霧のベールに包まれた四姑娘山

 

四姑娘山

 四姑娘山のことを東洋のアルプスと呼ぶ人もいる。その450平方キロの範囲には、万年雪を頂く海抜5000メートル級の峰が61ある。そのうち、肩を並べて聳え立つ海抜6250、5664、5454、5355メートルの4つの雪山が、現地のチベット族の伝説によれば4人の美しい「姑娘」(娘)の化身であるとされ、「四姑娘山」と呼ばれている。最も高い「四姑娘」(四番目の娘)はまた、「蜀山皇后」「東方聖山」とも呼ばれる。

 

四姑娘山が最もよく見える鍋荘坪

海抜が4805メートルの日月宝鏡崖

双橋溝

 曲がりくねった山道に沿って、海抜4487メートルの巴朗山峠を車で登ってゆくと、峠の両側に果てしなく白い雪が広がり、気温が急激に下がる。山を降りてさらに北西へ30キロほど走ると、ズエンラ県の日隆鎮にたどり着く。ここに、四姑娘山がある。

 

沙棘の林

 四姑娘山の気候は独特で、垂直面の高度差が激しく、動植物資源が豊富である。ここでは四季がはっきりしており、春はさまざまな花が咲き乱れ、夏は樹木がうっそうと生い茂り、秋は色とりどりに美しく、冬は雪で真っ白になる。

 

 ここに来ると、人々が何よりも見たがるのが四姑娘山である。そしてこの4人の姑娘のうち四姑娘は、いつも頭に雲や霧のベールをかぶっているため、なかなか拝むことができない。そのため晴れた日には、人々はみな四姑娘山が見える場所に駆けつける。最高のポイントで眺めたかったら、高さ400メートルの山を登り、その頂上にある「鍋荘坪」と呼ばれる場所まで行かなくてはならない。

 

四姑娘山は、中国の亜高山植生や高山植生が比較的よく保存された数少ない地区のひとつ

 毎年旧暦の5月4日、四方八方からやって来るチベット族の人々が鍋荘坪に集まり、年に一度の四姑娘山の巡礼祭に参加する。彼らはここで、座禅を組んだり、経を読んだり、山を回ったり、「グオズアン(鍋荘)」を踊ったり、チベット式相撲をしたり、競馬をしたりして、四姑娘山に平安と加護を願う。

 

 四姑娘山風景名勝区は、四姑娘山、双橋溝、長坪溝、そして海子溝という4つの部分からなっている。まるで「蜀山皇后」の首から下がっているネックレスのように見える3本の溝(谷)が、風景区全体をこの世の仙境たらしめている。

 

 双橋溝は全長35キロ、3つの谷の中で唯一専用バスが通っている谷である。谷に入ってしばらくすると、遠くに最初の雪山――日月宝鏡崖が見えてくる。雪山に反射した光線が谷を明るく照らす。言い伝えによると、ここは、4人の姑娘が化粧をするための鏡だそうだ。

 

 谷の奥に入ると、ずらりと並んだ雪山が迫ってくるようである。4人の姑娘の祖母といわれる阿妣峰、その姿が観音菩薩に似ている度母峰、猟師の化身といわれる猟人峰、また鷹嘴崖、ポタラ峰、玉兎峰……などがある。

 

姿がポタラ宮に似ているポタラ峰 横になっている度母菩薩(チベット仏教の観音菩薩)の姿に似ていることから名づけられた度母峰 海抜5362メートルの猟人峰 海抜5428の鷹嘴崖

 

 谷には広々とした沙棘(クロウメモドキ)の林がある。沙棘は落葉高木または低木に属するもので、その果実はビタミン の含有量が非常に多く、「VCの王」と呼ばれる。不思議なことに、ここの沙棘の木は非常に大きくて太く、直径1メートルほどのものもある。枝はうねうねと曲がりくねって伸び、1本の木がまるで芸術品のようである。

 

