることはない、とする見解もある。しかし、合弁法や外資企業法等が合弁企業や100%出資の外資企業に対し、自社の労組の活動に必要な条件を与えなければならない、と規定していることから、外資系企業は労組の設置を積極的に推進すべき義務を負う、との見解もある。いずれにせよ、従業員が自由意思により労組の結成を希望している場合には、法律上、これを阻止、制限することは認められない。
最近、筆者は、ある日系企業の退職者が企業側に法外な経済補償金を請求した紛争事件を取り扱ったが、退職者の法律意識の欠如により交渉が難航したとき、労組があればどんなによかろうとも思った。というのは、実務では、労組が労働争議の抑止力となっており、労働争議が発生した場合に、企業と協力して問題解決に尽力し、業務の秩序と生産活動を回復する役割も担っていることが意外と多いからである。
例えば、報道によると、上海の日系企業・上海日精電機有限公司や索広映像有限公司では、労組がパイプ役となった企業経営者と従業員との意思疎通によって、従業員の切実な利益に関する諸問題が解決された結果、従業員の意欲と士気が大いに高まり、企業の生産経営も急速に発展したという。
労組がすでに設立されている場合には、特に次の点に注意することが必要だ。すなわち、労組の主席、副主席及び委員については、労働契約期間が労組の役職の任期満了日まで自動的に延長されるということである。
最近、北京に進出している日系合弁企業・M社が、重大な職務怠慢を理由に自社の労組の主席を解雇した紛争事件があり、北京初の労組主席解雇紛争事件として盛んに報道された。被告となった労組主席は、中華全国総工会や労働法専門家の支援を受けて一審勝訴を勝ち取った。
裁判所はその理由として、労組主席の行為は「重大な職務怠慢に当たらない」としたが、任期中の解雇の無効には触れなかった。
人民中国インターネット版
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