|
江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。 | | 世界第三位の貿易大国となった中国は、「文化貿易」では大幅な入超になっています。中国では「製品」に比べ「文化」の海外展開が遅れているということになります。
「文化貿易」を構成する製品には、図書、新聞、定期刊行物、ビデオディスク、レーザーレコード、電子出版物、ゲーム関連、DVDなどのソフト、テレビの放送番組や映画番組(ドラマ・アニメなど)などがありますが、今、中国では、文化産業(注1)を発展させ、文化製品を大いに海外展開させようとの機運が高まっています。数千年の歴史に根ざした中国文化、すなわち、中国オリジナリティーを輸出製品に仕上げていこうというわけです。
中国で海外展開といえば、中国企業が思い浮かびますが、これに続けとばかり中国文化に出番が回ってきたといえます。
中国文化部(省)は「他国の優れた文化を吸収するとともに、自国文化が他国民に伝わることを目指す」とし、「文化産業における国際提携を積極的に推進し、中国の文化製品の輸出を促進する」とのメッセージを対外発信しています。
表1を見てみましょう。米国や日本といった先進諸国では、対外貿易に占める文化製品の割合は極めて大きいのですが(注2)、文化貿易が中国の対外貿易全体に占める割合は、金額的にはまだまだ少ない。しかし、世界第三位の貿易大国となった中国にとって、次は文化製品の輸出大国を目指そうとの意識が大いに芽生えてきたということでしょう。
表1 中国の主要文化製品貿易(2005年)
輸出入額品目 |
輸 出 (万米ドル) |
輸 入 (万米ドル) |
差 額 (万米ドル) |
輸入/輸出 |
図書、新聞、定期刊行物うち、定期刊行物 |
3287.2 228.9 |
16418.4 10736.7 |
△13131.2 △10507.9 |
5倍 47倍 |
電子出版物、音・映像製品うち、電子出版物 |
211.0 35.1 |
1933.0 1737.2 |
△1722.0 △1702.1 |
9倍 50倍 |
版権(件数)うち、 図書 |
1517 1434 |
10894 9382 |
△9377 △7948 |
7倍 6.5倍 |
出典:『国際貿易』2006年第10期
一流国家の証明
2008年1月に開かれた「中国文化産業新年国際フォーラム」で、ある商務部(省)の高官は、「ここにお集まりのみなさんの多くがアニメを見て育った世代に属するのではないでしょか。そのアニメの多くが日本製でした。日本のアニメ産業は、日本の対米鉄鋼輸出額の4倍に当たる50億ドルを稼いでいます。50億ドル分の鉄鋼をつくるのにどれほどのエネルギーが必要か、環境への影響はどうか。アニメは事務所でコンピューターの前に座って製作できます」と発言しています(注3)。エネルギー問題や環境問題に直面している中国にとって、アニメ作品などの文化製品の輸出拡大により、多大な社会的恩恵と経済効果が期待できるというわけです。
中国では、「三流国家は商品貿易を、二流国家はサービスと技術貿易を、一流国家は文化貿易を発展させる」といわれます。文化貿易で大幅な赤字を計上しているということは、数千年の歴史をもつ中国文化の魅力、すなわち中国のソフトパワー(注4)が十分に海外発信されていないということにほかなりません。
中国は、外資の力を借りて「世界の工場」で製品を作る時代から、「文化産業」を発展させ、その製品の海外展開をはかる時代、つまり一流国家を目指す時代を迎えつつあるといえます。
文化産業や文化貿易が発達している日本は、こうした中国の潮流を、日中経済交流の新たな拡大チャンスにしてほしいものです。 (日本貿易振興機構海外調査部主任調査研究員 江原 規由)
注1 2006年の文化産業の付加価値額はGDPのほぼ2.2%、従業者はほぼ1000万人(全従業者の1.3%)を構成している。中国では、「創意産業」という言い方が一般的で、北京などはGDPの12%を占めており、北京五輪以後の経済発展の重要な柱に位置付けている。 |
注2 版権(図書)の輸入先上位5傑は、米国(輸入/輸出:246倍)、英国(22倍)、台湾(2倍)、日本(47倍)、韓国(2倍) |
注3 人民ネット(日本語版)2007年11月14日 |
注4 総じて文化(思想、道徳、法律、教育、言語、歴史、価値観、政治制度、生活方式など)のもつパワーのことで、その先進性と吸引力を発揮し、他人や他国に影響する力と解される。文化製品はその重要な媒体である。 |
人民中国インターネット版
|