隣人同士の紛争をどう解決するか

 

鮑栄振
(ほう・えいしん)

北京市の金杜律師事務所の弁護士。1986年、日本の佐々木静子法律事務所で弁護士実務を研修、87年、東京大学大学院で外国人特別研究生として会社法などを研究。

 「屋上屋を架す」とは、重ねて無用なことをする譬えである。

 

 現実には、ビルの上にビルを建てることは考えられない。ところが、昨年9月、筆者の住む北京の24階建てのビルの屋上に、二階建てのビルが突如、姿を現したのである。

 

 最上階の2407号室を購入したL氏が、建築主管機関の許可なく2407号室と隣人の2409号室の屋上に、2階建てのビルを建ててしまったのだ。もちろん、ビル管理会社は再三にわたり工事の中止を求めたが、理不尽なL氏はこの要求を拒否し続けた。

 

 ビル管理会社は、違法建築に給電・給水してはならないという関係政府機関の規定に基づき、給電・給水の停止を実行した。これにより、ようやく工事は中止された。

 

 その後、都市管理監察機関の職員も現場調査をし、L氏に違法建築の撤去を要求したのだが、L氏はこれも聞き入れなかった。

 

 あまりにも奇想天外なこの一件に、中央テレビ局をはじめ報道機関の取材が殺到し、この「屋上屋を架す」事件は、珍事として大きく報道された。

 

 建てられた二階建てビルは、許可なく建設された違法建築であり、また、ビル本体にも危害をもたらしたため、ビルの部屋を所有している人々の権利が侵害された。建築主管機関は、違法建築の所有者に、工事の施工停止や建物の撤去などの措置を命令することができる。

 

 こうした、隣接する二つの不動産の相互間の利用に関する法律関係を「相隣関係」といい、「相隣権」とは、相隣関係人が相隣関係において有する権利をいう。日照権や採光権、通風権などがこれに属する。この「屋上屋を架す」事件は、相隣関係の紛争であった。

 

 中国の『民法通則』や2007101日から施行された『物権法』によれば、違法建築等により障害又は損害を受けたときは、その対策として、隣接者は、撤去、損害賠償を求めることができる。

 

 近年、建築物に伴う隣人紛争が多数発生している。とくに、隣地からの騒音、振動、悪臭などの生活妨害は、珍しいことではない。一部の法律家は、こうした生活妨害による隣人紛争も、「相隣関係の紛争である」としている。

 

 こうした紛争の背景には、事前に何の連絡もなく、ある日突然、工事が行われるという事実関係や、隣人同士の権利意識の衝突などが挙げられる。

 

 近年、市民の権利意識の向上を反映して、不動産会社を相手取り、日照権などの相隣権を主張するケースが増えている。1999年、天津の中環線北側の39世帯の住民が、隣に建設中の高層ビルによって日照権が奪われるとして、工事現場や付近の道路に集まり、抗議したことがあった。これにより、中環線道路は半日にわたって渋滞し、工事も40日以上停止された。マスコミにも大きく取り上げられ、社会の注目を集めた。

 

 住民側が提訴したその裁判では、裁判所は、被告の建築は許可を受けた合法なものであり、原告側の住宅との間隔も関係規定に合致することから、原告の日照時間が減少するものの、それは合理的な範囲内にとどまる、との判断を示し、原告側の請求を退けた。

 

 隣人同士の権利意識の衝突により発生する紛争もある。最近、台湾の作家・李敖の娘さんで、北京の別荘に住む李文さんとその隣人との紛争が話題となり、全国的な論争となった。

 

 李文さんは、隣に住む人気歌手の大型犬三匹の鳴き声によって不眠になったとか、野菜に施肥した隣地の悪臭がひどいとか、あれこれと苦情を申し立てたところ、ビル管理会社から、他の入居者の正常な生活を邪魔するものとして転居を求められた。

 

 李文さんを追い出すため、別荘を賃貸したオーナーも、李文さんと隣人との関係悪化が違約に該当するとして、賃貸借契約の解除を求める仲裁を申し立てたが、仲裁の裁定はオーナーの敗訴に終わった。

 

 一方、李文さんは、自分のことを「邪魔者」とマスコミに流したビル管理会社を相手取りに名誉毀損の訴訟を提起し、勝訴した。

 

 多くの人々は、「苦情の女王」として知られた李文さんのこうした行動に喝采を送った。快適な居住環境作りのためには、生活を妨げるものを減らし、除去する必要があると、人々は認識するようになってきている。

 

 人民中国インターネット版

 

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