思い出の西幹道(西干道)

 

監督 李継賢(リーチーシェン)    2007年中日合作 101分

第20回東京国際映画祭コンペティション部門 審査員特別賞受賞作 2008年夏日本公開予定

 

あらすじ

 

 1978年、山西省の田舎町に軍医の父と母と暮らす四平と方頭の兄弟。反革命罪に問われた父親が労働改造に送られた少女雪雁が北京からやって来て、兄弟の向かいの家に身を寄せる。

 

絵の好きな弟の方頭は集会で見た雪雁の踊りが忘れられず、天安門を背景にしてその絵を描く。偶然、それを見た雪雁は方頭に画用紙を与える。

 

何もない退屈な町を出ることを夢見て、勤め先の工場にも行かず、半導体ラジオの製作に夢中な兄の四平は、雪雁が父親に出した手紙を盗み、父親に町の文芸工作団に入ったと嘘を書いた雪雁のために、舞台衣装を手作りして、大切なラジオを売った金でカメラを借りて、父親に送るための写真を撮ってあげる。

 

それ以来、急速に親しくなる四平と雪雁だったが、2人が密かに会っている現場を取り押さえられ、四平は兵隊に行き、方頭も「不良の弟」と同級生たちのいじめに遭う。やがて、四平は事故で死に、方頭は北京に転勤になった父に従って北京へ引っ越して行く。雪雁は北京に戻ることなく、町の小学校の音楽教師になる。

 

解説

 

『思い出の夏』で監督デヴューした李継賢監督の長編第二作。前作でも田舎町の素朴な少年を主人公に、素人の子どもたちを上手く使った演出が光ったが、今回も主役の雪雁を演じる沈佳トン以外は素人を役者に使って、静謐で哀感溢れる叙情的な作品に仕上げている。

 

この作品には、顧長衛監督の『孔雀 我が家の風景』や王小帥監督の『青紅』などと同様、70年代末期の中国の田舎町での息苦しい青春が描かれている。自分の好きなことを仕事に選べない社会、生まれた場所で生き続けなければならない運命のもとで抱く外の世界への切ないほどの憧憬、文化大革命から改革開放が始まる80年代までのほんの数年の過渡期に10代後半から20代初めを過ごした、中国の若者たちの悲劇が痛ましい。

 

見どころ

 

ロケーションが抜群にいい。山西省の長治県という、貨物鉄道が町の周囲を走る殺風景な田舎町。山西省はジャ・ジャンクーの一連の作品の舞台となった汾陽といい、古くはチャン・イーモウの『紅夢』の舞台となった太原の旧家といい、実に映画になる風景が多い。貧しさゆえに発展から取り残され、それが、かえって映画の舞台として威力を発揮しているという皮肉。

 

そして、冬という季節に撮影されたことを差し引いても、寒々とした、何だか骨の髄まで凍りつくような青白く粗い映像の質感が物語に実によくマッチしている。映像の力に圧倒されて、カメラマンの名前を調べると、王・とあるのに納得。ロウ・イエの『ふたりの人魚』『パープル・バタフライ』、そして田壮壮の『呉清源 極みの棋譜』と、いずれも物語はともかく、その映像に唸らされた数々の作品のカメラマンだった。

 

ロングショットの多用は、『野生動物の世界』といった自然界のドキュメンタリーのように人間を撮ることで、名もなき人々の平凡な人生と命の尊さを描きたかったのだと監督。そうしたカメラワークと無愛想なまでの編集が実に効いている。

 

雪雁を演じた沈佳トン以外はすべて素人だと言うが、特に両親と弟を演じた現地の人たちが実に存在感があって見事と言うほかない。沈佳妮の無表情で抑えた演技と抑揚のないセリフも、地なのか、そうした素人の役者たちに合わせたゆえの演技なのかは分からないが、この作品に関しては成功していると思う。

 

東京国際映画祭はこれで五年連続、中国映画が入賞している。喜ばしいことである。特に今年は日中合作作品が多かったのが特徴で、コンペティション部門の二作品と「アジアの風」部門の『さくらんぼ 母の愛』と、中国映画五本のうちの三本が日中合作であった。日中国交正常化35周年に合わせたわけでもないだろうが、それぞれクオリティーの高い作品だったので、今後の日中合作映画の隆盛につながれば、こんなにうれしいことはない。

 

水野衛子 (みずのえいこ)
 中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。

 

人民中国インターネット版

 

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