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PROFILE
1984年静岡県生まれ。現在、日本国費留学生として、北京大学国際関係学院に在籍。学業の傍ら、中国のメディアで、コラムニスト、コメンテーターを務める。著書に『七日談~民間からの日中対話録』(共著、新華出版社)
| 中国に「五方雑処」という成句がある。各地の人が一カ所に集まり、雑居する、という意味だ。北京の今を表現するのにぴったりの言葉のような気がする。
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首都北京には、東京のように、全国から人が集まる。政府の統計によると、2007年6月の時点で、北京市の人口は約1700万人。そのうち、北京の戸籍を持つ「固定人口」が1204万、それを持たない「流動人口」が510万人。つまり、だいたい3人に1人は「外地人」ということになる。ただ、現地に住む人間として、地方から出稼ぎに来る労働者、外国人などを含めると、「流動人口」はもっと多く、北京には常時2000万以上のヒトが共存しているように感じる。
日本語の「五輪」という言葉、よく考えたものである。「五輪」とは本来、仏教における人間五体、或いは万物を構成するとされる「地・水・火・風・空」のことだった。その後、シンボルマークである五色で表現した五つの輪から、「オリンピック」の略称として新聞社が考案したらしい。マークと言葉が見事に融合して、象徴的である。
中国では、「五輪」は通じない。中国語で、全称は「奥林匹克運動会」。英語の「Olympic「の当て字として、中国語読みしたものである。漢字自体に特別な意味はなさそうだ。略称は「奥運会」といい、人々はこちらを日常的に使う。
私は個人的に、「五輪」のほうが好きである。より明確に「五輪の精神」を反映しているからだ。近代オリンピックの象徴でもある五輪のマーク(オリンピック・シンボル)は、世界五大陸(ヨーロッパ・アジア・アフリカ・オセアニア・アメリカ)と五つの自然現象(火の赤・水の青・木の緑・土の黒・砂の黄色)とスポーツの五大鉄則(情熱・水分・体力・技術・栄養)を、原色五色と五つの重なり合う輪で表現している。それはまた、平和への発展を願ったものでもある。
北京五輪のスローガンをご存知だろうか。「同一个世界 同一个夢想(One World One Dream)」という。このスローガンだが、北京の街では「無処不在」、何処にでも在る。地下鉄付近、繁華街、胡同、万里の長城。北京市政府も、あらゆる場面、手段で宣伝し、地元での五輪開催を成功させるべく、努力している。その執念には感心させられる。
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2008年3月24日、ギリシャのオリンピアで、北京オリンピックの聖火の採火式が挙行された |
ただ、今日急速な発展を遂げる中国である。各国が疑問などを抱く中で、このような宣伝活動はときに誤解を招く。「One World One Dream」という英語名は、その一例かもしれない。
「同一个」は、「一つ」ではなく「同じ」、即ち、「One」ではなく、「Same」と「解釈」されるべきではないか。「一つ」だと、「中国は一つの世界、一つの価値観・形態しか認めない」というメッセージを、内外に与えかねない。実際のところ、中国という国家には、56の民族が共存していて、その文明は多様性に満ちている。「改革・開放」が打ち出されて30年も経た昨今では、文化面だけでなく、経済的、そして社会的にも様々な利益が混在している。中国は多様性を認めつつ、包容力を持って、柔軟に国家建設を進めていく。それ以外に、中国の選択肢はない。「さまざまな価値観やバックグラウンドを持つ世界の人々が、同じ世界で、平和と発展という同じ夢に向かって、ともに歩んでいく」という姿勢で、このスローガンに向き合いたい。
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昨今の中国を取り巻く国際社会を俯瞰してみると、五輪開催の難しさを実感する。北京市内の総合インフラ整備、チベットの問題及び聖火リレーでの困難。予断を許さない状況である。しかし、ここで改めて原点に立ち返ってみよう。第29回五輪の北京開催を決めたのは誰か。いうまでもなく、国際社会の成員が皆で決めたことだ。決して北京だけのものではない。その成功は、世界市民の願いでもある。
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「五輪」のシンボルマークのように、異なる色をした人々が手をつなぎあい、多様化を受け入れつつ、同じ夢に向かって駆け抜ける。そんな平和の祭典であってほしい。北京の空から祈っている。(加藤 嘉一=文)0806
人民中国インターネット版 2008年7月31日
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