長坪溝の現代氷河

 四姑娘山は、青海・チベット高原に聳え立ち、長江の2つの支流である岷江と大渡河の分水嶺である。その独特の地質や地形、気象条件によって、ここは多くの稀少な動植物の生きる楽園となり、「世界的な遺伝子の宝庫」と称賛されている。

 

 ここには、パンダ、ユキヒョウ及び多くの種類の単型属(一属一種)の稀少種と特有種の生物などがおり、中国の古くからの原始生物の種が最も多く残されている地域の1つである。

 

長坪溝の入り口にある四姑娜ラマ寺遺跡

 正午近くなって、その谷に暮らすチベット族の農家で食事をした。「カオモーモー」という食べ物をごちそうになった。主人は、部屋の中央にある囲炉裏で薪を燃やし、暖をとる。奥さんは、よく発酵した小麦粉に自家製のヨーグルトをいれてよくこね、麺棒で薄い円盤状に延ばしている。やがて彼女は囲炉裏の熱い灰を火箸で平らにし、その上に円盤状のものを置くと、さらにその上から灰をかぶせていた。20分後、「カオモーモー」が焼きあがった。手で灰を払い落としてきれいにしたものが、テーブルに並べられた。表面はサクサクと軽く、中はフワフワと柔らかく、ヨーグルトの濃厚な香りが鼻をくすぐる「カオモーモー」を食べながら、そのおいしさをしきりにほめた。この目で見たのでなかったら、灰の中で焼かれたものだとは到底信じられない。

 

長坪溝のコノテガシワの古樹

 長坪溝は全長29キロに及ぶ、広々とした原始林の谷である。道は原始的なままで舗装されておらず、人々は徒歩かまたは馬に乗ってしか入ることができない。そのため、四姑娘山を訪れる観光客にもっとも好まれる谷となっているのがここである。

 

長坪溝の入り口で観光客を待つチベット族の馬子たち

 入り口近くに荒れ果てたラマ寺がある。有名な四姑娜ラマ寺である。779年に建造が始まったこの寺は、言い伝えによると、唐代の吐蕃王朝(古代チベットの王朝)のチソンデツェンが高僧をここに派遣して経書を翻訳、伝授させたという。以来、参詣者がひっきりなしにここを訪れ、線香が絶えない。ここはまた歴代の土司(元・明・清の時代、西南地区の少数民族の首長)が四姑娘山を祭る場所でもある。

 

独特な風味の「コウモウモウ」

 残念ながら、この寺は40年前に火災に見舞われたため、今日のような残骸を留めるに過ぎない。渓流に沿って谷の奥へと歩いてゆくと、いちいち目をとめる暇もないほど、浅瀬や林、峰、氷河が次々と現れる。3キロあまりにわたるコノテガシワの林もある。林の中の小道は唐代の古桟道である。徒歩旅行を愛する観光客は、長坪溝に沿って北へ向かい四姑娘山の麓まで行き、海抜4000メートル余りの山を越えて理県の畢棚溝まで行くルートを、非常に趣のあるコースであると考えるようだ。途中、リュックサックを背負ってここを通り抜けてゆく観光客の姿を少なからず見かけた。

 

 四姑娘山の東側にある海子溝は、海抜が4000メートル以上もあるため、観光客はめったに足を踏み入れないという。谷には現地の人が「海子」と呼ぶ十数の高山湖がある。海子溝と名づけられたのはそれゆえである。これらの湖は、第4氷河期の運動で形成された堰止め湖やカール湖である。ここは、山登りの愛好者が四姑娘山の最高峰を目指すとき、必ず通らなければならない道でもある。

 

 黄昏どきになった。鍋荘坪には、四姑娘山を見るためにやって来たたくさんの観光客が集まっている。日がだんだんと沈んでゆくにつれ、夕日に照らされてゆっくりと赤く染まってゆく四姑娘山は、最高に美しかった。(劉世昭=文・写真)

 

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