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坂のない「平原」の街

 

ANA北京国際マラソンで、天安門前を走る選手たち

私は子どものころ、東京の代官山に住んでいた。東横線の踏切を渡って坂を登りきったところに、私の家があった。幼児洗礼を受けたのは赤坂の霊南坂教会、あのあたりも静かな坂が多かった。

 

小学校は九段の暁星だった。中央線の飯田橋で降りてしばらく歩き、坂を登ったところに小学校があり、さらに登ったところに中学校があった。なにしろ、東京は坂の多い街である。

 

20歳のとき、この東京から北京に来て暮らすようになる。北京には、まったくといっていいほど坂がないのには、いささか戸惑った。北京に来たばかりのころは、歩いていても方角感覚や距離感覚がだいぶ狂ってしまい、困ったのを覚えている。

 

ところで、現在の北京は、チンギスハンの孫であるフビライが1271年に国号を元とし、都を北京に置いて大都と称したときに誕生したという。西の太行山脈、北の燕山山脈の麓に広がる平原の中央、いまの故宮のあたりに皇居を建て、皇居を中心に都造りをした。

 

蒙古の大草原で育ったフビライやその臣下たちは、坂や山が苦手だったようで、小さいとはいえ、まがりなりにも坂や山のない「小平原」のこの都がたいへん気に入ったそうだ。 

 

長安街の車の流れ(写真・楊振生)
   あれから700余年もたったが、こうした坂や山のない都で育った現代の北京っ子も、坂や山を登ったりするのが苦手だ。ピクニックに行き、ちょっとした山に登っても、まずあごを出すのは北京っ子、翌日になっても足のあちこちが痛いと悲鳴をあげる。

 

こんなこともあった。北京にいくらか勾配のある立体交差の道路ができたばかりのころのことだ。坂に慣れない北京っ子の運ちゃんが、このわずかな勾配に戸惑い、追突事故が多発したのを覚えている。

 

道路といえば、流れる大河のような自転車の洪水は、テレビなどで世界的に知られる北京の風物詩となっているが、この自転車の洪水も北京に坂のないことと大いに関係がある。同じ中国の大都市でも、坂の多い重慶では、こんな風景は見られない。

 

私には、北京で自転車を40余年も愛用してきた実体験がある。その実体験の一つを紹介しよう。

 

若いころの話だが、北京郊外の香山に自転車で遊びに行ったことがあった。追風を背にスイスイと道路を滑るように行ったあのときの快感は、いまも忘れられない。北京は自転車天国、自転車は北京に最適の交通手段だとつくづく思った。ちなみに日本では、自転車は歩道を行くが、北京では自転車は車道を、しかも幅の広い道路では自転車専用道路を堂々と行くのである。

 

自転車専用路を行く自転車の波
   ちょっと横道にそれるが、「追風を背に」と書いて思い出したことがある。中国中部の大平原、私が「思想改造」に行っていた黄河のほとりの河南省の農村で見た風景だ。木製のリヤカーのような荷車が、風があると帆を上げて、大海原を行く帆船のようにスイスイと大平原を行くのだ。きっと昔の北京平原でも、こうした風景が見られたことだろう。帆こそ上げないが、北京の自転車はその現代版である。

 

坂がないこととともに、北京に来たばかりの私が戸惑ったのは、北京に直線の道路、つまり真っ直ぐな道が多いことだった。その代表的なものは、天安門の前を東西に走る長安街だ。新中国誕生後、さらに東西に延長され、真っ直ぐな直線道路が30キロ以上も続くのである。しかも、まったく坂がないのだ。

 

ある役人が、この坂のない直線道路でマラソンをやったらいい記録がでるだろうと提案したことがあった。この提案にマラソンの選手たちは猛烈に反対した。単調な直線コースは、マラソンの選手にとって、精神的にも、肉体的にも非常な疲労をもたらすというのだ。

 

いまでは一年一度の恒例になっているANA北京国際マラソンのスタートは天安門広場、ゴールは北京工人体育場で、北京の街を右に曲り、左に折れ、走り抜けるコースだが、長い直線コースはできるだけ避けて、選手が走りやすいコース、テレビで観ていても楽しいコースにと、いろいろ工夫が凝らされている。

 

2008年の北京オリンピックのマラソンは、どんなコースを走るのだろうか、楽しみである。

 

画家の梅原龍三郎が「音楽を聞いているような空だった」と絶賛した北京の秋の空の下で繰りひろげられる熱戦、作家の井上靖が「世界一美しい街」といった北京の秋の風景や各国の選手に声援をおくる北京市民の笑顔とともに、テレビで全世界に実況中継され、世界の数億の眼が北京に注がれることだろう。

 

人民中国インターネット版

 

 

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