中国のエスニック翻訳

中国における翻訳は、中国語と外国語の間に限られるものではない。56の民族を擁し、多くの民族と多種の言語が存在するのは中国の特色のひとつである。漢民族のほか1億人以上に及ぶ55の少数民族がおり、80以上の言語、40以上の文字が使われている。

現在でも、70%の人が自民族の言葉しか使えないという少数民族地区も多く、95%以上を占める地区もある。

新中国成立以来、中央政府は一貫して民族平等と言語平等の政策を堅持し、少数民族の言語や文字に関する権利を法律で保障し、『憲法』で「各民族は自民族の言語文字を使用し、発展させる自由を有する」と定めている。

現在、ほとんどの少数民族地区では、民族自治区、自治州、自治県及び自治郷が設けられ、民族自治地域は全国面積の64%を占めている。民族の言語はこれらの地域の行政管理や文化教育、経済建設などの分野に、かけがえのない役割を果たしている。

経済グローバリゼーションの今日、多様化する文化の調和的な共存を守ることは、全人類の課題である。いかなる民族の言語も、その民族の伝統や創造、考え方、歴史、文化と密接に関わり民族文明を伝える手段であり、多様化する言語は文化の多様性の前提である。

中国では各民族間の言語翻訳が、歴史的に文化交流と宣伝に対して欠くことのできない役割を果たし、おもに少数民族政府が漢族の書籍を翻訳してきた。そして近代においては民族の英雄を讃える叙事詩、古典文学である『ジャンゲル』(蒙古族)、『ゲサル王伝』(チベット族)、『マナス』(キルギス族)、『福楽知恵』(ウイグル族)といった少数民族の優秀な作品、当代の少数民族作家の自民族の言語で創作した作品を漢語に翻訳して出版するなど、民族間における翻訳活動が行われている。

民族言語の翻訳は、中国及び世界の文学作品、科学成果、技術を少数民族の人々に伝え、少数民族地区の社会と経済発展にも役立っている。少数民族の文学、伝説、詩を漢語に訳して出版するのも、各民族の文化伝統と知恵に対する理解を深め、互いの経験を参考にし、学び合うことにより、中華文明の発展を推進することになる。

中国民族言語翻訳局・呉水姊局長によれば、現在中国の13の省・自治区に民族言語文字及び翻訳を行う民族言語文字委員会あるいは事務室が設けられ、全国で少数民族の言語文字を翻訳する機構は約300、翻訳を専業であるいは兼業で従事する人は約10万人に達している。

例えばチベット自治区で民族言語文字の翻訳に従事する人は約1000人、1年の翻訳量は5000万字以上、その内容は政府文書、地方法律法規、小学校から高校の各科目の教科書、科学読物、法律知識を普及させる書籍や『水滸伝』『西遊記』『紅楼夢』『千夜一夜物語』などの国内外文学名作に及んでいる。

また、民族言語の翻訳は少数民族の人々が平等に国事に参与し、国家の方針政策、法律法規を理解するために必要な保障を提供する。

全国各地の人民代表大会、政治協商会議及び各重大活動では、蒙古族、チベット族、ウイグル族、カザフ族、朝鮮族、イ族、チワン族の7つの民族言語の訳本が用意される。選挙と表決の投票用紙には漢字だけでなくこの7つの少数民族言語が書かれている。会場の同時通訳システムは8つの言語から選択可能である。

中国国内において、17の少数民族文字による新聞が100紙近く、11の少数民族文字の雑誌が73誌発行されている。中央人民放送局と地方放送局は16の少数民族の言語でニュースや番組を放送し、全国37の出版社は民族文字書籍を発行している。

少数民族の言葉で撮影あるいは吹き替えによる映画、ドラマは少数民族地区で非常に人気がある。例えば、新疆ウイグル自治区のテレビ局が人気の韓国ドラマのウイグル語版を放送すると、漢語(標準語)版がすでに放送されていてもウイグル語版の視聴率はきわめて高く、文化交流に対する民族言語翻訳の重要性が顕著である。

90年代から、中国翻訳協会民族言語文字翻訳委員会は相次いで新疆、内蒙古、チベット、吉林、四川、広西、雲南、青海、甘粛、黒竜江、遼寧、延辺などの省、自治区、自治州の民族翻訳協会と共に、全国民族言語文字翻訳学術研究討論会、語種学術研究討論会及び民族言語文字翻訳に関する優秀論文表彰会がたびたび開催され、民族言語文字翻訳者間の連絡と交流を促進、中国民族言語文字翻訳事業の全体的な発展を進めている。

 

人民中国インターネット版 2008年7月17日

 

 
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