多様化する文化とメディア
上海でまもなく開催される第18回世界翻訳大会のテーマは「文化の多様性と翻訳」です。翻訳とメディアの関係はこのテーマと密接な関係があります。翻訳者も記者も、最終的な使命は、人類の相互理解とコミュニケーションを促進し、人類の文明と文化を伝え、人類の社会文明の進歩と発展を反映及び記録することです。特に文化が多様化している今日、翻訳者も記者もこれまで以上の困難と光栄な使命に直面しています。より多くの人々がニュース、出版領域における翻訳の役割を探索及び討論し、絶えず翻訳のレベルを高め、メディアの活動を促進する必要があります。 30年余りの経験からわかったことですが、海外特派員というものはまず現地の言語に通じ、現地の文化を理解することが求められます。海外特派員はいい翻訳者であるべきですが、単なる翻訳者であってはなりません。翻訳者であることは海外特派員の最低条件にすぎません。翻訳、通訳いずれにおいても「信、達、雅」の基礎の上に、ニュースに対して敏感であること及び優れた文章力が求められます。観察、分析、判断能力に対する要求はさらに高くなります。 たとえば相手国の首脳を取材するとき、自己の理解のみに基づいて報道してはならず、もとの言葉或いは政府の公式文献にあたり、正確な翻訳をしなくてはなりません。 ――ご自身のご経験とあわせて記者と翻訳の関係をお聞かせください。 1985年、レバノンの南部の都市サイダの近郊の小さな村に取材に訪れたときのことです。イスラエルが撤退したばかりで、まだ火薬の匂いが充満していました。そこの方言は思っていたよりもずっと重く、付き添ってくれたメディア担当省の役人でさえ聞き取れないほどでした。現地の人にさらに方言の通訳をしてもらうほかはありませんでした。このときのことは忘れられません。いかに取材能力が高くても、現地の言語が理解できなかったら取材を進めるのは困難です。 レバノン駐在中には、ほかにも印象深い経験をしました。当時の国際社会では、ヒズボラの動向が非常に注目を集めていました。ヒズボラの精神的指導者であるフセイン・ファドラッラーが取材を受けてくれることになりました。私はアラビア語、ほかの2人はそれぞれフランス語、英語のできる3人の中国人記者で取材に行きました。非常に厳重な警戒で、いくつもの検問がありました。中に入ると、まず私が挨拶をしました。そのため彼は他の二人もアラビア語ができると思ってしまい、私の質問に直接アラビア語で答え、通訳する時間を与えてくれませんでした。彼はたっぷり2時間は話をしてくれたのですが、私は初めて同時通訳を経験しました。結果として取材は成功を収め、記事も好評を得ました。新聞記者たるもの、現地の言語の高い語学力を備え、精通していなくてはならないと、このときの経験に教えられました。 1991年の湾岸戦争のとき、国際社会は、ある西側の国が湾岸戦争終のクウェートの国際的な立場をどうするかに注目していました。ある公式の場で、私はその西側の国のある首脳を見送ったクウェートの外務大臣の近くに歩み寄り、アラビア語で質問しました。彼はその場でいくつかの質問に答えてくれました。アラビア語のわからない欧米の記者たちが注目する中、新華社は独占ニュースを手にすることができたのです。欧米諸国の同業者を非常に羨ましがらせることにもなりました。 ――メディアは本来、異文化間のコミュニケーションの役割を果たすものですが、メディアが誤解を引き起こしてしまうこともあります。このことについてはどのようにお考えでしょうか。 確かに、メディアが報道のプロセスにおいて理解を促進せず、かえって誤解をつのらせてしまうことがありますが、原因はさまざまです。そこには報道のプロセスにおける本来の意味に対する理解の食い違いが存在します。たとえばある文化の別の文化に対して存在する蔑視、或いは相手の立場に対する特別な偏見ですが、一般に相手の文化に対する理解の不足が、往々にして誤解を招く根本的な原因となります。その国の言語、文字に対する理解不足とも直接的な関係があります。その国の言語の文字を把握する能力に欠け、翻訳能力に欠けた記者の報道は、不本意にも事実との大きな違いを招くことになります。いかなる国のメディアの記者も、駐在している国や地域の真実の情況を反映したいと思ったら、まず現地の文化、言語のエキスパートになる必要があります。まず優秀な翻訳者でなくてはならないということです。 ――グローバリゼーションを背景に、英語以外の言語間の翻訳の意義はどこにあると思われますか。中国の海外特派員の情況はいかがでしょうか。 グローバリゼーションが進む昨今、国際交流とはそれぞれの言語の英語に対する交流であると考えられがちです。国によっては、上流の人々との交流に英語が役に立つかもしれません。しかし社会に深く入り込んで一般庶民と交流するためには、現地の言語を身につけなくてはなりません。伝説のバベルの塔は今日のイラクのあたりにありました。アラビア語を学ぶプロセスにおいて、(言語が混乱して通じないことの象徴とされる)「バベルの塔」の伝説に対する理解が更に深まり、今日私たちが文化の多様性を尊重するためにすばらしい啓示をもたらしてくれました。私が先ほど挙げた例も、多様化する文化を背景に現地の言語で直接交流を進めることの意義がいかに大切であるかということを説明しています。 中国は人材育成、特に記者の育成に関して比較的業績をあげており、すばらしいジャーナリストであると同時にすばらしい通訳、翻訳者がたくさんいます。ますます多くの中国人記者が海外特派員として英語と駐在している国の言語を習得している点も、数十年前とは違います。たとえば建国初期の我が国の多くの特派員は外国語ができず、通訳をつれて活動していました。しかし現在、海外で取材にあたる多くのメディアの記者にとって、現地の文化と言語をしっかりと身につけることは基本的な条件になっています。 ――中国翻訳協会が主催する世界翻訳大会にどのような期待をしていらっしゃいますか。 中国翻訳協会は中国の翻訳者組織です。メディア関連の仕事をしている人にも多くの会員がいます。今回の世界翻訳大会では、このプラットフォームを通じて、海外特派員を含む国内の会員と海外の同業者とが顔をあわせての交流を促進し、翻訳及び文化に跨る伝達のレベルを高めてほしいと思います。0807
人民中国インターネット版 2008年7月17日
|
人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。 本社:中国北京西城区百万荘大街24号 TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850 |