チャイナパワーと日中経済関係

 

  4月号の特集のキーワードである「チャイナパワー」を中国風に言うと、「気」の一語がふさわしいと思います。『覇王別姫』の名場面で、楚の項羽が「気は天を覆う」とうたったあの「気」です。今、チャイナパワーは世界を覆いつつありますが、ここでは、まず日本との経済関係からチャイナパワーを捉えてみたいと思います。

 

発展のカギは中国の対日投資

 

江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。

最近発表された2007年の日中貿易(注1)をみますと、中国が米国を抜いて初めて、日本にとって最大の貿易相手国になりました。輸入で一位、輸出で二位という結果ですが、これに大きく関わっているのが中国に進出した日本企業です。

 

日系企業向けに原材料・部品、中間財(半導体、電子部品、乗用車の部品など)を輸出し、その完成品(携帯電話、デジタルカメラなど)を輸入するというパターンが、日中貿易の拡大(9年連続して過去最高)を支えてきました。しかし最近、日中貿易は明らかに変化しつつあります。その点をまずデジタルカメラを例にとって説明しましょう。

 

一眼レフなどの高級タイプの中国への輸出、普及タイプの中国からの輸入が大きく伸びています。デジカメに限らず、完成品の輸出入といった水平貿易が、日中貿易で目立ってきています。近い将来、日本の道路を走る中国製乗用車を見かけるようになるのではないでしょうか。その車は、外資との合弁であったり、民族ブランドであったりするでしょう。

 

日本企業による対中投資が日中貿易の拡大を支えてきたわけですが、その対中投資は2006、2007年と2年連続して前年比大幅減となりました。2年間でほぼ半減という落ち込みようです。

 

2007年に実施されたある調査(注2)によれば、中国で日系製造業企業が今後「事業を拡大する」とする比率は66%と、決して低くはないのですが、2004年の調査では8割であったことから、毎年その比率は減少しているという結果が出ています。日本の対中投資は一巡したといわれ、とくに製造業ではこれまでのような大きな伸びは期待できない状況です。

 

幸い、富裕層の拡大、消費刺激策、輸入促進策などを背景に中国市場が拡大しており、高級デジカメや日本製乗用車などの高級品の対中輸出は好調だったわけですが、今後、日中経済交流の発展のカギを握るのは、中国企業の対日進出でしょう。日中貿易は垂直貿易から水平貿易へと相互依存関係が深まる一方、投資は日本から中国へのほぼ一方通行です。

 

 日本でメイド・イン・チャイナを


ハイアール社は米国ニューヨークのマンハッタンにビルを構えている

中国企業の対日進出は「時期尚早」とする識者は少なくありません。しかし最近、中国企業の対外進出に関し新たな動きを伝える報道(注3)がありました。舞台は米国ですが、中国企業の対日進出の可能性をみるうえで示唆に富んでいます。

 

2008年3月、家電最大手のハイアール社の米国工場で生産された冷蔵庫が、中国に輸入されました。ハイアール社は中国の海外進出のトップランナーです。進出先で製造した中国企業の自主ブランド製品が中国に輸出されるのは「改革・開放」の30年の歴史で初めての快挙です。

 

「30年前は、世界が中国のために製品を製造していたが、今や中国が世界のために中国ブランド製品を製造している。今後、中国ブランドが米国、イタリア、タイなどの海外工場で製造され、中国の消費者だけでなく全世界で消費されることになる」と報じられています。

 

対日進出した中国企業が製造した工業製品が日本市場で売られ、中国市場を含め世界市場向けに輸出される、そんな近未来を髣髴とさせるニュースといえます。進出コストは米国も日本もあまり変わらないでしょう。

 

進出コストには国民感情、慣習、文化的相違なども含まれます。そのため双方に、信頼関係構築に向けた真摯な姿勢が求められるわけです。日本が世界各地からの対日投資を奨励し、また、中国が海外50カ所に「対外経済貿易合作区」(注4)の建設を予定しているなど中国企業の海外進出を具体化しつつある今日、中国企業の対日進出で大いに「気」を発散させ、日中経済交流の拡大に結び付けてほしいものです。(日本貿易振興機構海外調査部主任調査研究員 江原 規由

 

  注1、注2 ともに日本貿易振興機構の調査結果による

  注3 中国証券ネット 2008年3月4日

  注4 「対外経済貿易合作区」については、本誌1月号を参照 

 

 

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