太極拳発祥地の陳家溝で生まれ、すべての太極拳の源流だといわれている「陳式太極拳」は、理論や套路(型)、器械套路、推手法、補助訓練法など、一連の体系がすでに確立されている。今月はこの「陳式太極拳」の基本内容、とくに套路と推手について紹介する。
陳式太極拳は伝承されていくなかで、その体系を豊かにし完璧なものにしていった。
理論については、陳王廷の『太極拳総歌』や陳長興の『太極拳用武要言』など多数の著書にまとめられて世に伝わっている。先人の思想の真髄が凝縮されたこれらの著書は、太極拳の研究や練習をするうえで貴重な財産だ。
豊かな套路
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壮観な「青竜偃月刀」 | 現在伝わる陳式太極拳の套路は、「大架一路、二路」「小架一路、二路」「新架一路、二路」などがある。器械套路は「単刀」「双刀」「単剣」「双剣」「青竜偃月刀」などがある。
套路は「大架」と「小架」に大別される。「大架」は陳長興が確立した套路で、動きのなかで描く円が大きい。そこから難しい動作をとりのぞいて形成されたのが「小架」。これは「大架」に比べ、描く円が小さい。陳有本が確立し、陳清萍が改良した。
どんな套路でも、動きのポイントは基本的に同じで、「松(緩)」と「柔」がベースとなって、「剛」と「柔」が互いに補い合い、「纏絲勁(らせん状の捻りを伴った勁)」を重視し、力を発するとき、震え弾きでるような感覚がある。
動作には「快(速)」と「慢(遅)」もあるが、一般的には、力を発するときや動作の変わるときは速く、動作の移行するときは遅い。また、「剛」も「柔」もあるが、動作の終わるときは「剛」で、移行するときは「柔」である。すべての動作は、「快」と「慢」、「剛」と「柔」、「開」と「合」、「曲」と「直」などの相対する要素が互いに依存し、転化するなかで行われ、途切れずにつながっている。
推手の極意
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「勢いに乗り力を借りる」「実を以って虚を破る」陳式推手 | 推手とは太極拳の組み手の一種であり、相手との協調や間合いを学ぶ練習方法だ。套路が一人で学ぶものであるのに対して、推手は二人でおこなう。
二人が手を合わせて、からみつく二本の線のように動くという独特の練習方法で、保護用具や設備がなくても、さまざまな武術の技法を学ぶことができる。全身の皮膚感覚や身体の感覚を磨くことができる競技でもある。
陳式太極拳の推手法は創始者である陳王廷が生み出した。明代の武術を受け継ぎ、それをさらに発展させて作られた。
最初の陳式推手は、「擒(捕らえる)」「拿(制する)」「跌(転ばせる)」「擲(なげうつ)」という動きをまとめたもので、レスリングのように姿勢は低く、動作は難しく、相手を傷つけやすかった。そのため、歴代の継承者たちは改善を重ね、今では、人を転ばせたり足をからませたりしなくなっている。 現在は相手の力の経路を制するだけで、経脈を抑えたり、関節をひねったりすることは禁止している。また、触覚と身体感覚を磨くことを重視している。
陳式推手の基本的な足運びは、一歩進んで一歩退くというもの。連続で進み連続で退くこともある。また、「己を捨て相手に従う」「引き込んで落とす」「己を知り相手も知る」という戦術を究め、「相手は自分のことを知らないが、自分は相手のことをよく知っている」という境地に達することを重要とする。
練習の際は、皮膚で相手の力の強弱や速さ、虚実、長短、動きを捕らえ、それに応じて自分も動く。
現代病にも効果あり
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推手は老若男女を問わず練習できる | 推手は太極拳の型や実際の使用の良し悪しを試すよい方法であり、練習者の腕をはかる唯一の基準でもある。基本的な太極拳の練習は、一人で能力を高めるものであり、「己を知る」段階であるといえる。そして、推手の技法を練習することで、「相手を知る」段階に入ったといえる。
『孫子』の兵法には「彼を知り己を知れば百戦殆からず」とある。推手は簡単に見えるが、実際には二人は「実戦」段階にあり、優れたバランス力のほか、技と力の密接な協調も必要だ。技と力がないと、効果的な作用を発揮することはできない。体力で競い合ってはならず、双方の力が均衡しているときは、柔が制するのである。
また、推手を練習することで、中枢神経系の働きや全身のバランスを調整できる。現代は生活習慣病が私たちの健康を脅かしているが、これは大脳が過度にストレスを受け、多くの精力を消耗しているからだと考えられている。そこで推手によって意念を拳の動作に集中させ、何もかもを忘れた境地に入る。これにより、心身ともに健康な状態を維持することができるのだ。
推手の上達には三つのポイントがある。一つ目は、簡単な動作からはじめ、だんだんと難しい動作に進むこと。二つ目は、自信を持ち、あきらめないこと。三つ目は、優れた先生に習うこと。( 鄭福臻 魯忠民=文・写真)
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