(The Chinese Botanist's Daughters )
監督 ダイ・シージェ 2006年 105分 フランス=カナダ 合作 2007年12月15日日本公開
あらすじ
3歳の時の唐山大地震でロシア人の父と中国人の母を失った李敏は、孤児院で育った。20歳になった李敏は南方の大学の植物学教授のもとに漢方を学びに実習に行く。湖に浮かぶ小島の中の植物園に、厳格な父の陳教授と2人っきりで暮らしてきた陳安と李敏の孤独な魂が惹かれあう。
植物園での平和で美しい日々も束の間、安の兄でチベットの辺境を守る人民解放軍の兵士の丹が休暇で帰ってくる。父と兄は美しい孤児の李敏を嫁に迎えることにする。結婚式の前の晩、敏と安は変わらぬ愛を誓う。
新婚旅行先で敏の貞節に疑惑を持った丹は敏を打ちすえ、チベットへと戻っていく。2人の時を取り戻した喜びに、あれほど怖かったはずの父親も眼中になくなっていく敏と安。そんな2人の仲に気づいた父は、心臓発作で死ぬ。その死に責任があると告発された敏と安は処刑されるが、2人の魂は美しい風景の中を天へと昇っていく。
解説
安
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其(qí)实(shí)我(wǒ)和(hé)你(nǐ)也(yě)算(suàn)是(shì)同(tong)病(bìng)相(xiāng)怜(lián)的(de)人(rén),我(wǒ)也(yě)是(shì)半个(bàngè)孤儿(gūér)。我(wǒ)妈(mā)在(zài)我(wǒ)10岁(suì)那年(nànián)就(jiù)过世(guòshì)了(le) |
安
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本当は私もあなたと同じ、半分孤児のようなものなの。母さんは私が10歳の時、死んだの。
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敏
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你(nǐ)别说(biéshuō)了(le)
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敏
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もう言わないで。
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安
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我(wǒ)爸(bà)那(nà)个(ge)脾(pí)气(qi)就(jiù)是(shì)那(nà)样(yàng),也(yě)不止(bùzhǐ)是(shì)冲(chōng)你(nǐ)的(de)
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安
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あれが父さんの気性なの。あなたに対してだけじゃないわ。
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敏
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你(nǐ)哥(gē)向(xiàng)我(wǒ)求(qiú)婚(hūn)了(le),可(kě)我(wǒ)拒(jù)绝(jué)了(le)。 |
敏
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お兄さんが私に求婚を、でも断ったわ。
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安
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要(yào)是(shi)你(nǐ)嫁(jià)给(gěi)他(tā),那(nà)我(wǒ)们(men)永(yǒng)远(yuǎn)不(bú)会(huì)分(fēn)离(lí),就(jiù)像(xiàng)我(wǒ)们(men)许(xǔ)的(de)愿(yuàn)一(yí)样(yàng)。
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安
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兄さんと結婚すれば、私たちずっと離れないですむわ。私たちの誓いのように。
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『小さな中国のお針子』のダイ・シージエ監督の第三作。脚本は前作同様ナディーヌ・ペロン。50代の男性が撮ったとは思えぬ非常に美しい映画で、脚本家でありパートナーの彼女の貢献は相当に大きいと見た。もっとも、監督自身もむさくるしい外見とお茶目な性格とは違って、どの作品にもリリシズムが漂う、かなりのロマンチストのよう。
たまたま中国の新聞の片隅に載っていた記事が発想のきっかけだと言うが、その物語を植物園に置いたところに、この映画の成功はある。というのも、監督の両親が医者で医科大学に住んでいたため、植物園は身近な存在だったから、というのだが、熱帯植物のもたらす官能と幻覚が二人の恋情を育み、熟成させていく重要なファクターとして実に効果的である。こういう感性はずっと中国にいる監督ではなかなか出てこないような気がする。さすがは渡仏20余年、フランス語で小説も発表しているこの監督らしい、独特の耽美的世界が堪能できる作品だ。
見どころ
フランス人と中国人の混血だという李敏を演じるミレーヌが着ている地味で何のへんてつもない衣装からして、何とはなしにセンスがよく、植物園で彼女の住まいにと与えられた納戸の汚れきった壁紙を雑巾で拭くと、現れてきた鯉の模様が何とも奇抜で、でもお洒落。一方の李小冉演じる陳安の衣装はラベンダー色のシャツやワンピースが基調で、ワンピースと共布のリボンをさりげなく髪に巻いていたりする。敏の結婚衣装もよくある赤いチーパオなのだが、模様は竹と非常にシック。
調薬に使う道具も、琺瑯の洗面器も、人参を入れる箱も、さりげない小道具のすみずみにまで、繊細な審美眼が光り、美術だけでも美を堪能できる映画である。植物園に仕立てたロケ地はどうやらベトナムの廃寺らしいが、温室と住居部分をつなぐ欄干のある木製の橋など、とにかく道具立てがすべて絵になる。そんなお洒落な美術を担当したのは、フランス人スタッフかと思ったら、安彬という中国の男性スタッフだという。
ヒロイン役には周迅や趙薇らもあがっていたそうだが、私はこの東洋と西洋の美が見事に融合したような魅力のあるミレーヌと、いかにも東洋的な美人で、しかも伸びやかな肢体を持つ李小冉という配役の絶妙さが効いていると思う。
水野衛子 (みずのえいこ) |
中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。 |
人民中国インタ-ネット版
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