中国での子育てが楽な三つの理由

 

 

筆者略歴
日本国際協力機構(ジャイカ)中国事務所(1999~2002年)
北京の日本大使館 (2004~2006年)
北京大学経済学部客員研究員 (2006~2007年)
 我が家は6カ月の息子と4歳の娘とともに北京で元気に暮らしています。ご存知の通り、こちらの子育て環境は、いろいろと難点を挙げればきりがないのですが、それでも私にとってはかなり楽です。その理由は三つ。ここには、寛容で子供好き、さらに大勢の人々が子育てに関わってくれる環境があるからです。

 

子供にはなぜか優しく  

 

大人同士では時に乱暴で、公共の精神には少々欠けるこちらの人々ですが、子供に関してはとにかく優しいのです。 旧正月前、娘を連れてラッシュ時の地下鉄に乗った際のこと。ドア付近で粘って立っていた女性が、力ずくで降りようとする乗客たちに押し倒されたのにでくわしました。ところが、この荒々しさとは打って変わって、この地下鉄で我が娘は、この日も席を譲られたのです。

 

大人同士には熾烈な生存競争が待ち受けている中国ですが、子供は別格扱いです。縁起物の絵にも、めでたい繁栄のシンボルとして子供が多く描かれている中国。子供の重視は、この国の伝統の一部なのかもしれません。

 

また、私が一人で二人の子供を連れ出すと、「貴女、一人だけか?」と心配されたり、「あんたは偉い!」と褒められたり。そしてタクシーの運転手は必ず乳母車の上げ下ろしをしてくれます。ふだん、私が一人でスーツケースを額に汗して引っ張っていようとも、自転車で転ぼうとも、誰も見向きもしないのに、いったん子供のこととなると俄然、親切な彼らです。

 

さらに、こちらでは子供が公共の場で泣いた時も、周囲から怒られないどころかむしろ、子供を泣かせては「かわいそうだ」と、心配されるくらいです。息子が泣いても、みんな寄ってたかってあやしてくれたり、有益無益、さまざまなアドバイスをくれたりと、日本とは全然違った騒ぎが起こります。総じて子供に寛容、とにかくこの一言につきます。

 

放ってはおきません  

 

お母さんだけでなく、お爺さんやお父さんも子育てにかかわっています

 寛容なだけではありません。人々は子供が大好きです。例えばレストランに連れて行っても、子供は歓迎されます。「抱っこしてもいい?」とウェートレスにあまりよく言われるので、夫は「これからは有料にしようか」と言い出すありさまです。

 

5カ月の赤ちゃんを連れて外食していた友人は、トイレから戻ってくると、従業員が家族を取り囲んでいる、早く帰れと威圧を受けているのかと思いきや、実は皆、赤ちゃん見たさに集まっていたとのこと。友人曰く「スターの親になった気分」だったとか。

 

大方この調子なので、親としては子供の「管理不行き届き」の心配なしに食事ができて、非常に好都合です。

 

中国人のエネルギッシュさ、元気さは良く知られる所ですが、そんな彼らはとくに子供に関しては有り余る関心を注いできます。

 

寒空の12月の朝、息子を抱いて歩いていると、前方からくる婦人が「足! 足!」と私に向かって真剣に叫んでいるではありませんか。案の定、息子の靴下とズボンの間からのぞいている素肌のことを言っていたのでした。中国の子供は、冬には両手が下がらなくなるくらい厚着するので、足が三センチといえども露出しているなんてもってのほかということでしょう。

 

また、息子の顔に湿疹が出た時も、何人に「××クリームをつけるといいわ」と言われたことか。とにかく子供といると「本当に色白ねえ」「この子太っているわ」(共に褒め言葉)「何歳?」と話しかけられ、決して誰も我々を放っておいてはくれません。

 

大勢で子育て  

 

もう一つ、こちらの子育てが楽な理由は、とにかく大勢が子育てに関わってくれる点です。中国ではあまり乳児を街に連れ出さないのですが、そもそもそれが可能なのは、ふだんから母親以外にも父親、祖父母、お手伝いさんら大勢が、子供の世話に関わっているからではないでしょうか。娘の幼稚園の送り迎えに来る人々を見ていても、母親が約半分、その他祖父母と父親が残りの半分です。

 

中国の老人にとって、孫の世話は老後の楽しみです。若夫婦が子供の世話を両親に頼むのは、ここでは自然な流れなのです。子育ては思いのほか重労働ですから、中国の老人のタフさには脱帽です。

 

また、お手伝いさんも身近な応援団です。娘のクラスでは五家族中一家族にお手伝いさんがいるほど、手軽にお願いできます。我が家の助っ人も、彼女の実の子と同様、ひょっとするとそれ以上に、うちの二人をかわいがってくれていて本当に助かっています。

 

さらに頼りがいがあるのは幼稚園です。朝八時から夕方5時まで三食付で、祭日以外無休、2歳半から随時入園可能で、子供が少々風邪気味でも、持参した薬とともに預かってくれます。共働きを前提とした環境が整っています。

 

このようにここでは野次馬的おせっかいを含み、みんな子供に関心があり、子供を大事にしています。この子供を受け容れる余裕と楽しもうとする元気さに励まされて、今日も私の子育てが続きます。 (斎藤 淳子=文・写真)

 

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