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陳式太極拳 ③ 陰陽太極図

太極拳はその名の通り、「太極」の思想を取り入れた運動だ。そのトレードマークともなっている「陰陽太極図」は、誰もが一度は目にしたことがあるものではないだろうか。白黒の勾玉を合わせたような意匠となっており、中国ではこれを「陰陽魚」とよぶ。

河北省の省都・石家荘市に住む馬洪さんを訪ねた。同市の武術協会副主席、陳式太極拳研究会会長を務める馬さんは、82歳という高齢でありながら、動作は機敏で声も大きくてよく通る。

しかし若いころは頻繁に医者にかかっていたという。

馬さんは大学卒業後、教育関係の仕事に就いた。夜通し机に向ってものを書くことが多かったので、苦労が重なって体をこわした。

太極拳で健康に

1962年、中国医学の老先生にすすめられ、「身体療法」として太極拳を習い始めた。数年後、体は回復し、太極拳の腕もあがった。そして、太極拳に魅せられた。72年には上京し、陳式太極拳10代目継承者の陳照奎(1928~1981年)に師事した。

馬さんは、「私を太極拳の道に導いてくれたのは陳照奎師匠です。しかし私が最初に理論として太極拳を知り、こんなにも夢中になったのは、陳鑫(1849~1929年)先生の『陳式太極拳図説』のおかげです」と話す。

8代目継承者の陳鑫が著した『陳式太極拳図説』は、陳式太極拳の歴史と理論、技術を全面的に紹介したもっとも古い専門書だ。全4巻の和綴じ本、字数は合わせて20万字あまり、挿絵も数百点入っている。

馬さんによると、陳式太極拳は「易経の太極陰陽学説」「道家の養生術」「中国医学の経絡学説」「伝統の兵法」という4つの理論からなっている。なかでも、太極陰陽学説は太極拳全体の思考原則であり、『陳式太極拳図説』の第1巻のはじめの70ページは、易学と太極の陰陽原理について解説している。

天地万物の共通理念

太極図は、易学を研究する重要な図案だ。単純そうに見えて、その実は複雑。黒と白の2色だけで構成されているが、ここには天地万物に共通する規律と中華の伝統文化の核心理念が含まれている。

まず、太極図はひとつの総体である。このことは私たちに、すべてのものを全面的、総体的に見るよう教えている。

太極拳はまさに、「周身一家(体全体がひとつとなる)」「一動無有不動(一カ所が動くと全てが動く)」「牽一発而動全身(一部を動かすと全身に動きがおよぶ)」と強調している。「内不動、外不発(内が動かなければ、外には発しない)」「腰不動、手不発(腰が動かなければ、手には発しない)」なども、この理念による。

大きな動きでも小さな動きでもすべて、丹田(へその下)から発して全身を動かす。腰から胸、背、肩、両腕、両手へと伝わり、全身の勁(力)を一点に集中させる。

太極図の図形はまるい。太極拳も同じようにまるく動くことが求められ、動作は円か弧を描く。全身は、膨らんで弾力性に富む球体のようである。

対称、平衡の「陰陽魚」

太極図の「陰陽魚」は対称で平衡がとれている。太極拳も「剛柔相済(剛と柔が互いに助け合う)」「開合相寓(開と合が互いに宿る)」ことが求められており、動きは対称で平衡がとれていなければならない。

「陰陽魚」の黒い魚(陰魚)には白い目があり、白い魚(陽魚)には黒い目がある。これは、陰には陽があり、陽には陰があり、陰陽は互いに互いの根源となっていることを象徴している。太極拳も開のなかに合があり、合のなかに開があることを重んずる。

太極図のなかで、陰魚が膨らんで大きくなっている部分は、陽魚が小さくなり、陽魚が大きくなっている部分は、陰魚が小さくなっている。これは、相手が消すると自分が長じ、自分が消すると相手が長ずるということを示している。太極拳、とくに推手の技を磨くときは、この消長の規律を生かしてこそ、勝つことができる。

太極図のS字型の曲線は、螺旋状の動きを表していて、太極拳の勁や型もすべて螺旋状だ。また、あらゆる物事はすべてもう一方の面から着手するという動態を象徴している。

中国の書道や演劇も太極拳の勁と同じように、左を欲すればまず右から、上を欲すればまず下から着手する。ボールを高く跳ね上げたかったら、まずは下に強く突かなければならないだろう。これと同じだ。太極図の「陰陽魚」は緊密に融和し、対立する双方がおだやかに共存することを象徴しているのだ。

天地が交り、万物が生じる。世界のすべての物事は陰陽が交わって生じたのであり、その対立を統一することができなければ、離散や死にいたる。

太極拳を習う目的は、内と外をともに磨き、心と神をひとつにすることである。つまり、自身と外界の調和をとることなのだ。

陳鑫は書のなかで、「理を知ることは、太極拳の道に入る第一関門である」と述べている。馬さんはこれに対して、「その関門を突破するのは簡単なことではありませんが、とても面白い」と話す。(文・写真=魯忠民)0807

 

人民中国インターネット版 2008年8月4日

 

 

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