北京オリンピックで、最も人の心を動かすものは一体何だろうか?
何振梁氏(国際オリンピック委員会委員、中国オリンピック委員会名誉会長)は、「それはずばり、中国人。中国人の振る舞いだ」と答える。
確かに、東京オリンピック(1964年)やソウルオリンピック(1988年)の試合シーンやハード面での設備の記憶は薄れているが、これら2回のオリンピックでの日本人観衆の慎ましさや韓国人観衆の微笑みは、今もなお皆の記憶に鮮やかに蘇ってくる。
この意味で、各回のオリンピックは、超大型国際スポーツ大会であるだけではなく、開催国国民の特性が披露される場とも言える。これには、開催国の代表選手や彼らの振る舞いだけではなく、場内の観衆の振る舞いも含まれる。
北京が「人文(ヒューマニズム)五輪」の理念を発表すると、世界中から熱意ある反応がただちに寄せられた。金メダル獲得を呼びかけると同時に、モラル面での「金メダル」を手にする必要性も呼びかけたことで、全国民からの全面的な支持が得られた。
「礼儀の国」と呼ばれる歴史大国?中国にとって、「礼」は伝統文化を構成する重要な要素のひとつで、豊かで広い心や礼節謙譲を重んじる精神は、はるか昔から世界各国の人々に深い印象を残してきた。その一方で、一部のイベントや試合で見られた一部の中国人観衆の態度に、人々は憂慮を示した。
たとえば、アテネオリンピック(2004年)では、中国チームが出場するほぼすべての試合で、大会ボランティアが規定に違反する横断幕を携える中国応援団の行為を制止していた。仕舞いには、ただ「加油中国(中国ガンバレ)」と書かれた横断幕までが押収されるようになった。ボランティアは、「ここに何が書いてあるのか分かりません。しかし、中国人観衆は横断幕を掲げるのがあまりにも好きなので、漢字で書かれた横断幕を見れば、全てを制止するしかないのです」と説明した。
もうひとつの例。国家体育場「鳥の巣」で以前開催されたオリンピックテストマッチ「好運(グッドラック)北京」陸上競技試合で、劉翔選手をお目当てに来場した大部分の観衆から、出場選手紹介時にその他選手への拍手はほぼ皆無だった。劉翔選手が競技場から姿を消すと、試合はまだ終了していないのに、ほとんどの観客が帰ってしまった。
北京オリンピック三大理念のうち、「人文(ヒューマニズム)五輪」の実現が最も難しいと多くの人が考えている。しかし、「人文五輪」の実現は、オリンピックが成功するか否かを最も良く表す重要な指標となる。
「人文五輪」について、著名な学者である季羨林氏は、「素晴らしい中国文化の紹介?普及、同時に優れた海外文化の吸収」と解釈する。素晴らしい中国文化を紹介・普及することは、世界に「中国の故事」を広める機会であり、世界中の人々が5千年にわたる輝かしい中国文化の壮大な魅力を実感するチャンスとなる。中国文化は本来、開放的な精神を内包しており、北京オリンピックの開催は、中華民族にとって精神的洗礼の機会となり、中国人は、オリンピックを契機として、「平和・友情・進歩」を追及し、「より速く、より高く、より強く」の魅力を体感することとなった。
米国の有名黒人スポーツ選手・故ジェシー・オーウェンス氏はかつて、「人々は、スポーツを通して、試合経験だけではなく、他人への尊重、生活面での倫理、人生をいかに生きるか、同胞にどのように接するのか、といったことも学ぶことができる」と語った。確かに、オリンピック競技場にいるのは選手だけで、敵はいない。オリンピックは力と美の競技であり、生死を賭けた殺し合いではない。途中で諦めず、努力を積み重ねた結果、試合場に姿を現した選手達は、分け隔てなく尊重に値する人達で、だからこそ観衆は拍手や声援を送るのだ。
近代オリンピックの創立者?ピエール ド クーベルタン男爵はかつて、「オリンピックは、勝負に勝つことよりも参加することに意義がある」と述べた。この精神に則り、観衆は北京オリンピックの全関係者に熱烈な拍手を送り、世界各国の代表選手にオリンピック精神に対する観衆の深い理解を感じ取ってもらい、また中国の国民が、優れた精神状態や文明的素質を持つことを多くの人に知ってもらうべきだ。世界に堂々とした一大国の一致団結して前進する姿、古い歴史を誇る一民族の懐の深い開放的な精神、ひとつの調和の取れた社会の健全かつ文明的なムードを実感してもらうべきだ。
「今日、どんな決定が下されようとも歴史には残るだろう。しかし、歴史を創造できるのは、ただひとつの決定だけだ」-7年前、中国代表団による感動的な陳述によって、国際オリンピック委員会委員は2008年オリンピック開催地に北京を選んだ。
「世界がわれわれに与えてくれたのは16日間だか、我々は世界に5千年の時間をお返しする」-各人の高尚な自律精神にもとづく、5千年の文明に恥じない、偉大な時代に恥じない態度が観衆一人一人に期待されている。
「人民網日本語版」 2008年08月14日
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